転生したらフォルテだった件   作:雷影

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フォルテ達がひと時の平和を過ごす中、ヒナタ達も魔王達の宴(ワルプルギス)の結果を知る時。


91話 聖人の思惑

時は少し遡り、九星魔王(エニアグラム)が決まった頃。大雨が振り続ける西側諸国の自由組合(ギルド)本部…優樹の部屋でフットマン達がラプラスからクレイマンの死を聞かされていた。

 

「嘘だ‼︎そんな事がある訳がない‼︎嘘だと言ってください!カザリーム会長……!」

 

その報告は信じられず声を上げるフットマン

だが、現実は変わらずカザリームは口を開く。

 

「クレイマンとの繋がりが途絶えた。俺の子とも言えるアイツの魂を感じない。認めたくないけれど………妖死族(デスマン)にとって本当の………死だ。

 

カザリームは悲しげな表情でそう言った。

 

「うっ……!ううっ…………!」

 

それを聞いたティアは泣き出した。

ずっと共にいたクレイマンが死んだと聞かされたのだ。……無理はない。

 

(愚かで傲慢で…そして可愛いクレイマン。ゆっくり休みながら私達を見守ってちょうだい。必ず野望を実現してみせるから。)

 

カザリームは静かにクレイマンの死を悲しみ、クレイマンの死を無駄にしないと心に決めた。

 

「僕の失策だよ。魔王達を舐めてた。もっと慎重に行動を起こすべきだったんだ。」

 

そう言って優樹は立ち上がりタオルを持ってラプラスの元へと向かった。

 

「ほら、拭けよ。雨と返り血でずぶ濡れじゃないかラプラス。」

 

「……あんがとなボス。それと、ボスだけのせいやない。提案したのはワイや。まさか、こないな事になるなんてな。」

 

タオルを受け取ったラプラスは、拭きながらそう言うのだった。

 

「で、でもさ、ラプラスが無事で本当に良かったよ!ヴァレンタインって昔、会長と互角だった魔王でしょ?よく勝てたよね!」

 

泣き止んだティアは、ラプラスが無事だった事を安堵し喜んだ。

 

「……吸血鬼族(ヴァンパイア)の力が落ちる新月の夜やったしな。運が良かったんや。……それに、ワイはクレイマンほどアホやない。

 

「えっ………?」

 

ラプラスのクレイマンを侮辱するような突然の言葉に、ティアは唖然となる。

 

「ラプラス!そんな言い方はないでしょう⁉︎」

 

「事実や。忠告無視して、弱いくせに調子に乗るからアイツは死んだんや。」

 

「あなたという人は……ラプラス!」

 

クレイマンの死を悲しむどころか侮辱するラプラスにフットマンは怒り、ラプラスの顔を殴った。

 

殴られたラプラスは、血走った目でフットマンを睨む。

 

「何や……?やる気かフットマン?ええで!相手したるわ‼︎」

 

ラプラスとフットマンが互いに構え殴り合いが始まろとしたその時、カザリームが口を開き二人を止めた。

 

「やめろ、お前達!……悲しいのは皆同じだ。」

 

「そうだねラプラス。1人で悪役になるなんて、君らしく無いぜ?どうせならその役は、君達の雇い主である僕に譲って貰いたいね。」

 

そう。ラプラスは、皆がクレイマンの死に責任を感じないように、悪役となって皆の行き場のない悲しみと怒りの矛先になろうとしたのだ。

 

「そういう意図でしたか……。すみませんねラプラス。」

 

「それはええけど………バラされたらカッコつかんやんけ…。」

 

ラプラスの気持ちを知って謝るフットマン。

ラプラスは優樹にバラされ恥ずかしそうにタオルに包まっていた。

 

「あはは。可愛くないなぁそれ。」

 

重い空気が和らぎ、カザリームが口を開く。

 

「あの場所で何が起きたのかは分からん。だが、魔王ヴァレンタインの言い分では、クレイマンが死んだのは間違いないらしい。」

 

「ワイが聞き出せれば良かったんやけど………。」

 

ラプラスは、いつも通りの自分なら聞き出せていたかもしれないと思い、クレイマンの死を聞かされ侮辱された事に怒り、そのままヴァレンタインを始末してしまったことを悔やんだ。

 

「いいえ。貴方だけでも無事で良かったわ。」

 

『カザリームの言う通りだ。君まで失っていたら皆が悲しむ。』

 

カザリームの言葉に続くように、立体映像のDr.リーガルが姿を現す。

 

『リーガルさん。折角協力して貰ったのに申し訳ない。』

 

『気にするな優樹。私もリムルとフォルテの戦力を誤っていた。あのまま放置するのは危険と判断して、フットマン達が撤退後に試作段階の巨大レーザーマンを投入したのだが……見事に倒されてしまった。』

 

そう言ったリーガルの隣に、モニター画面が出現し映像が映し出される。

映し出された映像は、巨大レーザーマンが何者かの攻撃によって倒れる瞬間だった!そして、その者達の正体が獣化したトリルとD(ダーク)ロックマンだった。

 

「あれは、まさか獣化ロックマン⁉︎」

 

『その通りだ。F(ファルザー)の姿をしているのは、私もかつて作り出したD(ダーク)ロックマン…同一体ではないだろうがね。G(グレイガ)の姿をしているのは、黄色い身体のロックマンだった。おそらく、どちらもロックマンの力を再現したフォルテの配下であろうな。』

 

リーガルはそう思っていたが、まさかあのD(ダーク)ロックマンが自分が作り出した存在だとは思わず、トリルの存在も知らない故にロックマンの再現体だと判断していた。

 

