戻って喜多!未来に郁代!(仮) 作:続きを書く予定がない短編
朝は平等に来る。
今を生きる人たちに、そして時間に縛られた私にも。
「状況をまとめよう…」
もうここ数十回のループでは毎回やっていることだ。今までにやったこと、つまり失敗に終わったループの状況をまとめる。
「まず、私は8月のライブから先に進めていない」
あの日願い事をしてから、私は4月の最初に結束バンドに加入したところから8月のライブを終えるまでの期間を繰り返すようになった。
「先へ進める条件は不明、だけど…」
そこから先に進めたことがないので正確なところは分からない。でも、予想は付いている。なんせわたしの願い事なのだから。
8月のライブの成功。
少なくとも今はそれしか思いつかない。
「やり直せて嬉しかったのは、最初だけだったな…」
最初は嬉しかった。なんせ叶わないと思っていた願いが叶ったのだから。
混乱もしたけど、自分の状況を把握してからは必死に練習。記憶や技術が引き継がれていることは幸いだった。
今度こそ8月のライブを成功させるんだと練習して練習して練習して…結局うまくいかなかった。
私たちの演奏では、集まってくれた僅かなお客さんを満足させることが出来なかった。
やっぱりダメだった…と落胆しつつ、この夢のような時間も終わるのだと勝手に思っていた。今度はプロギタリスト並みの技術をくださいってお願いしようなんて思っていた。
そして次の瞬間、私の意識は再び白に飲み込まれた。
目覚めたのは私のベッドの上で。
ようやく私は時間に囚われたことを理解したんだ。
そこから何十回かは正攻法でライブを成功させようとした。つまり、自分の技術を上げることであの少ないお客さん達を満足させる。
できると思っていた。自慢じゃないけど、私のギターの成長速度はかなりのものだ。なんせリョウ先輩のお墨付きだ。
そして、確かに上達はして行った。でも…ある一定以上の巧さにはならなかった。才能の限界、というやつなのだろうか。正確には、成長が著しく鈍化した。
結局、腕前の上達ではライブは成功しなかった。
自分の技術を上げるのが限界だと判断した私は、次に他の方法でライブを成功させようとした。
具体的には、ライブの日程をずらすことで台風を避けようとしたり、出演順を変えることで他のバンドに場を温めてもらおうとした。
結果としては、これも失敗した。
日程をずらしても何故かそこに台風が直撃する。まるで狙いすましたかのように。不自然な加速、不自然な減速、軌道の変化、新たな台風の発生…私を、閉じ込めようとするかのように。
順番を変えても、他のバンドが時間までに会場に辿り着かなかったり出演を取りやめたりして、結局私たちが最初にライブすることになる。
特に、他のバンドが出演を取りやめなんてした時は、お客さんの数がこれまでよりも少なくなってしまい完全に逆効果だった。
これも失敗した私は、最終手段として店長さんを頼った。ループの中で伊地知先輩から話を聞いていた私は、伊地知先輩のお姉さんである店長さんが、昔大人気バンドのギターをやっていたということを知っていた。
その力を借りて、ライブを成功させようとした。
店長さんは私たちに力を貸すことを最初は嫌がった。伊地知先輩に、自分たちの力で頑張って欲しいと思っていたみたいだった。
でも、店長さんはなんだかんだ優しい。台風が来たライブの日に頼み込んだら、渋々だけど飛び入り参加してくれた。
私がイソスタでそれを宣伝すると、台風で土砂降りだというのに店長さんの昔のファンがたくさん集まってくれた。
会場は始まる前から大盛り上がり。そして店長さんはブランクがあるとは思えないギター捌きを披露し、大盛況のままライブは終わった。
みんな笑顔が溢れかえっていた。私もようやく終われると笑顔だった。
そして再び意識が白く塗りつぶされ、私は絶望に叩き落とされた。
ライブが成功したのになぜ戻されたのか。
それから私はまた何度か繰り返し、おおよその条件を絞り込んだ。
『結束バンドのメンバーでない人の力でライブが成功しても、成功とみなされない』
これが結論だった。
店長さんは、メンバーにだけは決してなってくれなかった。そこは譲れない一線らしく、強引に迫ると参加すること自体やめてしまう。助っ人、というのが店長さんが自分に許す最後のラインなんだろう。
そうして私は八方塞がりとなった。
台風のライブを放棄し逃げた。するとライブが終わったくらいの時間で、私は戻された。
結束バンドを辞めた。その瞬間意識が飛び、時間が戻った。
ループのことを話した。話している途中で意識は塗りつぶされた。
…自殺を、図った。生きて時間が戻った。死んだ直後に、だ。当然、死ぬ痛みは記憶したままだ。
しかし狂うことは許されないらしく、私は未だに正気を保っている。それが返って苦しさを助長させていた。いっそ狂えてしまえば楽だったかも知れない。
私にできるのは、不自然に保たれた正気の中、取れなくなった笑顔の仮面を被ることだけ。
ああ。
狂わぬまま。
でも心はもう死にかけている。
というわけで供養でした。