明日やその先のことを考えていたら結構な時間が経ってしまった。
一つため息を吐いてから立ち上がり、脱衣場に出る。
丁寧に体を拭き、緑のカゴにタオルを投げる。
寝巻きを着るには早すぎる時間なので、さっき脱いだ服を着て部屋に入ると
見知らぬ女がいた。
その光景にまず目を疑い、次に自分の頭を疑った。
その後いやいやと目を疑う。
まあ現実を疑いに行ってもしょうがないので、事実を受け止める。
我が物顔で部屋にいるということは常連なのかもしれない。
なんせ先程「友達だから」という理由で部屋の鍵を貰ったばかりだ、可能性は捨てきれない。
「…ァ」
自分が口を開くよりも先にその女の子が話し出す。
「えっと……お兄ちゃん…で、いいんだよね?」
「…え…っ……」
いや
俺に聞かれても
知らんよ
「あ、あああ!し、知ってる!知ってる!あなた記憶喪失なんだよね!?そそ、そう!あなたは覚えてないかもしれないけど!私は妹なの!お兄ちゃんの!!!」
言い淀んだ口元を塞ぐかのように言葉のガトリングが飛んでくる。
妹なら、部屋の鍵を持っていても不思議ではない…か…
少し納得してからこの娘の容姿と自分の容姿を重ねてみる。
ちょっと考えて出た結論。
わかんね。
「ちょっと待ってて」
ベッドの上に置いてあった手鏡を取り、自分の顔と妹(暫定)の顔を交互に見る。
じっくり見てみると、目元がそっくりだ。
ただ、俺の頭には狐の耳などは生えていないが
よく分からないので、とりあえず質問攻めの刑に処す。
「名前は?」
鈴音「狐楽 鈴音です…」
名前は…まぁ複雑な家庭ってこともあるか
「年齢」
鈴音「16…」
「てことは高一、1つ歳下か」
鈴音「はい」
妹で歳が1つしか離れてないなんてことあるか?
まぁ複雑な家庭ってこともあるか(思考停止)
目を合わせないことに必死な鈴音の顔は真っ赤だ。
あまり人と話すのが得意では無いのかもしれない。
あまり気にせず質問を続ける
「なんで俺が記憶喪失だって知ってた訳?」
それまでへにゃっとしていた鈴音の耳がピンと立った。
十分赤かった顔が、更に赤くなっていく。
鈴音「えっ…えっとぉ…えー…そのォ…えー……」
赤い顔が泣きそうな顔になり、耳も元気が無くなった。
「………なんで分かったんだ?」
鈴音「う …う、「占い」ました…」
ダメ押しの一言に、ぐっと腹を括ったように目を瞑り、その表情には似合わないか細い声で白状した。
「占い?お前の能力ってことか?」
鈴音「はい…経験上、私の占いが外れたことはないので…」
能力は狐の獣化だと思っていたから驚きだ。
「じゃあその耳はコスプレかなんかか?」
鈴音「いや、これも能力の1部です…」
??????
頭に入っている知識と状況が合わない。
まあ一旦飲み込んで…
「そう…か……て、泣いてる?」
今気づいた、コイツ泣いている。
勝手に部屋に来て泣かれるとか正直面倒極まりないが、ずっと泣かれっぱなしも困るからどうしたものか、泣いてる鈴音の隣に座り考える。
鈴音「いや…その……占いで知ってはいたけど身内から他人行儀で話されるの…辛いなっ…て……」
あぁ、そう。
そうですか。
はい。
………うん。
「え、どうしろと?……あ」
俺も人の気持ちが読めない訳じゃない。
けど、出てしまった。
別に声に出す気は無かった。
そりゃあ辛いだろう。
朝起きて、日課なのかたまたまなのかは知らんが、身内に占いを掛けたら『記憶喪失です』と結果が出て
自分の占いの成功率が100%なのを知りながら、僅かな可能性を信じてこの部屋に来たんだろう。
ただ、だからどうしろと?