映像は続き、巨大レーザーマンが二人に翻弄されながら攻撃されていき、止めの一撃によって消滅したところで映像は終わった。

 

「なんやあれ?暴風第妖渦(カリュブディス)並にデカい奴をあないに簡単に倒すなんて!」

 

「私達が去った後にこの様な戦闘があったとは…。」

 

「アタイもびっくりだよ…!」

 

ラプラス、フットマン、ティアの三人は、映し出された映像を見て驚愕するのだった。

 

「獣化ロックマンまで従えているとは、……やっぱりあのフォルテはとんでもない存在の様だね。」

 

『その通りだよ。私もあの様な者達まで従えているとは思わなかったからね。』

 

リーガルからの情報を得た優樹達は、改めて今後の方針について話し合う。

 

「………しかし、厄介な事になったな。」

 

「まあね。クレイマンに預けてあった拠点、軍勢、財産、宝石。その全てを失った。大損害だよ。」

 

優樹の言葉に、ティアとフットマンは不思議そうに声を上げる。

 

「えっ?どういう事?魔王達にクレイマンが殺されちゃったのが事実だとしても、本拠地は無事でしょ?」

 

「確かに、軍勢も崩壊しましたが、まだ巻き返しも可能でしょう?」

 

「それが、今日集まってもらった本題なんだよ。」

 

「クレイマンに預けてあった俺の拠点も、昨日一晩で落とされちまったのさ。」

 

「何やて⁉︎」

 

カザリームの言葉に驚愕するラプラス

 

「信じられない事に、あのスライムとフォルテは、ごく少数の配下を差し向けていたのよ。」

 

「嘘っ⁉︎」

 

「馬鹿な⁉︎それでは、あの戦場で見た魔人達が全戦力ではないと?」

 

これにはティアとフットマンは驚愕した。二人はあの戦場で、リムルとフォルテの軍勢を実際に見た。故に、他の戦力が存在していたと聞いて驚くのは当然だった。

 

「そう。あのスライムとフォルテは、戦場を囮にして、本拠地を叩く作戦に出たという事。」

 

『本拠地に監視用のジャミングマンを一体配置していたが、その映像が僅かだが残ったいたよ。』

 

そう言ってリーガルはモニターにその映像を映し出す。

映し出されたのは、アダルマンと朱菜とアイリスの姿だった。

 

『万物よ尽きよ!霊子崩壊(ディスインテグレーション)‼︎』

 

アダルマンが最強の神聖魔法を放った。

 

『それを…!』

 

『待っていました‼︎』

 

『ぬっ⁉︎』

 

『『霊子暴走(オーバードライブ)‼︎』』

 

アダルマンの魔法が別の魔法へと書き換えられていく。

 

『なっ………何ぃい⁉︎私の十分の一にも満たぬ魔素量しかない貴女達が私の魔法を上書きしただと⁉︎』

 

『貴方なら、私達以上に聖なるエネルギーを集める事が出来ると思っていたよ。』

 

『見事でした。覚悟を見せて頂いたお礼に、この地から解き放って差し上げましょう。』

 

『おお…!』

 

そして、朱菜とアイリスを中心に聖なる光が放たれ……映像が途切れた。

 

「……まさか、あのアダルマンの魔法を利用したっちゅうことかいな⁉︎」

 

「これほどまでの使い手がいたとは……。」

 

「アタイもビックリだよ。」

 

ラプラス、フットマン、ティアの三人はアダルマンすら倒した朱菜とアイリスの力に唖然となった。

そして、優樹が口を開いた。

 

「そういう訳で、今後の方針について計画を見直そうと思うんだよ。全ての作戦は一旦休止。手を出さずに様子見を決め込む。今は我慢の時かな。世界征服という野望を達成する為にはね。」

 

「賛成よ。私達は、少しばかり増長してしまっていたようだ。スライムとフォルテという予測不能な要素がある以上、暫くは大人しくしているべきだろう。少なくとも、今回の痛手がある程度回復するまでは…。」

 

「優樹とカザリームの言う通りだな。フォルテの力と戦力は、私の想像以上であった。今は無理せず力を蓄えるべきだと私も思うよ。」

 

優樹、カザリーム、リーガルの三人は今は動かず様子を見ながら失った戦力や財力の回復に専念するようラプラス達に話した。

 

「せやな………。」

 

「うん……。悔しいけど、今焦っても失敗しそうな気がするよね。」

 

「納得したくありませんが、ここは我慢すべきなのでしょうね。」

 

ラプラス達も優樹達の言葉に同意した。

 

「とはいえ、……やられっぱなしは癪だよね。クレイマンから全てを奪ったあのスライムとフォルテには、……少しばかり仕返しをしておこうと思うんだ。」

 

「えっ?でも今……暫くは大人しくしようって………?」

 

「手は出さないけど、口は出してもいいだろう?」

 

「何をする気なんだ?」

 

「やれやれ。また何か悪巧みでっか?」

 

「一つ……仕掛けてみようと思う。」

 

優樹は悪い笑みを浮かべながら言うのだった。

 

 

 

……優樹達との話し合いを終えたリーガルは、玉座に座りながら笑みを浮かべていた。

 

「優樹。君はやはり面白い。」

 

「おや。随分とご機嫌ではないですかDr.リーガル。」

 

そんなリーガルの前に、倉田明宏がやって来た。

 

「倉田博士、優樹がまた少し面白いことを始めようとしているのでね。」

 

「世界征服…彼には本当に共感するところがありますからね。」

 

倉田は邪悪な笑みを浮かべながらその言う。

 

