歪の天使   作:やんでれてんし

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こんばんは
ちらっと見たら、日間ランキング7位になってました。
本当にありがとうございます!これからも頑張ります

今回、アキラ君が辱められます


4話

 

朝。

枕元で鳴る目覚ましを手探りで止め、数分間布団の中で体をうねうねさせた後、意を決して布団から起き上がる。

いつも通り、フカフカの広いベッドの上で目を覚ました私は、寝ぼけ眼を擦りながら立ち上がり、シャワーを浴びるために脱衣所と向かった。

脱衣所へと向かう途中、リビングに置いてあるソファが目に入ると、私の頬は思わず緩んでしまう。

昨日は、あのソファでひーくんと一緒に夜ご飯を食べた。しかも、ひーくんの手料理だ。仲良く会話をしながらの、楽しい食事。それを思い出すだけで、私の表情筋は力を失ってしまう。

それにしても、昨日のひーくんは可愛かったなぁ…。私のキスシーンの話を聞いた時の、狼狽えた顔。感情を抑えきれずに口に出した言葉。もう、全部が可愛くて可愛くて、押し倒そうかと思っちゃった。

実際に押し倒したらどうなってたんだろう?……私に押し倒されたひーくんの表情を想像すると、頬がゆるゆるになってしまいそうだ。

 

ちなみに、私がキスシーンのあるドラマに出るというのは嘘だ。私が、キスシーンのあるオファーを受けるはずがない。もしオファーが来たとしても、私の耳に入る前にアリサさんが断るだろう。

スターズの顔であり天使と呼ばれる私に、イメージダウンに繋がりかねないキスシーンを演じさせることは有り得ないからね。

 

シャワーを浴びて、いつも通りの準備を整えた私は、手早くゼリー飲料を胃に流し込んでから家を出る。

今日の服装は、シンプルな白いワンピース。肩からは小さめの黒いショルダーバッグ。身バレ防止用のマスクとサングラスも忘れない。

今日は、ドラマの撮影がある。一旦事務所に顔を出して、そこから送迎の車でドラマの撮影現場へと向かうのだ。

 

「あ、そうだ」

 

事務所へと向かう道中、スマホをカバンから取り出して、メッセージアプリを立ち上げる。

アプリ内のトーク履歴の1番上をタップし、目的の人物とのトーク画面を立ち上げる。そして、手早くテンキーを操作し、メッセージを送信した。

 

『おはよう♡ 今日はドラマの撮影があるから、頑張ってくるね』

 

メッセージを送信すると、ほんの数十秒で既読がついた。そして、その後すぐに返信が送られてくる。

 

『おは。撮影頑張って』

 

やや素っ気ない返事に見えるが、これがいつも通りだ。私のハートマークに何の反応も無いのが少し不満だけど、これもいつも通り。

だけど、このメッセージがあるのとないのとでは、私の1日のやる気は雲泥の差になる。このメッセージがあるだけで、私は今日も1日「天使」でいられるのだ。

 

『ありがと。ひーくんも、学校頑張って』

 

トーク相手こと、ひーくんに再びメッセージを送信し、スマホをカバンにしまう。

さて、今日も1日頑張ろ!

 

ーーー

 

スターズの事務所に到着した私は、そのまま送迎車へと向かう…のではなく、社長であるアリサさんに会うために社長室へと向かう。

私のマネジメントやスケジュール管理を行っているのはアリサさんなので、そういった仕事に関する相談のため社長室に行くことは多い。

無駄に広い社内を迷うことなく抜け、社長室の前に到着した。扉を3回ノックすると、中から凛とした声が響いた。

 

「どうぞ」

 

扉を開けて中に入ると、クールな表情をした金髪の女性ーアリサさんーがデスクに座り、何やら仕事をしているようだった。

私の姿を認めたアリサさんは、殆ど表情を変えることないまま口を開いた。

 

「おはよう、千世子」

 

「うん。おはよう、アリサさん」

 

