歯噛みする。
この結界をあの手紙を渡した抵抗軍が知るはずない。
そして、普通なら夜蘭の同行は結界の存在さえ教えれば阻止できた。
わざわざ信頼などを持ち出さなくてもよかったのだ。
つまり、隠していた。
ファデュイのスパイだとは思えないが、何かしらを腹に抱えている可能性が高い。
だが、夜蘭にはそれを防ぐことはおろか確認することすらできない。
打開策は、一つだ。
あの男、荒瀧一斗に頼るほかない。
一応知り合いだ。選り好みしている場合ではない。
だが、行方が分からない。
放浪者が探しに行ったが、まだ姿を現さない。
そういえば、放浪者は抵抗軍に入っていた。
話を聞いたところ、気が付いたら島の中にいたらしい。
つまり、放浪者は見た目通り稲妻人だという可能性が高い。
(神の目はスメールのものだった...このへんから洗っていけば正体をつかめるかもしれない。)
この状況でいまだに夜蘭は放浪者について探っている。
なにせ、神里家のものすら知らなかったのだ。
隠蔽ぶりが撤退しすぎている。俄然興味がわくというものだ。
だが今はそれどころではない。この状況を何とかしなくては。
友人の法律家がいれば話は早かったが、ないものねだりだ。
そもそも、結界を事前に知っていたとしてもこんな状態の国に連れてくるわけがない。
だが、夜蘭は時間を無駄にすることはしない。
島に入ることはあきらめ、自分にできることを始めた。
「約束してください、他のみなには危害を与えないと。」
「安心してくれ。別に同士討ちが趣味ってわけじゃねぇんだ。」
海祇島中心部
巨大な二枚貝の淵にて
「そんなに...わたくしは頼りなかったのですか。」
「いいや。あんたと、それに大将に不満はなかったさ。問題があるとすれば...情勢だな。
幕府軍の連中みたいにさっさと軍門に下りゃあよかったんだ。」
「そうですね。確かにそれが正解だったのかもしれません。ですが、私たちは常に正解を選べない生き物でしょう?」
「いまさら人間らしく振舞うなよ。巫女さん。先の戦いは奇跡だったんだ。あんたはそれを引っ張っているんだろうが。」
「話し合いの余地がないことは存じています。さぁ、好きにしなさい。」
「自暴自棄になるのはあんたの数少ない欠点だな。大事に思っている人のことも考えたほうがいいぜ。」
心海の体が宙に浮く。今体を支えてるのは弥助の腕だけだ。
ただ、首をつかまれた状態では支えというにはあまりに暴力的だが。
「い...よろしいのですか?わたくしの首で交渉するのでは?」
「誤解しないでくれ。さっきから誤解してるようだが、俺は至って普通の人間なんだ。生首なんて持ってらんねぇよ。
結界の解除とあんたの神の目。この二つがありゃあちらも察してくれんだろ。」
大将の神の目ももってくか。と付け足した。
「じゃ、この辺で退場してくれ。珊瑚宮様。俺あんたのこと好きだったよ。きっと、抵抗軍って枠組みがなくてもな。」
「それは、よいエネルギーになりますね...」
落ちてゆく珊瑚宮心海の体は、海祇島の「孔」へと吸い込まれていく。
そして、しばらくした後、海祇島に張られた結界は消滅した。
弥助は水元素の神の目を強く握る。
「地獄行は確定か。まぁ、せめて生きてる間は楽しくやらせてく」
「できると思うか」
突然、弥助の体が宙に浮く。
「なッ」
「情けない声を上げるな、下郎。貴様と同じことをしてるだけだ。」
「う、おいおい簡便してくれよ。俺ら仲間じゃねぇか。」
原因は明白。大急ぎで戻った放浪者だ。
「一足遅かったんじゃねぇか?ここで俺を殺したって別にいいことはないぜ。」
「言っておくが、僕は合理性で行動してるわけじゃない。無論、正義感でもね。
ほら、さっさと命乞いをしてみなよ。今僕が見たいのは君の後悔し無様に泣き叫ぶ姿なんだから。」
「てめぇ悪党だな。それも、俺なんか霞むくらいの。」
放浪者はにやりと笑う。その笑みは、知る人が見たらかつての姿に重ねていただろう。
「なんの申し訳もないなら僕はここで手を放すが。悪党には少々優しすぎる結末だ。」
「ちッ、ほかの連中は...まぁ、てめぇにゃ敵わねぇわな。」
「では、死n」
「糸よ、交錯せよ。」
とたん、放浪者と弥助の体を糸が縛り、地におろされる。
「なんのつもりだ。璃月の番犬。」
「私は私のするべきことを。あなたと私って別に仲良しではないでしょう?」
まるで、夜蘭が弥助をかばっているような構図だ。
「君は今神里家の遣いだ。つまり、そういうことでいいのかい?」
「好きに解釈してもらって結構よ。ただ、一つ言っておくと私の仕える人は一人だけね。」
「よくわかんねぇんだけど、あんたは俺を助けてくれたってことでいいんだよな?」
この場で一番動揺するのは弥助だ。無理もない。
先ほど騙していた相手に助けられてるのだから。
「私はこの男を連れて、稲妻城に向かうわ。こうなった以上、臨機応変に行動するのが賢明ってこと。」
鐘の音が響く。放浪者は臨戦状態だ。
「行かせるとでも?」
風が、収束する。
ナイフはすでに喉元だ。
「楓原万葉」
その言葉が発せられた瞬間、風に歪みが生じた。
「私は彼の状態を把握しているわ。ファデュイも上は優秀ね。一番最初にマークしているなんて。」
「何が言いたい。」
「思考の鈍りが見える。本当にあなた彼のこととなるとダメなようね。そんな弱み、もうちょっと隠した方がいいと思うわ。」
「つまり、見逃せと。でも、君を打倒したのちじっくり聞きだしてもいいんだ。拷問の方法なら心得てるよ。」
「彼が私の担保だと言ったら?」
「貴様とうにファデュイと接触していたのか。」
「では、私たちはここで退散させてもらうわね。あの可愛い大将さんのアフターケアは任せるわ。まぁ、もう戦えないでしょうけど。」
すると、弥助を抱えた夜蘭の姿は消えた。
「くそッ。」
「くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッ!!」
人形の叫びが島に響く。
じきにこの島はファデュイに占領されるのだろう。
それをすべて殺しつくすことはできる。できるが、それはなんの解決にもつながらない。
はき違えてはいけない。放浪者の目的は人助けではないのだ。
光に照らされた闇は薄まるが、、
光そのものへと変わるわけではないのだから。
笠っち...最高でした。
やはり公式からの供給は格別ですね。
ナヒーダ放浪者のやり取りも解釈ど真ん中です。