と思うのは必然だ。
ただ、言うべきでは無い。なかった。
鈴音の表情が、悲しみから絶望へと変わっていくのが見える。
鈴音「ア…~~ッ…」
「あ、え、あー……いや、あー…あら~…」
声にならない叫び声がする。
目から大粒の涙が零れる。
これはしょうがない。
俺が10:0で悪い。
これされたら多分俺でも泣く。
「ごめん、なさい…鈴音…さん…」
鈴音「…~ッ…ア…アァ…」
ダメだ、聞こえてない
あー…こういう時、どうすればいいんだ?
悩める乙女の機嫌が直る方法…
ダメだ。検索結果、0件
おーい、と顔の前で手を振るが、反応はなし。ホントに相当なショックなんだな
まるで子供みたいだ。
とは思ったが大声を上げて泣いている訳じゃないので子供の癇癪とは違うか。
子供、子供…
子供か…
よし。
「鈴音ちゃん泣かないでー、ほらいい子いい子~…」
鈴音の頭を撫でながら宥める。
さながら子供騙し、というところか
ただ、子供以上に効果があったようだ。
俯いて目に手を当て伏せた。
落ち着いたのかと思い鈴音の頭から手を放す。
それから少し経った後、鈴音の腕がこちらに来た。
おもむろに伸びてきたそれを拒絶することも警戒することもせず迎え入れる。
その腕は腰をがっちりと掴んできた。
鈴音はこちらに体勢を崩して俺に体を預ける。
こういうことを「抱き寄せる」と言うのだろうか。
なんてことを思っていたら、鈴音がくわっと顔を上げた。
急に顔が近いので思わず「うおっ」と声がでてしまう。
鈴音「お腹空いた」
「え…」
まるで作ってくれと言わんばかりの態度に愕然とする。
鈴音「あー傷ついたなーぁ…お兄ちゃんのせいでこんなに泣いちゃって~…」
その強かさと図太さ、嫌いでは無いがどうにかならんかね。
「作れるぐらい材料があるならいいよ。さっきのはまぁ流石に俺が悪かったし…」
と俺が言うとわざとらしいしょげ顔から一転、凄い無邪気な笑顔になる。
鈴音「足りなかったら買いに行こ!」
「じゃあ結局俺が作ることになるじゃねぇか」
すると鈴音は人差し指を立ててからニヤっと笑って言った
鈴音「ふふーん…それではここで衝撃の事実!冷蔵庫の中身、空です!」
なんかそんな気はしてたが…
これで買い物行き確定なわけだ
鈴音「いやーさっきお兄ちゃんがお風呂入ってた時にこの部屋は隅々まで調べ尽くしたんだよね~」
得意げな顔で解説を始める鈴音。行動が若干気持ち悪い
「この部屋に存在してるホコリの数とかも分かんの?」
純粋な疑問
鈴音「『占い』で見れば正確な数値が出るよ。まぁ
どっからどこまでをホコリとして見るかにもよるけどね」
そんなに万能なのか…恐ろしや占い。
鈴音「ささ!こんな無駄話してないでさっさとスーパー行くよ!言っとくけど私の好物は油揚げじゃないよ!」
冗談を言って話を切り上げる。
「金どうすんだ?俺は財布の場所すら知らんぞ?」
「あー」と鳴いた鈴音を横目で見ながら、体勢を直す。
鈴音「そうだねぇ。一旦自室行ってお金取ってこないと、お兄ちゃんの生前のお金使う訳にもいかないし」
鈴音は尻尾を使って今日に立ち上がる
「勝手に殺すな」
と言いつつ笑顔で立ち上がり、鍵を取って外に出る。
廊下の窓から差している日は煌々と照りつけていた。
お前の小説ハザード要素もリザード要素もゼロじゃねぇか!と言われればまぁそうとしか言えないのですが、次は影舌が出てくるんでなんとか