殴られるくらいは覚悟していた。
だが、放浪者の誠実さを汲んだのか、それともショックのせいか、ゴローは静止したままだった。
「僕は、もうここにはいられない。君も、早く逃げたほうがいい。住民が殺されるとは思えないが、大将がそうなるとは思えない。」
「逃げろ?俺に、みんなをおいて逃げろっていうのか!」
「そうだ。手助けはする。君独りじゃファデュイにはかなわない。」
「ふざけるな!あんな連中地を這ってでも...」
「先遣隊の話じゃない。この国には、少なくとも公子タルタリヤがいる。ファトゥスのうちの一人だ。
ファトゥスの位階としては最下位だが、並みの強さではない。それに、あいつがいる以上ほかのファトゥスがいてもおかしくない。」
「でも、それでも...見過ごすことは...」
「そうか。なら」
鈍い音が生じたのち、ゴローはその場に倒れこんだ。
「申し訳ないが、彼の友をみすみす殺させるわけにはいかなくてね。恨んでいいよ。」
放浪者はゴローを抱きかかえ、その場を後にした。
「さて、どこへ向かおうか。」
本当は稲妻城へと向かいたかったが、この状態では無理だろう。
それに、あの女の言っていたことも、今考えてみるとどこまでが本当なのか。
鈍る...本当にそうだ。
一番冴えなければいけない場面で鈍るのは改善せねば。
「とにかく、これを保護してもらえるところは...」
候補はあまりない。
そもそも、放浪者には稲妻に知り合いが少なすぎるのだ。
それに、どこが既にファデュイに取り込まれてるかもわからない、慎重にならなくては。
となると、候補は一つ。だが...
「あれ?お前、大将を止めに来た人か?」
急に声をかけられた。こいつは確か...
「お、やっぱそうだ!なんで抵抗軍の大将抱えてんだ?まぁいいや。そんなことより親分がいなくなっちまってよう。」
「親分...?あぁ、あの大男か。僕も少し探したが見当たらなかったよ。」
「いや、場所はわかってるんだよ。鶴見だ。」
鶴見...というと、確か霧に囲まれた島だったはずだ。
「あれ?知らないのか?今あそこの霧は晴れてるんだよ。それに神里家が避難所にしてるんだ。」
なるほど、ということは夜蘭が神里家の遣いということも嘘か。
そういえば、仕えるものは一人だとかなんとか言っていた気がする。
「俺もいまからむかうんだけど、お前も一緒に来るか?ていうかいてくれた方が心強いんだけど...」
「君は、取り残されたのかい?憐れだね。」
「なんだおまえめっちゃ口悪いじゃん...取り残されたっていうか、案内をするために残ったんだよ。」
「おーい!こっちだよー」
すると、岩陰から男がやってきた。
これは...鬼か?それも
「驚いたよ。まさか青鬼が残っていたなんて。」
「あぁ、どっかのお節介バカのおかげでな。」
「なんだ口悪い兄ちゃん鬼に詳しいのか。なら説明は省くぞ。そう、こいつを鶴見に案内する予定だったんだよ。」
「というかお前...まぁいい。なんだついてくるのか?」
正直、迷っていた。鶴見に向かう理由はとくにないが、ゴローをこいつらに任せて神里家に保護してもらうのも悪くない選択肢だ。
だが、安全が保障できない以上渋ってしまう。
なら放浪者もともに向かえばいいが、かなり遠回りになってしまう。
それに...
神里家に頼る権利が自分にはない。
そう考えてしまう。ならば、まだ嫌悪感はあれど別口に頼りたい。
「いや、僕はいい。遠回りはしてられないからね。ただ、一つ聞きたいことがあるんだが。」
「なんだよ、ついてこないのかよ。質問?んんん、よし、いいぞなんでも答えてやる。お前には恩を売った方がよさそうだ!」
意外と狡いやつだ。自分で言ってるあたりは素直だが。
「そうか、では鳴神大社は今どうなっている?」