ややぶっきらぼうな挨拶に対し私は優しく微笑みながら答える。するとアリサさんは目を丸くして数秒硬直し、その後小さく溜息を吐いた。

私の可愛い挨拶を見て溜息を吐くなんて失礼だなぁ、とか呑気に考えていると、アリサさんが目を細めながら口を開く。その言葉に、今度は私の目が丸くなってしまう。

 

「貴女…昨日例の子と会ったわね」

 

例の子というのは、まず間違いなくひーくんの事だろう。私がプライベートで会うような人物はひーくんしかいない。

それは良い。ただ、疑問が1つ。

何でアリサさんは、私が昨日ひーくんを会ったことを知っているんだろう。

 

真っ先に思いつくのは……パパラッチに撮られ、それがリークされたということ。

撮られた写真が週刊誌に載ってしまえば私の人気は暴落。そうなれば、今後の女優活動に支障が出る。

まあ、それはそれで、ひーくんと一緒にいれる時間が増えるからいいけど。ひーくんと堂々と外を出歩けるようになるし、今まで行けなかった所にデートに行けるかもしれないし。

…あれ、思ったより悪くないな。人気は落ちるだろうけど、完全に女優活動が出来なくなるわけじゃないし。ひーくんとデートに行けるというメリットの方が大きいな。

 

いや、やっぱりだめだ。そんなことになったらひーくんにも迷惑が掛かってしまうかもしれない。

私とデートしているところを誰かに見られて、ネットに顔を晒されてしまうかもしれない。

それだけならまだしも、心無い人間たちから誹謗中傷されてしまう可能性もある。

そうなってしまえば、ひーくんの心は傷ついてしまうだろう。外に出るのが嫌になって、不登校になってしまうかもしれない。

そうなったら、私がひーくんを支えてあげよう、私の家にひーくんを連れてきて、24時間一緒にいよう。ご飯もお風呂も寝る時もずっと一緒にいて、ひーくんの心を癒してあげるのだ。

…うん、悪くないな。ひーくんとずっと一緒にいれるだけじゃなく、私に更に依存させることもできる。……最高か?

 

と、そこまで考えたところで、私は自分の考えの欠陥に気付く。

そもそも、ひーくんと私は別々にマンションを出入りした。つまり、マンションの入口を監視されていたとしても全く問題ないのだ。

問題になるとすれば、部屋に入る瞬間を撮られていた場合だが、昨日そんな気配は一切感じなかった。

つまり、パパラッチの線は薄い。となると、何故アリサさんにバレたのか、それが分からないんだよね。

私が1人でうんうん唸っていると、目の前のアリサさんが再び溜息を吐いた。

 

「…別に、週刊誌のリークとかじゃないわ。貴女のテンションが高かったからよ。それに、普段は感じない女の顔が見えたわ」

 

「嘘…そんなわけ…」

 

「そんな下らない噓を吐くわけないでしょう」

 

どうやら私は、自分で思っていた以上に浮かれていたようだ。それこそ、普段の調子が崩れてしまって、ひーくんの前でしか見せない表情が零れてしまうほどに。

確かに、昨日のひーくんは可愛すぎたし、ご飯も美味しくて凄く楽しかったけど…それにしても、アリサさんにバレるなんて…!

自分の浮かれ具合を自覚した途端、急激に恥ずかしさが湧き上がってくる。頬がピンクに染まっていくのが自分でもわかった。私はそれを隠そうと、両手で頬を覆う。

くそ、これも全部ひーくんのせいだ。ひーくんのせいでこんな恥ずかしい思いをしたんだから、責任を取って結婚してもらわないといけないな。

 

「……例の子と会う時は気をつけなさい。パパラッチ共はいつどこで狙ってるか分からないから」

 

「わかってるよ。その辺はちゃんとしてるから大丈夫」

 

呆れたように言うアリサさんの言葉に、しっかりとした言葉で返す。

 

「まあ、それならいいわ。それにしても、貴女がそこまで惚れこむなんて、1回会ってみたいわね」

 

「なに?スカウトしてデビューでもさせるつもり?ダメだよ。そんなことしたらひーくんのカッコよさが世の中の女にバレちゃうじゃん」

 

