~北国銀行璃月支店~
「エカテリーナさん!あの二人、稲妻についた頃でしょうか?」
受付係のエカテリーナは黙ったままだ。
「ずっと稲妻に行きたがってましたもんね。娯楽...小説?の大ファンらしくて。」
「にしても、本部も粋なことしますよね。ちゃんとメンバーの趣向を把握してたなんて。」
エカテリーナは、未だ黙ったままだ。
「なんにせよ、船の中にいるべきね。霧は体に良くないでしょう?」
夜蘭はそういうと静かに去っていった。
放浪者も続く。だが、足取りは不安定だ。
中では宴会が行われている。
自然と目線は救いを求めるように万葉を探していた。
机の上で突っ伏している。
「おう!甲板で疲れは取れたか?悪いな、そいつ部屋に持ってってやってくれ。」
中心にいる北斗から頼まれる。
万葉は本当につぶれてしまっているようだ。
先ほどの夢がちらつくが、何とか振り払う。
雑魚寝部屋に到着したのち、ゆっくりおろした。
「た...と...いな..」
何か寝言を言っていたが、無視をする。
放浪者は、その場に腰を下ろした。
遠くで騒ぎ声が聞こえる。静かで、電気のついてないこの場所とは対照的だ。
そういえば、あの女夜蘭はどうしているのだろう。宴会の場にはいなかったはずだ。
「やはり、似ている...」
帯刀している赤い刀が目についた。
使を外しなかごを確認すると、「赤目」と書いてある
知っている名前だった。つくづく、縁からは逃れられない。
そして、「楓原万葉」の字。
「はっ。ははは」
小さく、ただ確実に、放浪者は声を上げる。
交じりっ気のない、喜びからの声である。
旅人から聞いた。楓原の末裔が稲妻で尽力し、果てに雷電将軍の無想の一太刀を受け止めたと。
流浪人こそが、その彼であったのだ。
そんな気はしていた。だが、放浪者は長らくその好奇心にも似た感情に蓋をしていた。
だが、あんな夢を見た以上確認しないわけにもいかない。
口元がにやける。
ずっと探していた、長い間失っていた宝物を見つけた時のような、子供のような笑顔。
実年齢よりもずっと幼く見える放浪者に似合う表情だ。
最後にこんな顔をしたのはいつだろうか。
遠い昔の気もするし、つい最近のような気もする。
やさしく頭をなでる。遠い記憶の「彼」と同じ髪。同じ寝顔。
静かに、やすらかに、その時間を堪能した。
満足し、その場を立ち去る。
「もう、取りこぼすものか。」
表情を戻し、情報収集のために宴会の場へ向かう。
独りじゃない喜びは、とっくに味わっていた。
草神と旅人、そしてちっこいの。
彼らへの土産話ができた。
叶うのであれば、ともに机を囲みたい。
そんな日を想像すると、せっかく戻した表情が緩んできそうになる。
そして、そんな幸せの中にいる放浪者をみつめる影がひとつ。
璃月の裏を支配するものとして、他人の弱みは見逃さない。
「なるほど、それがあなたの核ね。」
声には出さないが、夜蘭は手ごたえを感じた。
璃月での出航までの間、可能な限り自分を放浪者と呼ぶ少年について調べたが、まったくと言っていいほど情報がなかったのである。
まるで透明人間。そこに存在していることがおかしいかのようであった。
なので、夜蘭はこの少年に興味を持っていた。
このレベルの隠蔽工作は、自分ですら可能ではない。
夜蘭は基本尊大な性格ではあるが、自分以上の才を持つものには敬意を払う。
そした、同じフィールドである隠蔽という点で負けるというのは、新鮮だったのである。
夜が過ぎたあとも、霧は晴れず、どんよりとした天気だった。
北斗が言うには進行方向は間違っていないので、確実に稲妻には近づいている。
なんなら、晴れていれば島の先端は遠目に確認できるくらいの距離だという。
「そういえば、クジラは出てないでござるな。」
「あぁ、まぁ警戒は続けるが、この分だと意外とすんなり...」
稲妻に...と続けようとしたが、海の女である北斗は違和感を真っ先に感じとった。
その様子を確認し、ほかの面々も警戒をする。
沈黙が続く...すると
「よぉこそ!命知らずの馬鹿どもめ。ここはもう、海賊ごときが近づける場所じゃねぇんだぜ!」
霧の中から大きな声がした。
「姿が見えないようだが、何者だ。あたしは死兆船号の船長、北斗だ!」
「南十字船隊様のおでましときたか!ようこそ、我が国へ!歓迎するぜ。」
「お主が稲妻を鎖国にした本人か?顔を見せるでござる。」
「うん?稲妻だぁ?そんな国はとっくに滅んだね。なんてったって神がいなくなったんだからな。」
「ふざけたことをぬかすな!せっかく平和を取り戻したというのに、許さぬ!」
万葉が激昂する。それほどまでに稲妻での出来事は、困難なものであったのだ。
「てめぇあれか、噂のやつだな。てめぇらがかってなことしやがったせいで、外国人が増えて俺ら浪人はやりにくくなったんだ!」
「まぁいい、今は昔の話だ。この国が今何と呼ばれているか、教えてやるよ。」
「超巨大機神統治国家、『モルニィヤ』だ!」