歪の天使   作:やんでれてんし

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こんばんは
今回、夜凪さんが出演します。代わりに千世子さんの出番がほとんど無い…。
次回は千世子メインになる予定。
今更ですけど、主人公の本名出てないですね。今回苗字は出てますけど、まあ別にそこまで重要じゃないしいいか(適当)


3話

 

まだ太陽が昇りきっていない黎明。俺の部屋にスマホのアラームが響き渡る。

枕元にあるスマホを手に取り、重い瞼をほんの少しだけ開けてアラームを止めた。

まだ布団に包まっていたいという欲求に抗い、掛け布団とベッドパッドの隙間から這い出て、何とか立ち上がる。

ベランダに続く窓に付けられたカーテンを開く。外はまだ薄暗いが、完全に夜というわけでもない、曖昧な時間。そんな時間が零した微かな光が、暗闇に包まれていた部屋を淡く照らした。

 

「……ふぁあ……」

 

寝ぼけ眼で欠伸を1つ。起き上がることができたとはいえ、まだ眠気は生存中だ。

未だ覚醒しきっていない脳みそで洗面所へと向かい、手早く顔を洗って身だしなみを整える。敢えて冷たい水で顔を洗うことで、半分眠っていた意識を強制的に現実へと引っ張り出した。

漸く目覚めた俺は、素早くスポーツウェアに着替え、日課である朝のランニングのため、玄関から外へ繰り出した。

明け方の外の空気は少し冷たいが、これから走る側としては丁度いい涼しさだ。軽く準備運動をし、いつものペースで走り出す。

走り出して数分後、前方に人影が見える。長いサラサラの黒髪に、すらっとした手足と高い身長を持つ少女だ。

彼女は大量の新聞を小脇に抱え、妙に綺麗なフォームで駆けている。俺は彼女に追いつくためにスピードを上げ、横に並んだところで声を掛けた。

 

「おはよう夜凪。朝会うのは久しぶりだな」

 

「おはよう水無瀬くん。ええ、そうね、久しぶりだわ」

 

夜凪はこちらを認めると、透明な汗を流している顔に微笑を浮かべた。

彼女の名前は、夜凪景。俺のクラスメイトだ。容姿はかなり整っており、かなりハイレベルの美人だ。

しかし、クラスではほぼ誰とも話さず孤高を貫いているため、話しかけづらい高嶺の花のような存在になっている。

俺も特に話しかけようとかは思っていなかったのだが、以前朝のランニング中に偶然出会ってから話すようになった。

まあ、人は見た目によらないというか、何というか。一見クールに見えて、話してみると所々に天然っぽさが見えて面白い。

また、朝に偶然会った時は一緒に走っている。まあ、友人というか、ランニング仲間というか、そんな感じの関係だ。

彼女は家計を支えるべく、アルバイトに力を入れている。今彼女が持っている新聞紙はその代表例だ。

新聞配達のバイトって、普通は自転車かバイクでやるんじゃないか…?と疑問に思ったが、夜凪は走ることに苦を感じてなさそう。むしろ走ることを楽しんでる節がある。

本人がいいなら、まあいいんじゃないかな。俺からは何も言うまい。

 

「最近はどう?バイトの方は」

 

「順調…って言いたいところだけど、微妙ね。バイト先に嫌な上司がいるのよ。手が出ないように我慢するのが大変だわ」

 

大和撫子みたいな容姿くせに、真顔でこういうことを言うのだ。ギャップが面白い。

何ならもっと面白いこと言ってくれないかな。もし、夜凪が真顔のまま一発ギャグをしたら笑いすぎて死ぬ自信がある。もはや想像しただけでやばい。

 

「へ~。嫌な奴って本当にいるんだな」

 

「ええ。今度何か言われたら反抗してやるって決めてるの」

 

「お前も大変だな。俺はバイトしたことないからわかんないけど」

 

「おすすめよ、バイト。水無瀬くん暇そうだし、やってみたら?」

 

「暇そうって…失礼な奴だな」

 

「え、暇じゃないの?」

 

曇りなき眼でこちらを見つめる夜凪。なんだこいつ、失礼すぎるだろ。どこをどう見たら俺が暇に見えるってんだ。

 

「まあ、結構やることあるぞ。筋トレに昼寝に家事だろ?……あとあれだ、昼寝」

 

「昼寝2回出てるわよ。やっぱり暇じゃない」

 

俺もそれ思った。俺、滅茶苦茶暇だった。

 

「ま、まあ、他にも用事とかあるし」

 

言い訳がましく聞こえるかもしれないが、嘘はついてない。

千世子に振り回されたりとか、千世子に呼び出されたりとか。

あいつ、脈略もなく急に呼び出してくるからな。昨日もそうだったし。全く、困った奴だ。…まあ、暇だし別に良いんだけど。

 