「それにしても、フォルテとやらがあれほどの戦力を保持していたとは……やはり彼には我々のように異空間を生み出す能力があるようですね。」

 

「それは間違いないだろう。魔国連邦(テンペスト)では、あれほどの軍勢は確認出来なかったからな。」

 

そう。リーガルと倉田達は異空間内に自分達の拠点を作り出していた。故にいくら外で探そうが、普通の方法では見つけられないのだ。

 

「しかし、クレイマンが死んでしまったとは…残念ですね。」

 

「ええ。彼はシェードマンと違って実に良い協力者だった。……まぁ代わりの協力者は他にもいる。クレイマンが何故死んだのかも、向こうから連絡がいずれ来るだろう。」

 

「そうですねぇ。では、私は自分の研究に戻るとしましょう。」

 

そう言って、この場から去っていく倉田。

倉田が去っていくのを見届けたリーガルは、倉田や優樹よりも邪悪で黒い笑みを浮かべていた。

 

「……優樹に倉田よ。私の為に精々頑張ってくれたまえ。」

 

リーガルは優樹達に戦場でもう一体のレーザーマンが倒された映像を見せなかった……自分の研究に気付かれないように。

 

だが、二人はまだ知らなかった。フォルテの戦力が更に増大している事を……クレイマンの魂を、フォルテが握っている事を……

 

 

 

 

優樹達が新たな暗躍を企だてている頃、神聖法皇国ルベリオスの街の中をヒナタは歩いていた。

 

(神聖法皇国ルベリオス。この国は神に管理を委ねることで、完全なる平等性を実現している。そして、その神ルミナスの正体こそ、魔王ルミナス・バレンタイン。私が唯一敗北した相手…。)

 

    “道に迷った時は、私を頼って欲しい”

 

ヒナタの脳裏にシズさんの言葉が過った。

 

(あなたのやり方は手ぬる過ぎた。それにこれ以上あの人に甘えていては、自分は駄目になる。この世界で頼れるのは、自分の力のみ。そして、私は見つけた……私を強くしてくれる場所。)

 

それが西方聖教会だった。

 

(西方聖教会に入団し、一年で聖騎士(ホーリーナイト)に、二年で聖騎士団長となった。しかし、教会内部での地位が上がるにつれ、次第に教会の実態も見えてきた。そして、私は気が付いた。)

 

 

ヒナタは思い出す……ルミナス教の実態を知った日の事を。

 

「ふざけた話だわ。これがルミナス教の本質だなんて。」

 

ヒナタの前にいるのは、ロイ・ヴァレンタインと……もう一人、同じ顔の吸血鬼(ヴァンパイア)がいた。

ヒナタは強く剣を握り締める。

 

「こんな馬鹿げた宣伝行為(プロパガンダ)の先鋒になる為じゃない‼︎」

 

ヒナタは叫びながら二人に斬り掛かる。

 

(法皇の正体はルイ・ヴァレンタイン…そして、ルベリオスが打倒を掲げる鮮血の覇王であるロイ・ヴァレンタインは法皇ルイの双子の弟だった。)

 

真実を知ったヒナタは、当然許せる訳もなく二人に戦いを挑んだ。

 

ヒナタの剣とロイの剣が激しくぶつかり合い、その戦いの隙を突いてルイが魔法でヒナタを攻撃する

足元から出現する蝙蝠の群れを紙一重で躱すヒナタ

ルイはロイの兄…つまりロイと同等かそれ以上に強い存在。

魔王二人を相手に激闘を繰り広げるヒナタだった。

 

………そして、重傷を負いながらも、ヒナタはルイとロイを倒した。

 

「フ…フフフ。(ここまでか…。けれど、一つの邪悪は滅ぼせた。これで……。)」

 

だが深傷を負いすぎたヒナタも力尽き、その場に倒れた。

意識を失いそうになるヒナタ……すると、奥の方からこちらへと近付いて来る足音が聞こえてくる。

 

「なんじゃ騒々しい。妾の寝所まで騒がしいぞ。一体何をしているのじゃ。」

 

奥から聞こえくる声に、ヒナタは顔を上げた。そして、ヒナタの目に映ったのは、銀髪に右眼が赤で左眼が青のオッドアイの美しい女性だった。

 

(その時、私は初めて唯一神と崇められる存在に出会った。)

 

それが、ヒナタとルミナスの最初の出会いだった。

 

ルミナスは、ヒナタによってルイとロイの二人が倒されている事に少し驚くも、軽く息を吐いてからしょうがないとばかりに口を開いた。

 

「二人共、妾を置いて死ぬ事など許さん。」

 

ルミナスから膨大な妖気(オーラ)が放たれる。

 

(何を……?)

 

ルミナスの行動が分からないヒナタだったが、次の瞬間!

信じられない事が起こった。

 

放たれた妖気(オーラ)はそのままルイとロイの元へと向かうと、二人を包み込む。すると、何事も無かったかの様に絶命していた筈の二人が蘇ったのだ。

 

「え…(蘇った⁉︎)」

 

これにはヒナタも驚愕し絶句した。確実に死んだ者達を復活させるという神の技を見たのだから。

 

(終わった…私のした事は……。)

 

流石のヒナタも、深傷を負い体力も尽きたこの状況…諦めるしかなかった。

俯くヒナタ……そんなヒナタにルミナスは近寄る。

 

「お前もよ、人間。驕った考えを抱いたまま死ぬでない。」

 

そう言って、ヒナタの両頬に手を添えながら顔を見つめるルミナス。

 

「正義とは何ぞや?悪を挫く事か?仮にそうだとしても、妾の行いが悪かどうか、それを矮小な身で勝手に判断するとは何様じゃ。全ての自由意志を満足させる正義など無い。それを行えると考える方が傲慢であろうよ。違うか?

