放浪者としては複雑ではあった。この神の目を持っていたのが誰だか理解しているし、意図も察している。つまりこの行動は『奴』にとって利なのだ。
「こだわっている場合でもないか。」
神の心は応えるように光り輝いている。放浪者のためではない。近くの神体に反応しているのだろう。
「わかってるさ。でも、ここは僕に任せてもらう。」
放浪者はいまだ意識を失っている雷電将軍へと近づき、その体を抱きかかえた。
そして、神の心を胸の方へと寄せる。
本来、放浪者に『それ』を扱う資質はない。いかに兄弟機とはいえ、散兵の体は博士の改造によりもはや雷電将軍とは全く違う構造となっている。
それに、放浪者の神の目は風元素だ。
しかし、この一時、かつて稲妻のために立ち上がり、『それ』によって命を散らし、輝きを失っていた雷の意思は、自らの主を滅した『それ』を選んだ。
「そ、それは無想の一太刀ッ」
放浪者の失われていた肩には、風元素で作られた腕が生え、その腕には雷電将軍を象徴する奥義、『無想の一太刀』が握られていた。
「忌々しい。本当に忌々しい。が、この状況じゃ仕方ない。」
「貴様ッ将軍様のッ!」
九条裟羅は、放浪者を睨む。
「大丈夫だよ、雷神の使途さん。あなたの神はいずれ戻ってくる。」
放浪者は辺りを一瞥し、飛翔を開始した。
「では、殺すか。」
『博士』は稲妻のはるか上空にいた。
(まずは海祇島を斬る。そして証明するのだ。私が唯一の『博士』だということを。)
無層の一太刀が掲げられる。
所詮は抜け殻。しかし神を目的に作られた機体からは、禍々しいほどの出力を持った巨大な刀が振るわれる。
しかし、そのエネルギーは霧散された。
『コバエが神の邪魔をするとは。』
そこには、機神と似たような武器を持ち、風元素の腕をはやす少年がいた。
「いい加減、神を自称するのはやめてくれないかな。痛々しくて見てられない。」
衝突が、始まる。
機神が再構築した雷の太刀は分散し放浪者へと襲い掛かる。
放浪者はそれをすべて左腕の風元素で拡散させた。
『その出力雷神の加護か。ほう、とうとう『私』も本格的に私の排除に乗り出たということだな。』
「自己への否定なら僕にも覚えがあるよ。するのもされるのもね。」
機神はその腕すべてに雷の剣を発現させた。
複数に分かたれた無層の一太刀を六つ前に掲げ、六芒星が描かれる。
「いつから呪術師の真似事なんてするようになったんだい?それは女皇に与えられたものでもないだろうに。」
しかし、流石は稲妻をコンセプトに作成された機体である。
それは古代稲妻の技術。術によって引き出された雷の象徴である、怒り。それも神の域に達した怒りは放浪者の周囲の空気を削り取った。
六方面から空気に引っ張られ、放浪者の動きが止まる。
『即席だが、ハエを止めるには十分だろう?』