「雑魚は任せた、流浪人!僕はあの遺跡守衛を壊す!」
「任されたでござる、放浪者。安心して背中を任せるとよい。」
璃月港までの道行は順調といえば順調だった。
ふたりは同元素なのもあってか、互いの戦い方を理解するのは容易だったようだ。
「放浪者、お主なかなかの手練れであるな。」
「君の戦い方が妙に馴染んだだけさ。」
妙に...で見逃していいほどの既視感ではなかった、明らかにこの剣筋には覚えがある。
ただ、追求するのはよした。こちらが放浪者と名乗り、相手は流浪人と名乗った以上双方それ以上でもそれ以外でもない。
そんな関係が気に入ってたのだ。
「おい!貴様ら、璃月に向かいたいのか?」
「ここを通りたけりゃモラを支払いな。」
前方から声がかかる。これこそ、聞きなじみのある声だった。
「ここを通りたけりゃモラを支払いな。」
ファデュイの先遣隊だ。自分を棚に上げてどうこう言う気はないが、先に手を出してきたのなら、仕方がない。
「無粋な連中だ。まったく、いつになったら君たちは相手との実力差を戦う前から判断できるようになるんだろうね。」
「本当に風情がない連中でござるな。痛い目を見なければわからないと見える。」
二人が臨戦態勢に入ろうとすると、
「はっはっは!元気なのはいいが、出航の前から疲れるつもりか?船旅をなめてもらっちゃあ困るぞ。」
眼帯をし、船乗り...というには少々物騒な風貌の女が口を出してきた。
「姉君!ここにいたでござるか。璃月についたのち、探す手間がはぶけたでござる。」
「凝光との話し合いが早く済んでな。波を読んでいたんだよ。何せ今回はお客さんが大ぞろいだ。安全確認は大事だろ?」
「お客...でござるか?当初はそんな予定はなかったはず...」
「詳しい話は璃月についてからにしよう。ほら!そこのファデュイ二人も連れてってもらいたきゃ、おとなしくしてな。」
~璃月港西部~
港には、本当に大勢の人間が集まっていた。人物の多くは稲妻人のように見える。
急に鎖国されたのだ、無理もない。
「いやー始まりはな、私たちが船の準備をしていたところ、稲妻まで連れて行ってほしいとファデュイの二人に声をかけられたんだよ。
でも、いくら海賊とはいえファデュイを連れて行くわけにはいかないだろ?ってことで、凝光に相談をしたんだよ。
だが、どうやら話は伝わったみたいでな。さすが凝光。壁に耳ありってのは本当みたいだ。」
「それでファデュイを連れて行くと?ちょっと認識が甘いんじゃない?」
おもわず口を出す。ファデュイを他国へ送ることが、どういうことかわかってるのかこの女は。
「まぁ、アタシは海賊だからな。もちろん条件付きだ。璃月にいるファデュイメンバーの3割を本国に戻すこと。ってのでね。この璃月では反ファデュイ的な思想を持つものが増えてるからな。
こっちとしては万々歳らしい。」
なるほど、それならフェア...いや、そこまでして稲妻にファデュイを送りたいということか。やはり当ては外れてないようだ。一層警戒しなくては。
「なるほど、それがファデュイへの条件。そしてこの客人たちが、姉君への条件ということでござるな。」
「察しがよくて助かるよ。というより万葉、てっきりお前はこの状況を知っているもんだと思ったぞ。そちらの生意気そうなやつ、それもお客だろ?」
「まぁ。間違ってはないでござるな。紹介が遅れた。こちらは死兆星号の船長、北斗の姉君でござる。」
「放浪者だ。よろしく。」
要は天権から璃月滞在の稲妻人を稲妻に送ってやることが、この女へのファデュイ送りの条件で、ファデュイへの渡航の条件が、3割削減とのことらしい。
「では、君自体のメリットは?今のところただ送るだけのようだが?」
そういうと、
「璃月には、北国銀行があるだろ?」
と自慢げに返してきた。
「野郎ども!もうすぐ出航だ。ん?何騒いでやがる?」
「だーかーらー『天権』様から許可されてんだっつーの。適当ぶっこいてるようなら、千岩軍よんでもいいんだぜ!」
「あら?海の男が、統治機関それも『牢固』に頼るなんて、皮肉なものね。」
目をやると、船員たちが確かに騒いでいた。騒ぎの中心には、一人の女がいる。
「夜蘭!なにやってんだあんた。凝光からの伝言か?あんまうちの船員にちょっかいかけないでくれよ。」
「やっと話ができる人物がでてきたわね。私もこの船に乗ること、それが凝光から出された最後の条件よ。」
「おいおい!聞いてないぞ。あいつ...勝手に付け加えやがって。」
「そちらもこちらの把握してない人物をおくるようだけど?私が乗船しないとなると、帰って凝光にしらせることになるけどいいかしら?」
そういうと夜蘭と呼ばれる女性はこちらを向いてきた。
「あなた、名前は?」
「放浪者だ。ここで名乗るのはそれで充分だろ?」
「身元が分からない人物、それも名前すら明かさないときてる。これで充分といえるようになるにはあと数日、璃月での滞在が必要ね。」
「こちらも君の素性は夜蘭という名前しか聞いていないけど?あ、千岩軍でもない...それで天権の遣いとなると、秘密裏に飼われている狼ってところかな。いや、コソコソするのは草スライムか?」
緊張感がこの場の空気を包む。
両者にらみ合ったまま引くそぶりを見せない。
沈黙を破ったのは、北斗だった。
「まぁいいじゃないか、夜蘭。こいつは万葉の客だ。ケツは万葉が持つってことで。」
「というか、この航海はおそらく普段通りとはいかなそうなんだ。仲良くしてもらわなきゃ困るんだよ。」
夜蘭はしぶしぶといった様子で引き下がった。放浪者としては、船に乗れるのなら問題はない。
しばらくして、乗船が始まった。
この辺の海──「雲来の海」は穏やかだ。おそらくしばらくは問題なく進むだろう。だが...
「普段通りいかないとは、いったいどういうことだい?」
先ほど北斗は、そう言っていた。
あの時はそのまま流していたが、念のため聞いておきたい。
「あぁ、これは稲妻から逃げてきた奴から聞いたんだが、どうやら今の稲妻での鎖国っていうのは、以前とは違うらしいんだ。」
「以前は雷神の雷によって鎖国されていたが、今は機械のバケモン…『からくりクジラ』によって守られてるらしい。」
何を言ってるのかと困惑してしまったが、嘘をついてるようにも思えない。
「からくりクジラってのは...文字の通り機械でできたクジラということか?そんなもの以前なかったはずだが。」
「クジラといっても、いわゆる遺跡守衛とかと似たような構造らしいけどな。うちはまだ見ていないが、被害を受けた船も多い。まず間違いなく遭遇するだろう。
やっぱり捕鯨砲くらいつけておくべきだったかー。」
本当に面倒なことになっているようだ。そして、放浪者は一つとても嫌な顔を思い出す。
(そういえば、以前「博士」がその手の研究をしていたような。確かスネージナヤに戻ったはずだが、もしいるとしたらちょうどいい。ここで殺す。)
放浪者はひそかに、仇敵への殺意を高める。