 

そう話すルミナスから暖かい光が放たれ、それを浴びたヒナタの傷が瞬く間に治癒された。

 

(傷が……⁉︎)

 

ヒナタが驚く中、ルミナスが再び口を開く。

 

「一週間やろう。妾の腹心達を倒せるお前なら、“七曜の試練”を乗り越えられよう。その時こそ、妾も本気で相手をしてやろうぞ。」

 

ルミナスの言葉を聞いたヒナタは、再び強い意志を取り戻した。

 

 

 

それから一週間後。

(私は簒奪者(コエルモノ)を用いて試練を乗り越えた。新たな力を得た私は、再び彼女の前に立ち、身命を賭して挑み……敗れ下った。)

 

ヒナタはルミナスの正体を知っていたのだ。そして、全力で戦い…敗北し自ら下ったのだ。

 

吸血鬼(ヴァンパイア)であるルミナス様達は、別に人間を食い殺すわけではない。ほんの少しだけ血を吸い取り、生気を糧にするのみ。上位の者であれば其れ等も必要なく、永劫の時を生きていける。人間が幸福であればあるほどその血の味は美味となるが、大量の生気を吸い取る事はルミナス様によって固く禁じられていた。この国の秩序と公平さは、他の西側諸国でも類を見ないほど保たれている。だからこそ、ルミナス様をお守りしなければならない。この理想郷を守るために。

 

ルミナスと出会い、ルミナスの言葉と力……そして、ルミナスが齎したこの平和な世界をヒナタは必ず守ると誓ったのだ。

 

ヒナタはルミナスとの出会いを思い返しながら奥の院へと向かっていた。

そして、階段を登り終えたところで、法衣を纏った男が立っていた。

 

「待っていたよヒナタ。」

 

「何の用かしらロイ・ヴァレンタイン……いえ、ルイだったかしら。」

 

「…仮にも同志に対して興味が無いにも程があるな。私はルイだよ。()()()のね。」

 

そう。待っていたのはロイの兄ルイ・ヴァレンタインだった。

 

「仕方ないでしょう。ロイも聖地では法衣を纏うし、貴方達双子のどっちがどっちでも、私の役目が変わる訳ではないもの。」

 

「……昨晩、ロイが殺された。」

 

ルイの言葉に、ヒナタは目を見開き耳を疑った。

 

「……冗談でしょう?ロイは魔王として魔王達の宴(ワルプルギス)に参加していたじゃない。」

 

「冗談で弟を殺すほど、悪趣味ではないよ。深夜に何者かが聖神殿に侵入したのは知っているだろう?」

 

「ええ…見つけたのは私だもの。すぐ逃げに回ったから陽動の可能性が高いと思ったのだけど。」

 

「確かに、そうであれば追跡は相手の思うつぼだろうな。だが侵入者は魔王達の宴(ワルプルギス)より帰還したロイを殺害し逃亡したようだ。私にはアイツの最後を感じ取れたが、目撃者はいない。駆けつけた衛兵は全滅だったのでね。」

 

「そう…。(ロイは決して弱くない。偽りの称号であれ、魔王を名乗るに足る能力を持っていた。)」

 

ヒナタはロイと戦った事がある故に、ロイの強さは十分知っていた。

 

「(つまり、あの道化は魔王(ロイ)以上に強かったということ…。)まぁいいわ。ルミナス様が無事だったのなら問題ないもの。」

 

「問題ならあるとも。脅威として暴れさせていたロイが死んだ。信仰心が薄れる可能性がある。」

 

ロイの死は色々と問題があるが、ルミナスが無事ならヒナタにとっては問題ないも同じだった。

 

「ところで、暴風竜ヴェルドラが復活したというのに、ジュラの大森林は安定しているようだな。」

 

「そうね。邪竜に関しては知らないけど森が安定しているのは、あのリムルというスライムと、フォルテという魔人を私が逃してしまったからでしょう。」

 

ヒナタの脳裏にリムルとのあの戦いと、フォルテに剣技で敗れたあの瞬間が思い浮かんだ。

 

「ファルムス王国の軍勢が滅ぼされたのは間違いなさそうだ。厄介な相手だったようだな。」

 

聖浄化結界(ホーリーフィールド)で彼らを捕らえたあの瞬間こそが、彼らを滅ぼす最大な好機だったのでしょうね。」

 

「君が獲物を討ち損ねるとは、同郷と訴えられて手心でも加えたのかね?」

 

「まさか、恩師の姿を奪った相手だと思っていたのよ?本気で殺すつもりだったわ。それに、ルミナス様の目的とあのスライムとフォルテの目的は一致しない。だから、彼らの言い分など聞かず、あの街を排除しようとしたのに。」

 

「天使が動く……か。」

 

「ええ。あのままの勢いで街を発展させたら、間違いなく動くわ。」

 

「それは面倒だ。次の天魔大戦では、完全勝利を目指したいものだしね。」

 

「そうね。そのためにも、時期が早まるのは困るのよ。」

 

「考えてみると、君が失敗したのは結果的には良かったのかもしれない。」

 

「どういう意味かしら?」

 

「ジュラの大森林に出現した脅威。これに対し、西側諸国は一丸となるだろう。ロイが死んだ今、人類共通の敵として活躍してくれると思わないか?」

 

「そう、うまくいくとは思えないけど。(ジュラの大森林が安定するのは望ましいし、人類と共存を望むなら、それはそれで好都合かも。でも…。)」

 

