「以前来たときはこんなんじゃなかったはずだ...」
鳴神大社へと通じる道、参道近くの岩陰へと到着した放浪者達は、あまりの違和感に立ち尽くしていた。
「お気を付けください。これは『魔』の気配です。」
「この感覚...頭がおかしくなりそうだ。」
(こいつらも感じている...つまり月日の経過じゃないのか...)
放浪者は二人の様子を確認した後、正体を探っていたが具体的な検討は付けられなかった。
「あまりの重ぐるしさにファデュイも入り込めないようだ。そら、そこで門番のように二人立っているだけみたいだよ。」
「あれくらいなら簡単に黙らせられます。わたくしが参りましょう。」
「いや、待ってくれ。あの宮司へとつながる道をこんな二人だけで守らせるとは到底思えない。なにか裏が...」
『その通りだスカラマシュ。事を急いで大事なものを手放すのはこりごりだろう?』
「......」
「笠っ放浪者さん?どうされたんですか?」
「なんだ、まだ体調が悪いのか?」
「いいや、何でもない。すまなかった。」
「とりあえず、あいつらは無視だ。君ら二人は僕が連れていく。ほとんど最後のエネルギーにはなるけど、想定通りならここさえ回避すれば戦闘にはならないからね。」
放浪者は少し遠慮気味に綾華を背負い、ゴローを俵のように持ち上げた。
(周囲に雷元素が漂っている。いまなら水元素を引ける可能性も高いはずだ。)
「天へと舞え」
放浪者は雷元素を帯びたまま、飛翔を開始した。
彼の背に浮かび上がる輪には、紫と青の光がともっている。
そのまま真上へと飛び続け、鳥居の続く道へと到着した。
「ありがとうございます。あの、大丈夫ですか?」
放浪者は明らかに疲弊していた。だが、
「問題 ない。早く、大社へ...」
(クソッ体力の低下とともに過去を思い出すところまで再現する必要はなかっただろう!)
苦しい過去。人間との決別の要因の一つでもある過去を放浪者は目の当たりにしていた。
「土足で妾の領域へと立ち入った狼藉者はここにおったかの、冬国からの使いか?」
その一言で、鳴神大社全体を覆う重苦しさは限界の域へと達した。
「お、お前!普段あんだけ俺をいじっていおいて、この局面でそれかよ!」
「狐宮司様、わたくしです。神里綾華でございます!」
「ほう、妾の好みまで把握しているとは。よほどのカラスがそちらにはおるようじゃの。」
放浪者は
うつむいたままだ。
「それ、何か発してみぃ、そこな人形よ。わが身の潔白を証明するもよし、今ここで狐に飲まれるもよし。妾は寛大じゃからの、選択は汝にまかせるとする。」
「お初にお目にかかります。あなた様に名乗る名を持ち合わせぬ非礼、お許しください。不遜にもあなた様の口を汚す機会をくださるのならば、この身は放浪者とお呼びください。」
「ほう、ここまで無駄にかしこまれるのも久しぶりの感覚じゃな。しばし遊戯に付き合ってやろうかの。して放浪者よ、妾に何を求めに来た?素性を明かせぬのならば目的ぐらいは明かしてみい。」
「信頼を得るのが先。素性とまではいきませぬが、これを見ればきっと理解されるはず。」
そう言うと、放浪者は裾をまくり、切り離した腕の断面を見せた。
「お主...まさか!そうか、そうじゃったのか。」
「目的は、二つ。この二人の保護と、助力にございます。」