閑話休題。

いつも千世子に振り回されている俺だが、そろそろ千世子には俺の苦労も考えてほしい。

呼び出されるたび、湧き出てくる感情を抑えるのに苦労してるんだ。このままだと俺の理性が過労死してしまう。

まあ、断れば済む話なんだが…難儀なことに、それが出来ない。理性が弱すぎると言われるかもしれないが、俺の理性は俺の汚い感情を抑えるので手一杯なんだ。あまり責めないでやって欲しい。あいつはよくやってる。

とはいえ…俺は一体、いつになったら千世子から、あいつの沼から抜け出せるんだろうか。

このまま一生抜け出せない気もする。…まあ、それも案外、悪くないのかもしれないが。

 

そのまま夜凪と軽く雑談を続けながら、ランニングを続ける。

今日は偶然夜凪と出会ったため、夜凪の新聞配達のコースを俺も一緒に走ることにした。

普段走っているコースよりも長いが、良い運動になるだろう。

30分ほど走っただろうか。夜凪の新聞配達が全て終わったため、クールダウンを兼ねて2人で歩きながら帰路に就く。

 

「は~…疲れた……」

 

普段よりも大きい疲労感が体を襲う。

その理由は、俺の隣を歩くクラスメイトだ。

こいつ、何故かは知らないが滅茶苦茶に運動神経が良いため、走るスピードも体力も尋常じゃない。

序盤は普通についていけるのだが、後半になるにつれて体力の差が如実に表れてしまい、付いていくのでやっとだ。

最初は世間話をする余裕もあったが、最後の方は話をする余裕なんかない。

 

「お疲れ様。少しペース速かったかしら」

 

「あ~…ま、気にすんな。何とか付いていけたからな。つーか前から思ってたけど、夜凪って足速いよな」

 

「ふふん、そうでしょう?こう見えても、運動神経には自信があるの」

 

夜凪は控えめな胸を張って言う。

こうして改めて見ると、夜凪は確かに美人だ。ただ、千世子と比べると…何というか、色気が足りない気がする…。

千世子は天使のような見目のくせに、偶に蠱惑的な色気を感じるんだよなぁ。あんな色気にずっと当てられてたら、いつか過ちを犯してしまいそうだ。

最近になって俺の中で「千世子、堕天使説」が浮上しているが、案外間違いではないかもしれない。というか実際、俺は既に千世子に堕ちているのだ。この説が大正解の可能性もある。

 

「あ、そうだ。さっきバイトの話したじゃない?」

 

「したな」

 

「私、他の仕事始めようと思うの」

 

「お、いいじゃん。何の仕事すんの?」

 

どうやら今のバイト先に愛想をつかしたらしい。まあ、夜凪なら何処でも働けるだろう。

夜凪の容姿なら、ファミレスとかカフェで働けば看板娘になれるポテンシャルを持ってる。今の新聞配達のバイトよりは何倍もいいだろう。

そんなことを考えていると、夜凪が口を開く。

ぷるりとした唇から飛び出た言葉は、俺の完全に予想外のものだった。

 

「女優になるわ」

 

「は?」

 

女優?夜凪が?…ちょっと待て、頭が追いつかん。

そんな俺に追い打ちをかけるように、夜凪が言葉を放つ。

 

「…いえ、女優ってのは少し違うわね…」

 

どうやら女優にはならないらしい。さっきの女優発言はあれだ。夜凪さんの小粋なジョークスキルが発揮されたんだろう。

 

「役者になるわ」

 

変わってねえんだけど。女優と何が違うんだよ。役者という括りの中に女優があるんだから実質同じ意味だろそれ。

 

「えっと…本気で?」

 

「ええ。本気よ」

 

本気らしい。夜凪の目も嘘をついているようには見えない。

…まじかよ。こいつが役者?

ああれか?スカウトされたのか?

確かに、夜凪の容姿は優れているし、身長が高くスタイルも良い。どこかの事務所にスカウトされても可笑しくない。

そもそも、演技できるんだろうか…。いや、まあ演技なら後からいくらでも身に付けられるだろうから問題ないか。レッスンとかもあるだろうし。

 

「えーと…スカウト的な?」

 

「?違うわ」

 

違うのかよ。

 

「オーディションを受けるの」

 

どうやら、自分から行動して役者になるらしい。

夜凪が役者という仕事に興味があったのは少し驚いたが、何もおかしい話じゃない。

…ん、あれ?ちょっと待て。こいつ今「オーディションを受ける」って言ったか?