ヒナタは今回の侵入者が、このタイミングで現れた事に対してあの疑問を感じていた。

 

「私に情報を持ち込んだ東の商人だけど、昨夜も会う約束があったのよ。」

 

「ほう…タイミングの良いことだな。」

 

「ええ。あの商人は私を利用しようとしていた。だとすれば、リムルとフォルテという存在を消さなかったのは正解だったかもね。負け惜しみだけど。」

 

「我の準備が整うまでは、あの地を東に対する防波堤とする方が好ましいと思うよ。それもこれもあのリムルとフォルテとやらが、魔王達の宴(ワルプルギス)を生き延びられたらの話だがね。」

 

「そうね。果たして無事でいられるかしら。」

 

「直にルミナス様がお戻りになられる。慌てずとも、結果が明らかになるだろうとも。」

 

「あなたの弟が死んだとお伝えするのは憂鬱だけど。」

 

「荒れるだろうな。」

 

「私と違って、あの方は優しいから。」

 

「ふむ…。それを言うなら私も優しくないな。弟が死んだと言うのに、まるで悲しい気持ちにならない。」

 

 

 

 

ヒナタとルイが会話を終えてからしばらく経った後、ルミナスが帰ってきた。

 

「飲み物を。」

 

戻ったルミナスは執事にそう命じ、執事は直様飲み物の準備に向かった。

 

そして、ルイからロイの死を伝えられる。

 

「そうか。ロイが……バカな子…。」

 

ルミナスは何処か悲しげにそう呟いた。

 

「して、魔王達の宴(ワルプルギス)の方は。」

 

ルイがそう聞くと、ルミナスは苦虫を潰したかの様な表情を浮かべながらルイ達に話した。

リムルとフォルテがクレイマンを討ち破り、新たな魔王として認められた事を。

 

「……というのが、昨夜の魔王達の宴(ワルプルギス)のあらましよ。」

 

ソファーに寝そべりながら、フォルテが詫びとして渡した蒸留酒(ブランデー)を飲みルミナス。

 

「あの忌々しい邪竜が、どこまでも妾の邪魔をしてくれたわ。ロイもロイじゃ!

 

ヴェルドラに対する恨み言を言いながらロイに対して声を上げながらグラスを叩きつけるルミナス

 

「妾の目の届く所であれば、生き返らせてやったものを。」

 

いかにルミナスといえど、死亡してから時間が経過し過ぎた者…魂が消滅した者は生き返らせる事は出来ない。

 

「申し訳ありません。私が侵入者を取り逃したばかりに……。」

 

ヒナタは、自分が道化(ラプラス)を逃したせいだとルミナスに頭を下げるな。

 

「……良い。其方は復活した暴風竜に備えて、聖地の防衛に徹したまで。責めを負うべきは妾であろう。」

 

「いいえ。弟がルミナス様の期待に応えられなかった結果です。どうか、お気に病まれませんよう。」

 

ルイはルミナスせいではないと言う。それを聞いたルミナスは少し黙ると、再び口を開いた。

 

「………今は喪失を嘆いている時ではないな。邪竜は復活し、新たな竜種とリムルとフォルテという新たな魔王が誕生した。その対策を考えねばならぬ。奴らとの関係は、今後のルベリオスの在り用を決めるだろう。忌憚のない意見を述べよ。」

 

「はい。」

 

「心得ました。」

 

そうして、ルミナス達の話し合いが始まった。

 

「そのヴェルドラとやらを、私が始末してまいりましょう。」

 

「…ヒナタよ。そなたは確かに強くなった。じゃが、魔王リムルは兎も角、ヴェルドラには勝てぬ。」

 

ヒナタはルミナスの為にヴェルドラを始末する事を提案するが、ヴェルドラの力を知るルミナスは、ヒナタでは勝てないと言う。

 

「その通りだよヒナタ。あの邪竜は、それだけ凄まじい存在なのだ。」

 

「しかし、勇者によって封印されたのでしょう?」

 

「良いかヒナタよ。あれは意志を持つ自然エネルギーそのものなのじゃ。荒れ狂う暴風ならば、魔法で制御することもできよう。じゃが、あの邪竜には意志がある。並みの剣では切れず魔法も通用しない。そして、奴が暴れたその衝撃波は下手な魔法以上の破壊力を伴い地上を蹂躙するのじゃ。」

 

「あれは悪夢でした。あの美しかった夜薔薇宮(ナイトローズ)が、見るも無残な廃墟と化したのですから。」

 

「ルイよ、思い出させるでない。あの美しかった城も、今は記憶の中にしか存在せぬのだ。」

 

「ええ…。」

 

その時の事を思い出したのか、ルミナスは青筋を浮かべていた。

 

(それでも万が一の時は、私が斬る。)

 

ヒナタがそう胸の中で決意すると、それに気付いたルミナスが口を開く。

 

「ヒナタよ。妾は其方まで失いたくない。自重せよ。」

 

「はい。」

 

ルミナスにそう言われ、頷くヒナタ。

 

(リムルとフォルテを魔物だと断じて、会話を無視したのは失敗だったかもしれない。教義を守る意味でも、対応が間違っていたのだと思いたくない。でも、それすらも東の商人の意図なのだとしたら………忌々しいわね。もしかしたら、内通者が……。)

 

ヒナタは、教会内部に内通者が居る可能性を考えていた。

 

「それでは、新たに魔王になったリムルとフォルテは………。」

 

「放置する他なかろうよ。幸いにも、神敵とする触れを出しておらぬだろう?」

 

