ネイチャさん誕生日記念。




pixivにもマルチ投稿してます。

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第1話

 日付も変わり、静寂に包まれたトレセン学園の一室。新人でありながらナイスネイチャを担当に持つ俺は、日課となりつつある書類作成に勤しんでいた。本来ならこんな夜更けまで作業する事はない・・・らしいのだが。新人のくせにネイチャのトレーナーとして成果を上げる俺は嫌われているようで、何処から用意したのか通常よりも多い書類に四苦八苦しているといつもこの時間になる。

(最近はネイチャへの嫌がらせも増えてきている。ウマ娘を支えるのがトレーナーの使命なのに、これじゃあ足を引っ張っているようなものじゃないか……。)

 デスクの引き出しを開き、前々から必要事項を記入していた契約破棄の書類を取り出す。

(ネイチャの足を引っ張るくらいなら、俺はもう彼女の担当から外れるべきなんだろうな。でも……。)

 いつかのレース帰りの駅のホーム。不器用な俺なりに折ってみた不格好な折り紙のトロフィーを握り締め、無邪気に笑う彼女の顔がフラッシュバックする。

(そんなことをすれば彼女はきっと悲しむ。レースに負けた後みたいに無理矢理笑って誤魔化そうとする。そんな彼女を……俺は見たくない。でも……。)

 結局今日も保留となったその紙を引き出しに押し込み、トレーナー室を出る。そんなこんなでトレーナー寮の自室に辿り着いたのは1時過ぎになり、急いで寝間着に着替える。

(なにか……手を打たないと……。)

 ベットに倒れ込んだ俺の意識は、5分も待たずに落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あくる朝。けたたましいスマホのアラーム音で目が覚めた俺は、ベットから起き上がれない様になっていた。

(体が重い……。)

 動かない体に鞭をうち、体温計を脇に挟む。ピピピッと体温計が鳴ったのを確認し、脇から取り出したそれに目をやる。

 

「37.6、か………。この熱じゃ今日は休むしかないかな……。」

 

 今朝からの気だるさの原因はこれかと感じながらもスマホを手に取り、たづなさんへと電話をかける。

 

「はい、たづなです。」

 

「おはようございます……。ネイトレです。」

 

 朦朧とする意識をなんとか維持し、今日は休む事を伝えるとたづなさんはこう言ってくれた。

 

「そうですか……。わかりました、担当の娘には私から伝えておきます。ゆっくり休んで下さいね。」

 

「ありがとうございます……。」

 

 通話を切り、スマホを枕元に置く。体調管理すら出来ない自らの不甲斐なさを呪いながら、俺は再び意識を手放した。

 

 

―――ごめんね、トレーナーさん。私、これからはこの人について行く事にしたんだ。

 

 真っ暗な視界の真ん中で。そう言って笑うネイチャの隣には、俺の知らない男が立っている。

(待ってくれ……ネイチャ。そいつは誰なんだ………。)

 声を出そうとしても声が出ない。体も動かない。知らない男と手を組み、だんだんと俺から離れていくネイチャを引き留めることすら出来ない。

(俺を一人にしないでくれ。母さんの様に置いていかないでくれ。もう独りぼっちは嫌だ。)

 そうしてまた沈んでいく意識の中、ふと誰かに抱きしめられた。そんな気が、した。

 

 

 

 

 

 

 また意識が覚醒する。先程の真っ暗な空間とは違い、見慣れた自室の天井だ。

(そうか……。さっきのは、夢だったのか………………。よかった。)

 

「あ、やっとお目覚めかね?トレーナーさん。」

 

 ハッと驚いた俺がキッチンの方を向くと、ここには居ない筈の彼女がそこにいた。

 

「ネイチャ……?なんでここに………。」

 

「いや〜、ほら。私とトレーナーさんはパートナーなんだからさ。トレーナーさんが体調を崩したって聞いて、優しいネイチャさんが看病に来てあげたのです。」

 

 そう自信げに言う彼女は、トレセン学園の制服の上からエプロンを着けていて、髪も料理の邪魔にならないよう後ろで一纏めにしたポニーテールになっていた。

 

「バ鹿……。風邪が伝染るから早く帰れ。」

 

「大丈夫大丈夫、ちゃんとマスクも持ってきてるからさ。」

 

「いや着けないと意味ないだろ…!」

 

「まあまあ〜。ベットの側にスポドリとか風邪薬とか置いておいたから、よかったらどうぞ〜。」

 

