どれほど眠っていたのだろうか。
放浪者の安眠を邪魔したのは...
「まずは死傷者の身元確認を!」「そんなことをしてる暇はない!今はとにかく負傷者の治療を最優先にだ!」「ニシンの奴らはどうしてる!国軍は追い払えたのか!?」「生還者は一人。頭部の回収が三つです...」「一番隊ですらそれかよ...とにかく今生きてる者を最優先しろ!死者は戦力にならんのだから!」「最近臨時で入ったなんとかっつー奴らは何してんだまったく...!」
洪水のような怒号であった。
放浪者はいまだボーっとしていた状態の頭を一気に覚ます。
彼らの声が、現状の稲妻の惨状を表していたのである。
「おい!目が覚めたぞ!珊瑚宮様を呼べ!」
近くにいた抵抗軍の一人がそう叫んだ。
見るからに戦闘向きではない風貌だが、腰に掲げた武器には返り血がついている。
状況を把握するため、しばらくあたりを眺めていると、放浪者が寝かされていた洞窟の出口から桃色の髪をした女が現れた。
「あなたがゴローを助け、ファデュイ軍を追い払ってくれた方ですね。本当にありがとうございます。
お礼をしたいのですが、現在私たちには余裕がなく...」
「礼はいらない。僕が欲しいのは情報だ。全部話せ。それ次第で僕は身の振り方を考えるつもりだ。」
「了解しました。ですが、それだけだとあまりにも...その腕には...」
珊瑚宮心海は明らかに消耗していた。おそらくこの島を包む結界は彼女が張っているのっだろう。
放浪者としても、万葉の様子さえしれればよかった。
左腕は確かに痛手だが、この事態が解決した後ならどうとでもなる話だ。
「問題はない。とにかく僕は万葉という男を探している。お前のとこのゴローとかいうやつは知り合いなんだろう?いったいどういう...」
「万葉とお知り合いなのですか!?それは安心です。現在南十字戦隊の方々とは連絡がつかなくなっており、非常時はこの島で合流するようになっているのです。」
途中でまくしたてられた。だが、おかげで貴重な情報が手に入った。
とりあえずこの島にいれば、万葉たちと再会できる可能性は高いらしい。
「そこで...折り入ってお願いがあるのですが、今だけでよいのです。わたくしたち抵抗軍に加入していただけませんか?」
こういう流れになる予想はついていた。放浪者としてはここに加入するメリットは薄い。
より敵に意識されやすくなるからだ。
先ほどの戦いで認知はされただろうが、いまだ詳細は分かっていないはず。
しかし抵抗軍に加入してしまうとそうはいってもいられなくなる。
「それは条件次第だ。君の提案を飲んだ場合、いったい僕にどんな利点をもたらしてくれるんだい?」
「そうですね...まずあなたの探している万葉についての情報を発見した際、すぐにあなたに報告します。あとは...」
正直、加入する条件としては十分ではあった。しかし放浪者には加入を渋る理由があるのだ。
それは...
『あららこんな「些細な事」で怒っちゃったの?』
『間違ったことを言ったかな?浮世では人の命なんて雑草と同じなのさ。』
『邪眼がなくとも彼らは死んでいただろう。少なくとも、邪眼は彼らの「願い」を叶える機会を授けたんだ。』
「...」
放浪者の沈黙をどう受け取ったのか、心海は決心したような顔をし、口を開いた。
「もし、それで満足していただけないのであれば...はい。この戦いが終わったのち、この島をあなたに渡します。無論、島の一つであるこのわたくしも...」
「何を言ってるのです珊瑚宮様!」
すでに瀕死の状態であるゴローがこちらに向かって走ってきた。
「そのようなことなさる必要はございません!おい、お前!助けてもらったことには感謝するが、もし珊瑚宮様に手を...」
「一つ」
必死な顔で語ろうとするゴローを、放浪者の声が止めた。
それは重く、だがわずかにかすれたような声であった。
「確認をさせてくれ。邪眼は...どうなっている。使われているのか。」
「邪眼のことをご存じだったのですか。現在、わたくしたちは邪眼の取り締まりを強化し、発見次第、回収しています。
二度とあのような悲劇を繰り返さないためにも。」
放浪者はしばし逡巡した後、とりあえず加入することに決めた。
メカジキ二番隊
それが放浪者の部隊の名前だった。