「ですが……。」

 

「何か問題でもあるのか?」

 

「あの魔物達が開発中の都市や街道が、天使の侵攻を早める可能性があります。」

 

「ああ………それがあったわ。」

 

天魔大戦

五百年周期で起こるその大戦は、天使族(エンジェル)の襲来から始まる。

彼らの目標は発展した都市。理由は不明でも、標的にされる条件は明確である故に、文明の発達に歯止めをかけさせる。世界共通の災厄といえる。

 

「羽虫に(わずら)わされるのも鬱陶しいが、リムルとフォルテと暴風竜共を敵に回す方が厄介よな。それに、あの者達が天使共の的になるなら対策も取りやすい。今は考えても仕方あるまいよ。」

 

……ルミナスが考えている以上の発展が、フォルテの手によって進んでいる事を今は誰も知らない。

 

「魔物は人類共通の敵というルミナス教の教義は、あの街が根本的から覆す可能性がありますが……。」

 

「邪悪な魔王として、我らの共犯者になってもらうのは?」

 

「無理じゃな。」

 

ロイの提案に対し、ルミナスははっきりそう言った。

 

「あのリムルとフォルテとやら、楽しく過ごせる国を造りたいそうじゃ。それには、人間の協力が不可欠だから自分達が守ると、大見得を切りおったわ。」

 

ルミナスは、二人にあの時のリムルとフォルテの言葉を教える。

その言葉とは………。

 

『さっきも言った通り、魔王なんざどうでもいい。俺は、俺達が楽しく過ごせる国を作りたいだけだ。それには人間の協力が不可欠だし、だから人間を守ると決めた。』

 

『リムルの言う通りだ。それを邪魔する者は人も魔王も聖教会も、全て等しく俺達の敵だ。』

 

「………とな。せめて人と交流していなければ、ルイの案も採用できたものを……。特に、あのフォルテの力なら相応しい役となっておったじゃろう。」

 

「フォルテという者は、それ程の力を持っているのですか?」

 

提案したルイが、ルミナスにここまで言わせるフォルテの力が気になったようだ。

ルイの問いに、ルミナスは口を開く。

 

「……彼奴は本気のミリムと対等に戦い、ギィに火傷を負わせたのじゃ。」

 

ルミナスの言葉にルイとヒナタは目を見開き驚愕した。

 

ルミナスでも手に負えない存在であり最古の魔王であるミリムと互角に戦い、ギィに火傷を負わせた聞いたのだから無理はない。

 

「ギィは彼奴の力を認め、凶戦士帝王(バーサークカイザー)と言う称号を与えた。妾もその力をこの目で見た故に納得しておる。」

 

「凶戦士……それほどの。」

 

(確かに、彼が途中で見せたあの笑みは戦いを楽しむ者の笑みだった。)

 

ヒナタは分身フォルテが見せた戦闘狂の笑みを思い出した。

 

「じゃが、彼奴はただ戦いを楽しむ愚か者ではない。あの邪竜から生まれた二体の竜種に礼儀なども彼奴が教え込んだようじゃ。邪竜から生まれたあ奴らは、邪竜の記憶も引き継いでおったそうじゃが、妾の都夜薔薇宮(ナイトローズ)を滅ぼした事を自分達の罪だと言って妾に頭を下げて謝罪してきおった。」

 

「なんと…!あのヴェルドラから生まれた竜種二体を教育したと言う事ですか?」

 

「そう言う事じゃな。フォルテは力だけでなく頭も回る。あのリムルもフォルテほどではないが、頭が回る存在じゃろう。」

 

「………それでは、今は様子を見るしか出来ませんね。」

 

「邪竜達が、リムルとフォルテによって大人しくしているなら、下手に刺激しない方が懸命でしょう。」

 

ルイとヒナタは、リムルとフォルテが力だけでなく知識的にも優れている厄介な存在であると改めて理解した。

 

「うむ。そうじゃな。下手に動かず、堂々としていれば良い。信者達には真実のみを告げよ。暴風竜ヴェルドラが復活し、逆風竜と電脳竜という新たな竜種が誕生したとな。」

 

「魔王リムルと魔王フォルテに関しては、どういたしますか?」

 

ルミナスの話を聞いたルイは、リムルとフォルテの対応をどうするべきか尋ねる。

 

「そうよな………。リムルとフォルテは、政治的な取引に応じる相手だろうし、また話す機会もあろう。西側諸国は上手く誤魔化しておくが良い。ヒナタもそれで良いな?」

 

「承知しました。」

 

ルミナスの決定に頷くヒナタ。そんなヒナタの顔は少し難しい表情を浮かべていた。

 

「遺恨が残りそうか?」

 

「少し。以前、あの者達を殺そうとしましたので。リムルは私を恨んでいるかもしれません。ただ…こうなった今、話を聞いておくべきだったと思います。彼らは話し合いたいと言っていたのに…。」

 

「そうであったな………。だが、妾と敵対するなど、あのリムルとフォルテは考えるはずはなかろう。それに……

ヒナタの恩師であるシズがそれを望んでおるはずはなかろう。」

 

ルミナスの口からシズの名前が出た事にヒナタは目を見開いた。

 

「シズ先生が魔王達の宴(ワルプルギス)に来ていたのですか⁉︎」

 

「うむ。フォルテの従者の1人としてな。レオンと何やら会話しておったが、話が終わる前にクレイマンの奴が来て魔王達の宴(ワルプルギス)が始まったのじゃ。」

 

シズさんが生きていた……それはつまり、東の商人は嘘をついていた事の証明となった。

 