(こんなに沢山……。俺なんかの為に買って来てくれたのか……。)

 

「ありがとな、ネイチャ。わざわざ色々と買って来てくれて。」

 

「いやいや、これくらいなら私でも軽々持てますし。気にしないでね?」

 

 勿論ウマ娘のパワーならこの程度の買い物、重いと感じる事もないのは分かっている。それでも彼女の時間を俺なんかの為に使わせた事実が本当に嫌になる。

 

「はい、ネイチャさん特製たまご粥。どうぞ召し上がれ!」

 

「じゃあ………、いただきます。」

 

 木製のスプーンを手に取り、ネイチャが用意してくれたお粥を口に運ぶ。

 

「ネイチャの料理は、いつも美味しいなあ………。」

 

「ふっふ〜ん、ネイチャさんにはとっておきの隠し味があるのです。」

 

「ハハッ、なんだよそれ。味噌とかか?」

 

「……確かに味噌も入れてるけどさぁ。トレーナーさんって、ほんとに鈍感だよね。」

 

「なんのことだ?」

 

「なんでもないですよ〜だ。」

 

 ぷくぅと頬をふくらませる彼女に年相応の可愛げを感じるが、鈍感と言われた理由が分からない。

 

「すまない、ネイチャ。俺がもっと君の事を分かっていれば、君の不満も改善出来るのに。」

 

「いやいや、確かに気付いてほしいとは思うけども気づかれるのもそれはそれではずかしいと言いますか………。」

 

(かわいい、だなんて。こんな感情を教え子に剥けている時点でおれは………。)

 

 ゴニョニョと押し黙ってしまったネイチャを眺めながら、頭に浮かんだ考えを忘れようとお粥を一気にかき込む。ナイスネイチャは、言い方は悪いけどネガティブだ。トレーナーである俺までネガティブになれば、彼女のモチベーション低下にも繋がる事から普段は隠しているのだ。

 

「ごちそうさまでした。」

 

「………ところで、さ。ちょーっとトレーナーさんにききたいことがあるんだけど。」

 

「どうした?」

 

「その……これ、何?」

 

 そう彼女が差し出して来たのは、俺のデスクに入っている筈の契約破棄に必要な書類1式だった。

 

「な、なんでそれをネイチャが………。」

 

「……トレーナーさんの鞄を持ち上げた時に落ちてきたよ。それで、なんでこんな紙がトレーナーさんの鞄に入ってたの?」

 

「そ、それは…………。」

 

 次の言葉が喉を通らない。そんな俺を見て、彼女は悲しそうに次の言葉を紡ぐ。

 

「私なんかが担当バじゃ、嫌になっちゃった?」

 

「それだけは違う!!」

 

「じゃあなんでこんな紙が入ってたんだよ!!」

 

 お互いに声を荒げ、感情を抑えられなくなって行く。

 

「俺が…!俺がネイチャの足を引っ張ってるからだよ!!」

 

「は?なにそれ……?」

 

「だってそうだろ!まだ新人の俺には最適なトレーニングをさせてあげられない!挙げ句の果てには体調を崩して、支えるべき担当ウマ娘に看病までさせてるんだぞ!!本来なら俺が支えてやらなきゃいけないのに、いつも俺はネイチャに支えられてる。こんな無能に、ネイチャのトレーナーは務まる訳がなかったんだ!!」

 

 話さなくてもいい言葉まで口から溢れ出す。そんな言葉を聞いたネイチャは、静かに俯いている。当然だ、担当トレーナーがこんな弱虫だったことに呆れているのだろう。そう考えて、次の言葉は罵声だろうと確信していた俺は、彼女の言葉に唖然とした。

 

「……違う。トレーナーさんは、そんなこと考えてない。」

 

 何を言っているのか、分からなかった。それ以上に、彼女の瞳の優しさに安堵を感じた自分が、分からなかった。

 

「いいや、これが本心だ。事実を、語ってるだけだ。」

 

「だったら、なんでそんなに苦しそうなの?」

 

「な、何言って……。」

 

 俺の言葉は続かない。彼女に、ナイスネイチャにいきなり抱きしめられた事で、混乱してしまう。

 

「ね、ネイチャ。いきなりどうしたんだ?まだ話は終わってないだろ?」

 

「うるさい、少し静かにしてて。なんで気づかないの?ううん、それほど傷付いてたんだ。トレーナーさんの心は、もう限界なんだ。それなら……。」

 

