放浪者の稲妻行 〜超巨大機神統治国家〜    作:旅人さんた

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弐 風説はまさに風のように

「それで、いったい何を話したいんだい?なかなかに面倒そうだけど。」

「あぁ、ちょっと待って。せっかく来たんだ。パフェを食べてくよ。きみは?ナツメヤシキャンディーを買っていたようだけど。」

「いや、僕の分はいらない。甘いものは苦手なんだ。これもただのお使いさ。」

 

 スメールシティの一角であるカフェの窓際では、二人が向かい合って話していた。

空気は伝染する。自覚はあった。放浪者──自分は、正常な会話をするのが苦手だということに。

 なにせ、長い間必要としなかった機能なのだ。錆び付いてしまってもしかたのないことだろう。

 まぁ、他人からの理解を求めようとは思わないが。

 

「さて、じゃあ簡潔に話すよ。僕とコレイ、そして大マハマトラのセノは少し前にモンドのお祭りに行ってきたんだ。えーっと、セノはわかる?」

 

 肯定の意を表明するため、うなずき、先を促した。

確か、よく草神に何らかの書類を持ってきていた姿を見たはずだ。

 

「よかった、まぁその時のセノは別の名義を持っていたんだけど...まそれはいいか。そしてその3人で帰路の途中璃月に寄ったんだ。」

「そこで稲妻におけるある噂を耳にしてね。ナヒーダ様なら何か知ってるか尋ねたかったんだよ。」

 

 噂...風説...ともかく、確証のない話らしい。そんなことを神に尋ねるなど、尋常ならざる事態ではあるが、それも草神の人徳によるものであろう。

 放浪者の思考を読んだのか、ティナリは苦笑しながら話を進めた。

 

「まぁ、別に嘘なら嘘でもいいんだけどね。でも、ことが大きすぎてさすがに聞き逃せなかったんだよ。」

 

 ティナリはそういうと、間をとるためかビスケットをひとかけらクリームにつけ、口へ運んだ。

 嫌にもったいぶった態度だ。これで大した話じゃなかったら机をけ飛ばすくらいなら許されるか...

 

「雷電将軍」

 

 放浪者の態度が露骨に変わったのを、ティナリは見逃さなかった。

レンジャー長を務めているからには、この程度の機微見逃すはずがないのである。

 

 実をいうと、先ほどからティナリはこの目の前の人物、放浪者には稲妻に何か浅からぬ縁があるのだということに気付いていた。

 それも、良い話ではないらしい。ことが深刻そうだったので、コレイをこの場から去らせたのである。

 反面、放浪者のほうは、自分の精神を見透かされているということに気付けるほどの心の余裕を持ち合わせていなかった。

 

 知らないふりをし、ティナリは話を続ける。

「...は、知ってるね。ご存じ俗世の俗世の七執政の1柱、雷神様だよ。」

 

「彼女が、失踪したらしいんだ。」

 

 

 話をまとめるとこうだ。

ある時、稲妻における統治機関、天領奉行の大多数を率いる、九条裟羅が城内を見回ってたところ、雷電将軍が海祇島に向かうと言ったらしい。

海祇島には抵抗軍の本拠地があり、今は表立った対立はしてないものの、幕府軍とは個人間で禍根が残ってる状態だ。

そんなわけで、九条裟羅は奇妙に思ったらしいが、何か考えがあってのことだと思い、追及するのはやめたそうだ。

そして、それから誰も...少なくとも鳴神島の人々は、雷神の姿をみていないらしい。

 

「って話なんだけど、同じ神である草神様なら何か知ってるかと思ってお聞きしようとしてたんだよ。別に、稲妻のことについてどうこうするつもりはないけど、なんというか野次馬根性みたいな感じかもね。それに少し前に教令院の連中が『何故か』稲妻風の巨大機神を作っていたということがあったじゃないか。何か関係があるのかと思ってね。まったく、稲妻と戦争でもしようってのかな。」

 

 ティナリは放浪者の顔色をうかがう。

長い沈黙が続いた。ティナリはこの間を利用しパフェを食べきった。

 

「仮に...」

沈黙を打ち破り、放浪者が口を開いた。ちょうどあと少しでティナリはこれを笑い話と断じ、店を出ようかと考えていたところだった。

 

「雷神がいなくなったとしたら、鳴神大社...狐宮司が対応するはずだ。それに、神とはいえ別に神同士必ずしも密接な交流があるというわけでもない。」

 

「そうか、ならいいんだ。じゃあ、時間を使わせて悪かったね。コレイが不快な思いをさせてすまなかった。」

「いや、人付き合いが苦手なのはお互い様だ。」

 

 そうして二人は店から去り、別れた。

 

ティナリは放浪者のことが少し気になってはいたが、無粋と思い、好奇心を抑えることにした。

 

そして、少し歩いたのち...

 

ふと、身に覚えのある気配を感じた。どちらかというと不快なものだ。

 

「うぅ、雨でも降るのかな...」

 

 ティナリはあえて気にしないようにし、彼を待つ者たちの元へと向かった。

 

 

 

 

関係ない関係ない関係ない───

 

 

 放浪者は反芻するが、先ほどの話が何度も脳をよぎってしまうのだ。

意識すればするほど、強く刻まれてしまう。

 

そもそも──

「そうだとしても、僕に責任はない。」

 

 放浪者は、国崩による何かしらの損害を受けた者たちによる糾弾はもちろん受け止めると決めている。石を投げられようと文句は言うまい。

 しかし、今度の場合は違う。まったく蚊帳の外だ。

 

 だが...スカラマシュと関係あるのかはわからない。

先の出来事によって放浪者自身のファデュイとの関係はなくなったが、人間の歴史というのは単純なものじゃない。

 記憶が消えた、はいおしまい。とはならない。必ずどこかにほころびが生じる。

そして、聡明なものの中には、そのほころびを追求しようとする者もいるだろう。

 

 なので、放浪者は一つだけ確認し、それ次第でかかわるかどうかを決めることにした。

 

 そう、七葉寂照秘密主の残骸の所在である。

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