天守閣に居座る女は、特段特別なものでもない、ただの壁炉の家の一人だった。
そして執行官にあこがれ、中でも一人の魔女に執着した。そんな女が稲妻に訪れたのも、自然な流れであった。
『御前試合』
とある旅人に敗れた執行官は、約定の元処理された。
無論その話はファデュイ全体に伝わり、その後博士の断片も失われたという。
「教令院の最奥には、ファトュスの作った機械の神が眠っているという。」
そんな噂を耳にし、博士が持ち帰った草の神の心と結び付け、目的地をスメールに変更した。
雷神に相対するには、神の力が必要である。
そう考えた彼女は、その神を強奪しようとしたのだ。
平時なら到底無理なこと。
しかし、今の教令院は上層部の総入れ替えによりバタバタしていた。
情報屋で得たものと、過去、同じ壁炉の家にいた妙に奇術に長けていた兄妹の話を参考にすれば潜り込むのは造作もなかった。
そして、機神の内部に入った際、彼女はファトゥス...博士に出会う。
「もう、来たのですね。」
「あぁ、貴様のファデュイへの忠誠は素晴らしいが、今回は度が過ぎている。ここまでかき乱せば復讐も済んだだろう。」
「いいえ、まだです。さらに稲妻を崩壊させ、雷神に絶望を与える。あの方の無念はまだ晴れていない!」
「そうか、だが残念だがこれは自分自身に課されたものだ。あの機神は破壊させてもらう。内部に潜む『私』ごとな。」
「っ!」
「どいていろ、邪魔さえしなければ...」
「起動せよ!七葉寂照秘密主。」
眠っていた機神本体が目を覚ます。
放浪者が神里屋敷地下洞窟へと到着すると、そこで万葉は一振りの刀の前に座り込んでいた。
「なるほど、宮司様に感謝せねば。わざわざここに隠していてくれたのでござるな。」
「だが、やはり神の目は灯らぬ。稲妻の危機に、彼が何もせずにいられるはずがないのでござるが。」
万葉が放浪者の気配に気付く。
「そなたがここにいるということは、九条裟羅には打ち勝ったでござるか。」
「あぁ、ただおそらくあの機神が目を覚ます。そろそろ僕も向かわないといけない。」
「了解した、拙者もともに参るでござる。」
正直、放浪者にとってはこの場にいてほしかった。
だが、その思いを口にすることはなかった。
『私を使う場面はもっと遅くなると予測していたが。』
「申し訳ありません。ですが、敵があの方ならばこちらもと。」
『その判断は実に正しい。だが、』
『私の眠りを覚ました報いは受けてもらう。』
機神は、女を城外へと文字通り放り投げた。
『これで貴様も話しやすかろう。』
「ずいぶん尊大な性格の私のようだな。」
『神としてのふるまいをしているにすぎん。趣味ではないのだがな。』
「下手に取り繕うのはよせ、ここで貴様が消滅していない時点で貴様のそこは知れている。」
『貴様が云うか、それを。矮小な枝との契約なんぞ律儀に守りおって。そこまで怖いか、天理が。』
「ここにきてそのような言葉が出てる時点で底が知れているというのだ。まぁいい、なんにせよ貴様には消えてもらおう。」