放浪者の稲妻行 〜超巨大機神統治国家〜    作:旅人さんた

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参拾壱 二柱

何度目の裏切りで彼は人ではなくなったのか。

 

指定する必要はない。

 

過去の話をほじくり返したところで、どうせ世界は覚えておらず、当事者も今や別人だ。

 

ただ、他人ではない。

 

そんな彼は、生きる者にのみ関心を抱いているという。

 

なんとも勝手なことだ。

 

償いの意思を見せてる、殺される覚悟もあるとは言っているが、彼自身、本気で殺されることは想定していないだろう。

 

なんせよ、彼は逃げを選んでいる。

 

ある人が見ればそれは自らを裁く行為と思うかもしれない。

 

ただ、罪を犯した者にとって、その罪を抹消されるほど楽なものはないのではないか。

 

それに、世界はそんな単純じゃない。

 

今も、記憶の齟齬に苦しめられた男がこの世を去った。

 

光であふれる心の宿った、機械の中。

 

そのわずかに残る闇の領域で、男は思う。

 

ああ、お前は幸福だな。と。

 

 

夜蘭と万葉は立ち上がり、武器を構えなおした。

しかし、回復したとは言い難い状況だった。

 

「3人相手をしてはいられない、まずは貴様だ!」

 

九条の雷は、照準を絞り、万葉の体を再度貫いた。

 

「万葉ッ!」

 

「仔細ない。ただ、このダメージを見るに、このままいても邪魔になるでござるな。」

 

実際、万葉はもう元素力を扱う力は残っていない。

 

「神里屋敷の地下に向かってくれ!何かはわからないが、そこに行けばわかるかもしれない!」

 

「承知した。かたじけない、拙者も修行不足でござる。」

 

九条は、地に降り立った。

 

「あと二人、このまま一人ずつ始末すれば済むな。」

 

「君を助けられるかもしれない人を最初に選ぶとは、流石。愚か極まれりといったところだな。」

 

「そうね、これで和解の道は消えたわ。どのみち、救われることはないのだし。早く目を覚まさせてあげなきゃ。いい加減()()()()は嫌になってきたところよ。」

 

「自分から巻き込まれにいったくせによくもまぁそんなことが言えたもんだ。」

 

「あら?舌が回るようになってきたのは、彼が去ったのと関係あるのかしら?」

 

「ここで仲間割れしているようじゃ...」

 

九条の発言を、夜蘭が遮る。

 

「あなたのからだ(それ)、便利なモノね。私は...どうやら限界みたい。」

 

夜蘭の使う水元素の糸は、ほとんど切れかけている。

 

「死ぬ気はないんだろう?ならさっさと張りなおせ。かばう能力は、僕にはないぞ。」

 

「そりゃ、こんな島国の...海に分けられた場所ではね。あぁ、自らの立場を強くするためには弱みを見せてはいけない。きっと凝光ならもっとうまくやったのでしょう。」

 

最後に張っていた心の弦が切れたのか、夜蘭は再度その場に倒れた。

 

「やせ我慢か。」

 

「させたのはあなたよ。」

 

「そうだった。」

 

放浪者は九条に背を向け、夜蘭を抱える。

 

「少し、待っていてくれ。その辺の岩において来る。」

 

「普段の私なら待っていただろう。だが、今の私は...」

 

「そうか。やはり冷酷だな。()()()()()()()()()()

 

 

 

放浪者は、右腕で夜蘭を抱えたまま九条へと急接近する。

 

接近戦を迫られるとは思っていなかった九条は、想定外の行為に一瞬反応が遅れてしまう。

 

とっさに放った電撃は、先ほどまでの者とは出力が段違いに低い。

 

その電撃を、放浪者は自身の失われた左腕の断面へと浴びせた。

 

「なっ」

 

不可解な行動に、九条は困惑の表情を浮かべる。

 

「九条」の機械(からだ)に、放浪者の意識が接続される。

 

 

 

 

「そこにいるんだろう、博士(ドットーレ)。この機神(からだ)好きに使えよ。」

 

 

 

『ほう、気付かれてはいると思ったが、まさかこんな使い方をするとはな。』

 

『だがいいのか?この体、今の中身はともかくそのものは...』

 

「僕が気にするとでも?仕方ないだろう。ここまで付き合わせたこの女を...楓原万葉が安心できるように我慢してくれた女を死なせるわけにはいかないんだから。」

 

『そうか、では神の機神(からだ)ありがたく頂戴しよう。』

 

 

 

 

 

それまで「九条裟羅」だったものが、別のなにかへと置き換わる。

 

 

放浪者は、そのなりゆきを見届けると、夜蘭を連れて立ち去った。

その場に、笠を残したまま。

 

 

(人の身で、神の力を扱えるわけがないだろう。)

(九条裟羅本人は今頃どこかで寝かされているんだろうね。)

 

 

 

 

「九条裟羅」、つまり「天狗」は、九条裟羅本人ではなかった。

似たような人格を器に入れこまれただけのものだった。

 

 

 

 

 

その器こそが───

 

 

 

 

「そう、そういうことだったのね。バアルゼブル。」

 

 

「クラクサナリデビか。邂逅は意外と早かったな。」

 

「ええ、断片はすべて消させたはずだったけど、まさか彼の中にも入れていたなんて。」

 

「当たり前だろう、散兵の体のほとんどは私の研究成果だ。そもそも、断片は彼の体を参考にしているものだからな。」

 

 

 

 

その場に、二柱の神が向かい合った。

 

一方は、別の人格ではあるが。

 

 

「安心しろ、私も今回の用事を済ませたら消えるつもりだ。というより、そのために『私』を残しておいた。」

 

「そう、律儀なことね。」

 

「もちろんだ。神との契約だからな。」

 

そう言い残すと、雷電将軍──博士は、ナヒーダの目の前から消えた。

 

しばらくして、ナヒーダは落ちていた笠を拾い上げる。

 

そして、その中で必死に(おともだち)のお願いを守っていた妖精に感謝の言葉を伝えた。

 

「彼を見守っていてくれてありがとう。」

 

 

 

 

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