「……ま、必要とあらば、神ルミナスの正体を明かして構わぬ。それで良いな?」

 

自らの正体を明かす…それはつまり、ルミナスはリムルとフォルテを認め信用していると言っている様なものだった。

 

「……善処します。」

 

こうして、ルミナスとの話し合いを終えたヒナタは、奥の院から出て戻る途中で東の商人について考えていた。

 

魔王達の宴(ワルプルギス)の夜。聖地の守護というルミナス様からの命がなければ、私は此処を留守にしていた。東の商人に情報があると声を掛けられていたから。もしそうしていたら、恐らく侵入者は奥の院まで入り込めたはず…。)

 

そして、ルミナスからシズさんが生きている事を知らされ、東の商人の情報が嘘だったと知ったヒナタ。

 

「(彼自身の思惑かそれとも、裏に何者かがいるのか…。)そう…たまたまどちらも失敗に終わったけれど、やっぱり私は利用されたってわけね。」

 

この時、ヒナタの顔はとても冷たい表情となっていた。

 

「やはり、むやみに信用するものじゃないわね。」

 

そう言って、空を見上げるヒナタ。

 

「自分の眼で直接確かめさせてもらうわ。リムル=テンペスト。そして、フォルテ=テンペスト。」

 

 

 

 

ヒナタとルミナスの話し合いから数日後の現在。

ファルムス王国では、魔国連邦(テンペスト)との和睦会議に向けての重要な会議が行われ、エドマリス王がディアブロが提示した三つの条件を皆に説明していた。

その中で、エドマリス王は去り際に見た魔国連邦(テンペスト)の平和な光景を思い出していた。

 

(穏やかで美しい街並みだった。あの光景の一部になるのなら…属国も、或いは悪くないのかもしれぬ。だが……無理だろうな。)

 

エドマリス王は自分の愚かさを悔やみ、魔国連邦(テンペスト)を平和な光景を見て属国になる道も考えていたが、ディアブロの命と自国の貴族の愚かさで無理だとすぐに諦めた。

そして、その愚かな貴族達が今言い争いをしている。

 

「属国なとあり得ませんぞ!事実上ファルムスの消滅ではないか!」

 

「我らの立場も守護されぬ上、魔物に従うなど!」

 

「では、賠償に応じると?星金貨金貨一万枚じゃぞ⁉︎」

 

「金貨にして百万枚相当…我が国の税収の20%に相当しますな……。」

 

「そもそも、国庫を開いても、そのような数を用意出来ぬわ!」

 

「左様!断固、徹底抗戦しかありますまい!」

 

現実を見れない貴族達は、愚かにも戦争継続の道を選ぼうとしている。

 

「ヴェルドラが相手ならば、西方聖教会が黙ってはおるまい!」

 

「あの麗人、ヒナタも動くであろうよ。」

 

「あの女狐か…。」

 

「勇者もいたであろう?」

 

「おお!イングラシア王国の閃光のマサユキか。」

 

「その通りじゃ。相手が何をされたか理解できぬうちに倒すと言う。歴代最強と名高い勇者ぞ。閃光の二つ名が伊達ではないと、ヴェルドラ相手に証明してもらおうではないか。」

 

「うむ。その心意気は良し!魔物共を駆逐してくれよう!」

 

「賠償金は王家が支払うべし!」

 

「魔物の要求など、断固拒否すべきだ!」

 

「ファルムスの総力を挙げ戦わず何とするか!」

 

愚かな貴族達は、西方聖教会のヒナタと勇者マサユキが共に戦いヴェルドラを倒す前提で話を進め、賠償金を支払うのなら王家の…エドマリス1人に押し付けようとしている。

 

………相手は天災(カタストロフ)のヴェルドラ。人間が太刀打ち出来る存在ではない事を十分理解している大臣達は、自分の保身や現行を全く理解していない貴族達の発言に頭を悩ませていた。

 

そして、黙って聞いていたエドマリス王が口を開く。

 

「良いか皆の者。余の考えを聞いて欲しい。」

 

エドマリスの言葉に大臣達や先程まで喚いていた貴族達が一斉に振り向く。

 

「この戦は失敗であった。余は民のためではなく、己の欲望のために進軍を決めた。賢く先を見た者達からの助言もあったと言うのに…。」

 

エドマリス王は心の底から悔いているのが、その言葉から伝わってくる。

そんなエドマリス王に声を掛ける者がいた……。

 

「兄上…いや王よ。誇り高き王が負けを認めるのですか?」

 

それは、エドマリス王の弟であるエドワルド公爵だった。

 

エドワルドの言葉を聞いたエドマリス王は急に含み笑いだした。

 

「フッ…くくくく……。」

 

「?」

 

「誇りだと?エドワルド。そんなもの暴風竜の前では、塵芥に等しいわ!」

 

その時の、エドマリス王の眼は血走り、恐怖に染まっていた。

エドマリスは思い出していた。……リムルとフォルテによって手も足もです蹂躙された五万の兵達の姿を。

その時の恐怖が、エドマリス王から他の者達に伝わるのではないかと思うほど、この時のエドマリス王の眼は語っていた。

 

「居合わせてなかった者も聞いていたであろう。余がどのような姿になって帰還したか。同じ目に会いたいのか?」

 

その言葉にエドワルドや貴族達は黙り込む。

無理もない。帰還したエドマリスは見るも無惨な肉塊の姿だったのだから。

 

「誇りも名誉も幾らあったところで、民の盾にはならぬ。だが卿ら全員に貴族としての誇りを捨てよと言うのは無理な話。魔国の属国に下るという選択肢は選べぬだろう。であるならば、我らに残された道は2つ。賠償に応じるか戦争の継続だ。余が言うのもなんだが……願わくば民のために選択してほしい。」

