「てめぇ!なんでここにいやがる!」
一斗が叫ぶが、夜蘭は応えない。
「海賊船のつぎがレジスタンス...放浪者という名前に負けてはいないようね。」
相変わらずであった。
「感動の再開に自ら水を差すとは、ずいぶん余裕なようだ。」
あの抵抗軍対象の少年より、こういう輩の方がやりやすい。
二人は似合った挨拶を交わした。
「にしても、お仕事がベビーシッターなんて、ていこ...」
夜蘭は言葉を詰まらせていた。理由は明白だ。気付いたのだろう。
「左腕...そう、あなたもう戦ったの。ということはもう状況はある程度把握しているとみていいのね。」
「あぁ、そちらも自慢のコートをくれてやったようだが、いいお買い物はできたかい?」
互いに沈黙してしまう。双方気遣ったつもりではあるのだが、そういうものには絶望的らしい。
「情報交換をする気はある?」
夜蘭が提案してきた。こちらとしても、なぜここにいるのか、ほかの乗組員...特に万葉の所在など、知りたいことは多い。
「いいだろう。僕の満足できる情報があるといいけど。」
二人はしばらく話し込んだ。
その間、予想外の闖入者に面食らった一斗は、メカジキ2番隊のメンバーたちになだめられていた。
夜蘭は受け取った情報を精査しているようで、こちらから口を開いた。
「そうか...神里家に。」
「えぇ、以前璃月で今代の当主と交流があったの。確かあの時はモンドの代理団長も...」
「君の選択は最善であったと言えるだろう。そこであれば間違いがない。」
つい上からな態度で接してしまった。夜蘭の表情が若干険しくなる。
「それで、その当主、神里綾人から珊瑚宮心海に伝言を渡したいのだけど、あなたもうその人には会っ」
そこで、弥助が飛び出してきた。
「おいおいやべぇぞ!俺らが目ェ離してる隙にあのあんちゃん消えやがった!」
「なっ」
確かに一斗の姿は消えていた。何をしていたのか尋ねると、荒瀧派のメンバー同士のけんかをなだめていたらしい。
なんとも素晴らしい団結力だ。
「ちっ僕は飛んでさっさと引き戻してくる!君は先に役目を果たすといい。」
そう言い終わらないうちに放浪者は空へと舞っていた。左腕がないせいか姿勢の制御がうまくできない。
右に転んだままの状態のような姿勢で後を追う。
行先はわかっている、鳴神島だ。
だがこの海祇島から行くには船に乗る必要がある。
「そこで足止めだ。奴の元素は岩、そう簡単に海を越える手段はないはず。」
海祇島の最東部についた。だが、あるのは美しかったはずの海と、そこら中に落ちてる死体だけ。
匂いを嗅いだら卒倒するだろうなと、放浪者はのんきなことを考えたのは、何度見渡しても一斗の姿が見えないからだ。
考えられることとしたら、一斗が別の場所へ向かったということだが、あの状態では荒瀧派のメンバーを救出するために鳴神島へ直行するに違いなかった。
「何か...あったのか。あの男の行動を変えるような何かが。」
正直放浪者としては鳴神島に突撃して勝手に宣戦布告さえされなければ一斗の安否はたいして重要ではない。そして海上にそのような姿はなかった。
ここまで来るのに相当力を使ったので、ゆっくり帰ろうと考え、歩みをすすめたところ...
『何か』違和感が生じた。先ほどまでと違う嫌な感覚。
悪い予感がする。このまま全力を尽くして戻るほうがいいのかもしれない。
すると、上空で一匹のカラスが島へと向かう姿を見た。
その鳥はやがて島の中心へと消えていき...
雷が落ちた。
「まずいっ結界が!」
そう、本来外敵から守るための結界が張ってあるはずなのだ。
あのカラスがそれを無視できたというのは、結界を張った本人、つまり珊瑚宮心海に不測の事態が起こっているということだ。
到着したときの敵との応対はいったん無視し、放浪者は全力でもどることにした。
(あそこにはあの女...夜蘭がいるはず。あの女が原因だという可能性もあるが、そんなこと考えだすとキリがないな。)
反乱軍の雰囲気を見ていればわかる。活気はもうすでに消え失せており、心海に不信感を覚えてる輩がいてもおかしくはなかった。
心海本人も気付いてはいただろうが、おそらく島の維持に精いっぱいでそれどころじゃなかったのだろう。
あとは、あのゴローという存在も大きかったはずだ。
彼こそが、彼の折れない姿こそが、がおそらく実質的に最後の砦だったのだ。
一番心海に不信感を覚えていた人物。
見当はつく。
すでに仲間を失い、反乱軍そのものへ愛着がなくなった人物の集まり。
───メカジキ二番隊
「それなら、そうだ。それならまだやりようはある。」
~少し前~
「すげぇ...あいつ空飛んできやがった。風元素だとあんなこともできんだな。」
「人探しは彼に任せるとして、私を珊瑚宮心海のもとまで案内してくれるのはあなたってことでいいのかしら?抵抗軍さん。」
「ま、抵抗軍の端くれだけどな。優しいもんで珊瑚宮様は余りものな俺らのことを気にかけて下すってるんで、案内自体はできるぜ。できるが...」
「あの空飛ぶ...放浪者とか名乗ってた新入りと違って俺らはあんたのことを知らんからな。璃月のねぇちゃん。」
「神里家の遣いってことは聞いてたはずだけど。」
「いやいやそんなんじゃ案内はできねぇよ。神里家が国軍...ファデュイに与した可能性だってあるしなぁ。」
「あら、神里家は民からの信頼が厚かったと記憶してるけど、反乱軍たちからするとそうでもないのかしら。」
「少なくとも、前の戦いで直接的に参加してるわけでないしな。事情は分かるが、あの神里綾人...様はちと秘密主義が過ぎる。」
夜蘭は別に珊瑚宮心海本人に会いたいわけでなく、この伝言の紙さえ渡せればよかった。これをこの抵抗軍たちに渡せばそれでいいのだが。
長年の隠密活動をしてきた夜蘭の勘が、それを拒んでいた。
今回稲妻に来た目的を果たすには──
「そう、ではこれを渡して頂戴。私も人探しに加わるわ。」
「あぁ、まかせてくれ。」
紙を渡し、数歩歩いたのち...
夜蘭は文字通り姿を消した。
絡み合う命の糸
尾行。夜蘭にとって最も得意とするものである。
紙を受け取った者たちの背後を尾行し、直接見届けることにした。
心海の大体の情報は聞いている。聞いた通りなら一目見ればわかるはずだ。
だが、この選択は夜蘭にしては珍しく、失敗に終わる。
そう、夜蘭は気付いていなかったのだ。
心海の結界は外敵、ファデュイから守るもの。
野武士くらいなら抵抗軍でも十分対処できる。
つまり、
許可なく稲妻人以外が通ることはできないものだと。