 

「えーと、確認なんだけど。オーディション、今から受けるの?」

 

「ええ、そうよ」

 

そうらしい。

じゃあまだ役者になるって決まってねえじゃん。何でこいつはさも確定事項みたいな感じで言ったんだよ。

 

「…それ、まだなれるって決まったわけじゃないよね?」

 

「ええ。だけど、演技には自信があるから」

 

「へぇ…」

 

夜凪曰く、演技に自信があるらしいが、そういったイメージは皆無だ。自信満々に言っている夜凪には悪いが、演技が上手いという風には見えない。

演技というのは喜怒哀楽を始めとした様々な感情を表現することだ。ほぼ表情が変わらない夜凪が演技をしているイメージが湧かない。

 

「…疑ってる?」

 

どうやら俺の疑惑の目線を感じとったらしい。少し拗ねたように夜凪が言う。

 

「まあ。夜凪が演技してるとこなんて見たことないしな」

 

「じゃあ、実際にやってみるわ。お題を出して」

 

どうやら実践してくれるらしい。急にお題って言われても…というか、本当にできるのか?

本当に出来るのか未だ半信半疑だが、取り敢えず真っ先に思いついたお題を口にする。

 

「じゃあ……悲しい感じの演技してみてよ」

 

「わかったわ」

 

俺がお題を提示すると、夜凪は短く返事をする。

その数秒後、夜凪の綺麗な瞳から一筋の涙が流れ出た。

 

「…まじかよ」

 

大粒の涙を頬に伝わせる夜凪は、どこからどう見ても悲しんでいるようにしか見えない。先程まで普通に会話していたのが嘘みたいだ。

素人目の感想だし、多少の贔屓目はあるかもしれないが、夜凪の演技はドラマで見る女優に勝るとも劣らない…いや、それよりも上手いと感じてしまう。

千世子と比べても…見劣りしないんじゃないか?ただ、千世子の演技は「綺麗」だが、夜凪の演技は何というか…もっと真に迫っているような感じがする。演技のやり方というか…方向性の違いだろうか?

こいつにこんな才能があったなんて…と俺が唖然としていると、涙を流しながら夜凪が言う。

 

「どう?これで信じてくれるでしょ?」

 

「…流石に信じるよ。すげーな、お前」

 

「でしょ?」

 

ふふん、と胸を張る夜凪。だが、未だに涙が流れているせいでチグハグな印象を受ける。

 

「まあ、そんだけ演技上手ければオーディションも受かるんじゃないか?で、どこ受けんの?」

 

どこの事務所を受けるのか気になった俺は、夜凪に問いかける。

いつの間にか涙を引っ込めていた夜凪が俺の問いに答えるが、その答えは再び俺を驚愕させた。

 

「スターズ」

 

「は?」

 

ーーー

 

あの後夜凪と別れ、アパートへと帰宅した俺は、何とも言えない気持ちのままシャワーを浴びていた。

夜凪がスターズのオーディションを受ける。つまり、夜凪がオーディションに受かったら千世子と同じ事務所に所属することになる。

それは別に問題ないのだが、何となく複雑な気持ちだ。もし夜凪と千世子が共演することになれば、クラスメイトと幼馴染が同じ画面に映ることになる。

何というか…何とも言えない気持ちだ。

 

まあ、俺がこんなこと考えてても仕方がないので、気持ちを切り替えて、手早く体を洗い流す。

汗を洗い流し終え、タオルで体を拭きながら浴室から出ると、丁度そのタイミングで独特な通知音と共にメッセージが届いた。

 

『おはよう♡ 今日はドラマの撮影があるから、頑張ってくるね』

 

千世子からのメッセージだ。

くそ…朝からハートマークとか…不意打ちすぎるし可愛すぎるだろ。

何でこいつは一々俺の心を乱すような言動を取るんだろうか。狙ってんのか?狙ってるんだとしたら、こいつは天使じゃない。俺の心を乱すために生まれた小悪魔だ。

何度か深呼吸をし、心を落ち着かせる。何とか落ち着きを取り戻した俺は、できるだけ平静を装ったメッセージを送り返した。

 

『おは。撮影頑張って』

 

俺もハートマークを付けてやろうか、と一瞬血迷ったことを考えたが、流石に気持ち悪いからやめた。うっかり送っていたら死んでいた、社会的に。

 

『ありがと。ひーくんも、学校頑張って』

 

すぐに千世子から返信が来たので、そのメッセージに対してスタンプを送信する。

そこで、俺は未だに自分が全裸であることに気付いた。

全裸で幼馴染の美少女とDMする男。文章にしたら完全に変態だな。さっさと服を着よう。

まあ、とりあえず…千世子のメッセージでやる気出たし、めちゃくちゃ学校頑張ろ。




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