 また唐突に俺を離したネイチャは、彼女の鞄から手鏡を取り出し、俺に突き出した。

 

「トレーナーさん、これ見て。」

 

「………俺の顔が写ってるだけじゃないか。ネイチャ、ほんとにどうしたんだ?さっきからおかしいぞ?」

 

「いいからよく見てよ!!」

 

 再び叫んだ彼女の声に少し驚き、彼女の手鏡に写る自分の顔をよく見る。ガリガリの頬、カサカサの唇、充血した目、そしてその目から、こぼれ続ける水滴。

 

「あれ?なんで、泣いてるんだ?おれ。」

 

「……昔ね、マチタンが言ってた。『本当に辛くなって、傷ついてる人って無意識に泣いちゃうんだ』って。ねえ、トレーナーさん。」

 

 一度、彼女が言葉を切る。一瞬迷ったような顔をして、すぐに決意したような顔へと変わって、言葉が続く。

 

「トレーナーさんはさ。頑張り過ぎなんだよ。迷いも悩みも全部自分ひとりで抱え込んで、誰にも相談しないで。」

 

「……君に心配をかけたくなかったんだ。」

 

「なんの相談もしてくれないで、段々やつれていくトレーナーさんを見てる方がよっぽど心配になったし、怖かった。」

 

 そういう彼女は、いや。彼女も俺と同じように、涙を流していた。

 

「……やっぱり、俺はトレーナー失格だ。ネイチャを心配させまいとして、もっと心配をかけて………。」

 

「だから、そうじゃなくてさ。私をもっと頼れって言ってんの。互いが互いを気遣って、支え合う。担当契約って、そういうもんでしょ?だから、さ。」

 

 彼女は少し恥ずかしそうに両手を前に出す。

 

「今日は、私の胸の中で泣いていいよ。トレーナーさんが楽になるまで、ギュってしてあげるから。」

 

 それは、その言葉は劇薬だ。いつの間にかボロボロのズタズタになっていた俺の心に優しく満ちていく、猛毒だ。ネイチャの申し出に堕ちてしまえば、もう俺は戻れなくなる。

 彼女に、ナイスネイチャに依存してしまう。それを分かっていても、俺の心は、止められない。ずっといじめに耐えていた俺の心は、彼女の優しさに溺れたい。なんて身勝手な事を、考えてしまう。そうして、羞恥心も自己嫌悪も全部捨てて、俺はネイチャに溺れていく。えんえんと、子供のように泣きわめく。そんな俺の背中を、ネイチャがトントンと叩いてくれる。

 

「辛かったんだよね、苦しかったんだよね。トレーナーさんは何も悪くないのに、周りはトレーナーさんを許さなくて。『ナイスネイチャが勝てないのは無能トレーナーのせい』とか、おかしいよね。私が勝てたのは、全部トレーナーさんのお陰なのに。トレーナーさんはあんな噂なんて気にしなくていいんだよ。」

 

 ネイチャの言葉は優しくて、スッと心のヒビに溶け込んでいく。少しずつ、ネイチャに依存していく。もう、元の関係には戻れない。俺はネイチャが大好きだから。涙が止まった頃には、ネイチャへの愛が溢れ出していた。

 

 


 

「ネイチャ……好き、大好き。ずっと、ずっと一緒に居て……?」

 

 理性を捨てたように私を抱き締めて、好意を口にしてくれるトレーナーさんを抱き締め返す。

 

「はいは〜い、ネイチャさんはここにいますよ〜っと。」

 

 にしても私にしては上手く出来たよね〜。トレーナー室に仕掛けた盗聴器で契約破棄用紙(あのゴミ)の存在を知った時はだいぶ取り乱したけども、たずなさんを騙してそれを回収する。トレーナーさんに届け物って伝えたらすぐ開けてくれるんだから楽でしたわ〜。

 それから()()()()()()()()()()()()()()()()、契約破棄書を()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()風邪で弱ったトレーナーさんに差し出す。

 周りのせいでだいぶ弱ってたとはいえさあ。これだけで私の言葉を信じちゃうあたり、トレーナーさんもちょろ過ぎるよね。変な詐欺に引っかからないように私がしっかりしないと……。

 

「ネイチャぁ……、もっと、もっとぎゅーってしてぇ」

 

「もう……。トレーナーさんったら甘えん坊なんだからさ」

 

 ま、そういうとこも大好きなんだけどね♡




追記
 ちょっとだけマイルドにしました。

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