辺り一面のファデュイは風に散った。
目的の鳴神大社まで急がなくては。
「おい、あれは一体なんだ。」
既に神無塚の東部九条陣屋の前に、放浪者たちは到着していた。
幕府軍が常駐していたそこは、今や別物であった。
「あれは...浪人たちの巣窟だな。」
「どうするんだあれ。俺たちが鳴神島へと向かうにはここを通り抜けないとだぞ。」
とにかく、鳴神島へと向かうのが最優先だ。
小型の船なら、ある。
「とにかく、下に隠れよう。九条陣屋の裏なら大丈夫なはずだ。」
もう時間は夜に差し掛かっている。二人はばれずに進むことに成功した。
「ふう、ひやひやしたな。」
「奴らが寝てる間にここを発とう。」
放浪者とゴローはその場に座り込んだ。
「なぁ、いい加減教えてくれ。なんでお前は万葉を探しているんだ?そりゃ俺だって心配だけど、お前のそれはなんだか...」
「言う道理はない。」
「本当そればっかだなお前。まぁいいや、それより、本当に鳴神大社に向かうのか?」
「怖気づいているのかい?」
「間違ってはないというか...」
「僕だってあんなとこ行きたくないさ。でも、現状を打破するためにはあの狐に会う必要がある。」
「そうか...そうだよな...」
「それより、上の方が騒がしいな。いったい何で盛り上がっているのやら。」
「夜になって見回りの野武士たちが帰ったんだろう。」
「いや、これは...」
「ったくよー冗談じゃねぇよー俺らが捕まえたのによー」
「仕方ねぇだろ、奴らから言われたんだから。」
「ファデュイの連中かよーあいつら人の国で好き勝手しやがってよー」
「その好き勝手のおかげで俺らはこんないい生活ができてるんだろ?」
「そうだけどさー」
「まぁ落ち着けよ。明日になりゃ俺らも参加できっから。紺田村の奴らは逃げねぇよ。」
「うるせぇ!さっさと食えてめぇら!」
「なんでお前がまとめてんだよー俺もう腹いっぱいだよー」
「しょんべんしてくるわ俺。」
「あぁ、ついでにあの親子の様子も見て来いよ。」
「ういーす。ついでに便器代わりにつかってやるか。」
「傷は付けるなよー」
「まずいっ一人がこっちに来るぞ!」
「奥に進もう。とにかくやり過ごすんだ。」
野武士が九条陣屋の下へと向かう、だが
「えーっと、どこだったか...あ、そうだこの穴。ったくわかりづれぇとこに作りやがってよ。」
放浪者たちに気付かず、抜け穴へと向かった。
(あんなとこに扉が!)
(いったいなにがあるんだ...)
放浪者とゴローが固唾を飲んでみていると
悲鳴が聞こえた。
「ったくうるせぇな。ちょっと遊んでるだけじゃねぇか。」
「お願いします!娘には手を...」
「知らねぇよ。オラ!」
「イヤ!いやぁぁぁぁ」
そう、九条陣屋の下には神無塚にいた人が幽閉されてたのだ。
彼ら野武士、浪人に誇りはない。
ただ、欲のために生きる者たち。
音が鳴り響く。
悦びの音と屈辱の音だ。
(..........)
(..........)
同じ隠し扉に入り身を潜めていたゴローは今にも口を噛み切ってしまうかのような表情でいる。
放浪者の顔色は特に変わらない。
「ここで騒動を起こせば間違いなく鳴神大社に向かうのは困難になる。」
「あぁ、わかっている...でも」
「安心しろ、僕だって感情があるんだ。」
「ん?おい!そこにだれが」
「黙れ。」
放浪者は、野武士の首を締めあげた。
「お前ごとき、元素を使うまでもない。」
「死ね。」
抵抗していた野武士の腕がだらりと落ちる。
「ここにいる連中。全員殺すか?だが、僕はここにいる連中に手を出してしまうのはまずい。彼らは仮にも稲妻人だ。」
「殺す必要はない。無力化してくれ。大丈夫だ、だってお前は抵抗軍だろ?大将がやれって言ってるんだ。」
「無理はしない方がいい。君にそーゆーのは似合わないよ」
ゴローは目を丸くした。
タイミングをうかがっていたのか、
「あ、あの...娘を助けてくれてありがとうございます。」
先ほど襲われていた女の母親が声をかけてきた。
「安心しろ、俺は抵抗軍のゴローだ。」
「ゴローさん!知っています。よかった。抵抗軍の人が来てくれたんだ...」
「あなたは...?」
襲われていた女は、放浪者に震え声で尋ねる。
「別に、なんでもない。ただの放浪者だ。」
「僕はこれから外に出てくる。お前はここの人たちをなんとかしてやってくれ。」
「お前ひとりでか?別に構わないけど。」
「では、よろしく頼む。」
「あいついつまで小便してんだー」
「どうせ盛ってるんだろ、あーゆーおとなしく見えるやつがいちばッ
なんだお前!」
「これから消えゆく人間に名乗る必要はない。」
九条陣屋を風が襲った。
「奴らを見つけましたぜ。九条陣屋だ。あの機神を使うかい?」
「いいえ、あれは今別の場所に向かわせているわ。そうね、【天狗】を向かわせましょう。」