戻って喜多!未来に郁代!(仮)   作:続きを書く予定がない短編

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みんな死んだ目の喜多ちゃんが見たいんすねぇ〜


それは偶然か必然か

 

 

「はぁ…」

 

 周囲に人目が少ないのをいいことに、ため息を隠さずに吐く。

 今回も何も進展がないまま、約一ヶ月がすぎた。

 

 一応、方針は定めている。

 目標としては、演奏スキルの高い、可能ならプロ級の人材を結束バンドに加入させること。

 前回までで分かったのは、結局のところ私たちの力であのライブを成功させるのは難しいということだ。私のスキルは頭打ちになりかけているし、先輩たちは記憶を引き継げないので短期間での上達は難しい。

 

 ただ、私の知り合いで唯一プロ並みの技術を持つ店長さんは、メンバーにはなってくれない。台風の日に頼み込んだ時のみ、助っ人をしてくれるだけだ。

 

 だから残された手段は、早い段階で結束バンドに技量の高い誰かを加入させ、合わせられるようにしてライブを成功させる。幸い私は合わせるのが得意だし、先輩たちもそこまで苦にしない。プロ級の技術を持っている人ならば、私たちに合わせるのも難しくないだろう。

 

 見つけて加入させるのが非常に困難という一点に目を瞑れば、そう間違った戦略ではないと思う。その一点がだいぶ問題ではあるのだが…

 楽器種はギターかキーボード、できればギターだ。他では役割が被ってしまう。何よりロックバンドで主旋律になるのはやはりギターであり、リードギターのスキルが高いに越したことはない。

 

 …正直、この周回は捨てるつもりでいる。私たちに合うプロ並みの技術を持つ人物なんて、そう簡単に見つかる訳もない。何度も何度も周回して、条件に合う人を見つけるのが前提だ。

 だから、伊地知先輩やリョウ先輩には申し訳ないけど音合わせは最初の一回しかしてないし、明日の放課後のライブも出ないつもりだ。

 

 

 途方もなく低い可能性を、それでも諦めずに探す。

 やるしかない。

 私に選択肢など、元から無い。

 

 

 今日も成果なく帰宅する。

 色々な場所を回っているけど、上手い人は見つけても、結束バンドに加入してくれそうな人は見つからない。拠点にしているところが遠すぎるとダメだし、歳が違いすぎても上手くいかないだろう。もう少し条件を緩めるべきだろうか。いや、とりあえずこの周回くらいは、条件を絞ったまま粘ってみよう…

 

 憂鬱な気分を変えようとPCを開き、動画サイトに飛ぶ。

 伊地知先輩のおすすめで見るようになった、【guitarhero】という投稿者の弾いてみた動画だ。この人、私とあまり年齢が変わらないようだけど技術が凄まじい。実質的に何年もの間練習している私よりも遥かに上だ。

 それに、なぜか分からないけれど、とても心が揺さぶられる。最近はギターの音を奏でることも嫌になりかけていたけど…この人のギターを聞いているときだけは、私は表情も心も偽ることなく、純粋にギターを好きでいられる。

 

 少し前に上がった動画を見る。

 

「やっぱりいいなぁ。guitar heroさんが、近くにいてくれたら絶対勧誘するのに…」

 

 動画に対するコメントを見ていく。

 guitar heroさんの動画の民度は比較的良い。本当にリアルが充実している人の動画には心が汚い人はコメントできないのだろうか。他の人も私と同じようにguitar heroさんのギターを楽しんでいるんだな、と画面をスクロールしていると、その中の一つに、『この曲バンド組んで文化祭で弾きました!』というのがあった。

 

「ウチの学校にも、ギター上手い人がいればな…」

 

 万にひとつも無い可能性だった。

 私が求めるのはプロ級の人材。高校生でそんな技術を持っていることが既に現実的ではないというのに、それが秀華高にいるなんて。我ながら都合の良すぎる妄想だ。

 

 そう思いつつ、コメントに返信する。

 内容は、『ウチの学校にもギター弾けるやついないかなぁ』だ。つぶやいていたことそのまんま。

 私のアカウント名は【拓】だ。自分の名前が嫌いだから、何か捻ったものにしようと思い、帰宅部→たく→拓となった。

 今思えば別に帰宅部と掛かるキタでよかった気もするけど、別にアカウント名なんてどうでも良いかと思い変えていない。

 

 そんなことをしていたらもう良い時間になっていた。肌の美容には早寝が大切だ。今でも美容と健康は気を遣っている。容姿も武器の一つ、私は自分の容姿の価値を理解していた。

 一度健康を度外視してライブ成功のために奔走したことがあったが、その時は友達がいなくなって情報が集まらないわ、集中力が欠けて演奏がうまくいかないわ、挙げ句の果てには倒れて入院となり、そのまま次の周回になってしまった。

 それ以来、やってきたルーチンは崩さないようにしている。

 …それに、この習慣も変えてしまったら私の精神はいよいよ崩壊してしまうと思っている。狂えないまま、私が私でなくなるなんて、考えただけでゾッとする話だ。私は、これ以上私を損ないたくない。

 

 平気そうなのは外面だけ、もう私は限界ギリギリだった。

 

 

 

 翌日、初ライブを体調不良と偽って放棄したにもかかわらず結局成果なし。新宿まで行ってライブハウスを回ったが、いいなと思った人は既に自分のバンドを作っていたり、中心人物となっている場合が多い。まぁ、それはそうなんだけど…

 

 …そういえば、最初のライブに出なかったのは初めてだ。でも意識が塗りつぶされることはなかった。ということは、この最初のライブは失敗しても大丈夫ということなんだろう。新しい事実だ、これで次回以降は最初のライブを放棄して新メンバー捜索にあてられる。

 

 LOINEでは謝罪したが、リーダーの伊地知先輩には電話でも謝ろう。バンドは人間関係が良くないと成立しない。以前、バンド内の人間関係が完全に崩壊した時の周回で学んだことだ。あのときは完全に私が悪かったのだが…2度同じ轍を踏むことはない。

 

「あ、伊地知先輩、お疲れ様です。今日は本当にすみませんでした…」

 

 風邪気味の声を作る。少し喉に負担がかかるが、この程度なら寝れば治る。

 

『しょうがないよ、風邪なんでしょ? 早く元気になって戻ってきてね!』

 

「はい、もちろんです! それで…今日はどうなりました? やっぱり、中止でしたか?」

 

 優しい伊地知先輩の言葉に心が抉られた気がした。そしてそれを全く表に出さず、申し訳なさそうな演技が平然とできる自分に反吐が出る。

 音楽技術ならともかく、嫌なものまで上達してしまったな…

 

『あ! それなんだけどさ!』

 

「はい…」

 

『なんと、新しくギターができる娘を私が拾ってきてことなきを得ました! すごいでしょ!!』

 

「はい……

 

 

 …はい?」

 

 

 

 はい? 

 

 新しい、ギタリスト? 

 全く理解が追いつかない。

 一体、私がいないライブで何があったと言うのか。

 

 

 こうして事態は私がいないところで進んでいた。

 

 そして、その伊地知先輩が拾ってきたギタリストが、私の運命を変えるヒーローだったなんて、このときは思いもしなかったんだ。

 

 

 

 

「新しいギタリストさんは上手なんですか?」

 

『ううん、ド下手だった!!』

 

 ええ…

 

 

 




今度こそ出しきったので次の更新があるとしてもしばらく無いです。
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