「助けてもらったのは感謝するが、本当に島の皆は無事なんだろうな。」
「あぁ、よっぽど運が悪くなければね。」
「ほかに持ち方はないのかっ!俺は俵じゃないんだぞ!」
「キャンキャン鳴かないでもらえるかな。わざわざ君のために残った腕を使ってあげてるんだってことを忘れてるんじゃないだろうね。」
「そもそもなんで俺を助けた!お前ひとりで戦えるだろ!」
「勘違いしないでくれ、君を助けたのは楓原万葉を探すのに使えるというだけさ。」
大海に二人の声が響く。
こんな時でさえ、海の顔色は変わらない。
現在、海祇島東部を発ち、ヤシオリ島南部を迂回し九条陣屋を目指している。
直接上陸しない理由は単純。無駄な戦闘を控えるためだ。
多少無駄ごとにエネルギーを使ったが問題はない、そのまま鳴神大社まで飛んでいく予定である。
「どうせ万葉との関係についても語らないんだろ?まったくなんであいつにこんな口の悪い知り合いがいるんだ...」
「無駄話をする暇はない。彼の居場所の見当はつかないのかい?」
「わかるわけないだろ、来るとしたら海祇島だったんだから。でも、そうだな。もしあいつだったらとりあえずあの場所に寄るはず...」
「そんな代名詞ばっかで伝わると思うのかい、わんころくん?犬は動物の中でも知性が高いと聞いているが。」
「こいつ...!ったく、こんな時旅人がいれば...うわっなんだ!」
放浪者が急停止する。
「どうしたんだ急に!」
「いや、その旅人について聞きたいことがあるけど、今はそれどころじゃない。」
「敵襲か?」
「わからない、だが風がおかしい。いったい...」
「こんな海でか?弓もここまでは飛んでこないぞ?」
「...いや、これは」
すると、放浪者とゴローは何かに包まれた。
その「何か」の正体は、影だ。
「ぉぃ...おい!なんだあれ!上!」
「ついに...来たか。」
大海原のその上空。
放浪者とゴローの頭上に浮かぶそれは───
神だった。
より正確に言えば、神の残骸である。
つまり、七葉寂照秘密主。
放浪者が脱ぎ捨てた、スカラマシュの遺品。
「あれは...機神。」
「雷神を殺した機神だ!」
(そうか、ではやはりあの中にバアルゼブルが。)
「どうするんだ放浪者!あんなのと戦えるのか?」
(あれを倒す...できるのか?今の僕で。...だめだ余計な感傷が邪魔して合理的な判断ができない。)
「おい!何か言ったらどうだ!」
「思考の邪魔をするな。勝てない戦いをする必要はない。逃げるぞ。」
「はっ?うわああああ」
放浪者は持てるエネルギーすべてを使い、ヤシオリ島に飛んでいく。
どこにつこうが構わない。あそこには無数の洞窟があるので、隠れるにはもってこいだ。
『渦潮よ、逆巻け』
轟音ともいうべき声がしたのち、風が揺さぶられる。
相変かわらず巨体のわりに動きが速い。
逃げ切るにはスピードが足りないが、こんな不安定な状態で速度を出すのはまずい。
「おい、お前仮にも大将ならなにか攻撃できないのか。こっちは片手が防がれてるから攻撃ができないんだ。」
「言われなくてもやってる!だが...くそ、いまいち俺の元素と相性がよくない!」
機神本体が迫る。あんなもの、かすっただけで致命傷だ。
「あの風を凝縮する攻撃はできないのか?」
「できるが、あれをやったら僕ら二人は海の藻屑さ。」
(僕の時より操作がうまい!?まさかバアルゼブルがやってるわけでもないし、いったい誰が操縦しているんだ。)
ヤシオリ島が近づく。このまま突っ込めば、なんとかなる。
「おい目の前の崖に岩元素攻撃をして横穴を開けろ!そのまま中に入る!」
「正気かよ!そんなことしたら俺らぺしゃんこだ!」
「どのみちこのままじゃあれにやられる!いいからさっさとやれ!」
『焚毀』
機神から爆弾が降り注ぐ。本来は起動のおそい爆弾だが、改良型だろうか。
(着地点まであと400っここだッ式楽伍番!)
放浪者は前方に元素爆発を放ち、風のクッションを作る。
だが同時に児姿優風状態、つまり浮遊状態は解除された。
二人はヤシオリ島の洞窟内部へと、不時着──
いや、より正確に言うと墜落した。