 

(あの欲深な王が……。)

 

皆はエドマリス王の言葉に騒めく。今までのエドマリス王を知る者達からすれば、あの王が民の為にと言うのが信じられないのだ。

 

皆が騒つく中、ミュラー公爵が手を上げ口を開いた。

 

「よろしいでしょうか?今朝方、私に届けられた書状です。あまりに重大な内容故、この場を借りて皆様にもお知らせしたく。」

 

そう言って、ミュラー公爵はその書状を取り出し内容を読み上げる。

 

「ブルムンド王国から発表された声明についてでございます。曰く……『ブルムンド王国は魔国連邦(テンペスト)を支持し、ファルムス王国の派兵を非難する。』……と。」

 

それを聞いた貴族達は。

 

「小国ごときが生意気な!」

 

「我らの敗北に調子づきおったか!」

 

「ブルムンドだけならまだしも、武装国家ドワルゴンが動けば厄介ですぞ。ドワーフ王ガゼルは、中立の立場を守るでしょうか?」

 

「いや問題すべきはその発言力よな。我が国の自由な取引相手でもある故、ガゼル王の機嫌を損ねるのまずいであろう。」

 

…ファルムスの貴族達はまだ知らない。ブルムンドやドワルゴンだけでなく、魔導王朝サリオンとも魔国連邦(テンペスト)は国交を結んでいる事を。

 

すると、会議室のドアノックされて、1人の兵士が慌てて入って来た!

 

「申し上げます!」

 

「なんじゃ!今大事な…。」

 

「お、お許しを!ギルドより最重要緊急伝達書でございます!魔王の勢力圏に大きな変動があったと!」

 

「申せ。」

 

人形傀儡師(マリオネットマスター)が死に、獅子王(ビーストマスター)天空女王(スカイクイーン)は魔王位を返上の上、破壊の暴君(デストロイ)の傘下へ!」

 

その内容は信じられない内容だった。魔王クレイマンの恐ろしさはファルムスの貴族でも知らぬ者はいない。そのクレイマンが死んだだけでなく、カリオンとフレイが魔王の座から降りてミリムに配下になった言うのだから。

 

「十大魔王は九柱(くにん)となり、これ以降“九星魔王(エニアグラム)”を称するとのこと。」

 

「エニアグラム…!」

 

九柱(くにん)…。」

 

「数が合わぬようだが、あと二柱(ふたり)は?」

 

「は…傾向が確立していないため、仮の二つ名だと思われますが……新星(ニュービー)”リムル=テンペスト。ジュラの大森林の盟主の1人が人形傀儡師(マリオネットマスター)を打ち破り魔王となったとのことです……!

 

 

 

な…何いいいいいい⁉︎

 

 

それは信じられない報告だった。あのクレイマンがスライムの…リムルに敗れ、そのリムルが魔王になった。つまり、ファルムスの貴族達は魔王を相手にすることになったのだ。

 

「後1柱(ひとり)は、暗黒皇帝(ロード・オブ・ダークネス)にその力を認められ、

凶戦士帝王(バーサークカイザー)の二つ名を授かったフォルテ=テンペスト!ジュラの大森林のもう1人の盟主です‼︎

 

………もう、誰も喋る事が出来なかった。最古の魔王に力を認められ、二つ名まで授かったフォルテの存在。

ファルムスは、魔王二人を相手に戦争を再びすることになる状況に、皆はもう唖然となっていた。

 

そんな中、エドマリス王が口を開いた。

 

「……決まりだな。聞いたか、皆の者。暴風竜以前に、魔王リムルもまたけして侮れぬ脅威。魔王クレイマンを一蹴するような化け物なのだ。そして、そんな魔王リムルよりも脅威となるのが魔王フォルテだ。それは、最古の魔王が認めた事で証明された。魔王フォルテの力は、新たな竜種二体も認めるほど強大……そんな者達に再び戦争を仕掛ければ、間違いなく国が滅ぶ。」

 

エドマリス王の言葉に、貴族達はもう口を開く事はできなかった。

 

「賠償に応じ、余は退位する。そして、後継者にはエドワルドを推す。」

 

「兄上…。」

 

エドマリスの言葉に、エドワルドは驚く。

 

「なんですと⁉︎」

 

「エドガー王子に引き継ぐのではないのですか?」

 

「この先、ファルムスには困難な時代が訪れよう。エドガーはまだ幼い。乗り切るのは難しいであろうよ。」

 

エドマリス王の正論に貴族達も納得した。

 

「王よ。私もそれが良いと考えます。」

 

ミュラー公爵も、エドマリス王の判断に賛成した。

そんな中、手で顔を隠しているエドワルドは誰にも気付かれぬよう笑みを浮かべていた。

 

「うむ。頼んだぞ我が弟よ。」

 

「…は。まずは皆の意見を聞かねばなりません。異論がなければ謹んでお受け致します兄上。(落ち着け…喜ぶのはまだだ。)」

 

エドワルドが必死に平静を装う中、その様子を見ていたラーゼン。

 

(…ここまでは予定通りだな。)

 

 

それから更に数日後。

歴史ある大国ファルムスと、ジュラ・テンペスト連邦国の間で終戦に関する協定が結ばれた。これによって、建前上はファルムス王国も魔国連邦(テンペスト)を国家として認めた形となったのだ。




ディアブロの計画通り進む中、再び暗躍を始める優樹達。
このさきどうなるのかお楽しみに。
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