ひーくんがデビューしたら、ひーくんのカッコよさや可愛さが全国にバレてしまう。そうなれば、ひーくんに大量の女性ファンが出来るのは火を見るよりも明らかだ。

そんなことは許せない。ひーくんのカッコよさを知っているのは私だけでいい。ひーくんのことを愛すのは私だけでいい。

 

「そんなこと言ってないでしょう。ただ単に興味があるだけよ」

 

「ふ~ん…それならいいけど」

 

うーん…どこまで信用していいものか。この人は中々に腹黒いからね。私にはこう言ってるけど、隠れてスカウトする可能性も否定できない。

まあ、もしひーくんに会ってスカウトしなかったら、それはそれでイラつくんだけどね。……我ながら面倒臭い女だな。

 

「…ああ、世間話をしてたらこんな時間ね。今日はドラマの撮影でしょう?そろそろ行きなさい」

 

「うん。いってくるね」

 

アリサさんに別れを告げ、送迎車へと向かう。

長い通路を進み、エレベーターを経て駐車場へと到着した私は、いつもと同じ黒い車へと乗り込む。

そして、運転席に座っているマネージャーさんに挨拶をし、次に助手席に座る同僚に挨拶をする。

 

「おはよう、アキラ君。今日は頑張ろうね」

 

「おはよう、千世子くん。こちらこそよろしく」

 

車の運転を担当してくれるのは、私と同じくスターズの俳優で、社長であるアリサさんの息子でもある星アキラ君だ。今日撮影するドラマで共演するため、一緒に現場に向かう事になっている。

アキラ君はスターズの俳優の中でも高い人気を誇っており、特に若い女性や奥様方に人気だ。最近では子供向けの特撮にも出演しており、子供の人気を掻っ攫っているらしい。

確かに人気が出るのも頷ける整ったルックスだけど……私からすると、ひーくんの方がかっこよく見えてしまう。…というか、ひーくんの方が確実にかっこいいな、うん。何であんなにかっこいいんだろ?

あー、だめだ。こんなこと考えてると、ひーくんに会いたくなってきちゃう。昨日会ったばかりだし、これから撮影なのにこれは困る。この圧倒的な中毒性、もしかしたらひーくんは麻薬なのかもしれない。

あ、そうだ。

 

「ねえ、アキラ君」

 

「ん?」

 

「相談があるんだけど…いいかな?」

 

「相談……?君が…?」

 

私の言葉を聞いたアキラ君は、困惑を多分に含んだ声を上げた。まあ、アキラ君が困惑するのも無理はないけど。

私がアキラ君に何かを相談するなんてことは初めてだし、そもそも私が誰かに相談するというのが稀有な出来事だ。寧ろ今のアキラ君の反応が正常といえる。

 

「うん。だめかな?」

 

「別に構わないが……なんで僕なんだ?」

 

アキラ君の口から出た言葉は当然の疑問。私はその疑問に対し、正直に答えることにする。

 

「う~ん……アキラ君が一番、相談相手として良さそうだったから、かな?」

 

何を隠そう、今回の相談はひーくんに関するもので、男の人にしかできない相談だ。且つ、イケメンであれば尚良し。

世界で一番イケメンでカッコイイのはひーくんだけど、ひーくんは相談内容の当事者だから除外。となると、次の候補としてスターズの俳優が真っ先に思い付いた。

数多くいるスターズ俳優。その中でも上位のイケメンで、ひーくんや私と年齢も近いうえ、比較的仲が良く話しやすく、口が固そうなアキラ君を選んだのだ。

 

「僕は構わないが…」

 

アキラ君はそう言うと、車を運転してくれているマネージャーさんを横目で一瞥する。

ああ、なるほど。アキラ君は、マネージャーさんに聞かれても大丈夫なのか?って言いたいのか。

私としては聞かれてもいいんだけど…周りに言い触らされるのはちょっと困るな。まあ、口封じしておけば問題ないか。

 

「私は運転に集中していますので、会話を聞く余裕はありません。安心してください」

 

私が口封じをする前に、空気を読んだマネージャーさんが静かに呟いた。

なんて気が利く人なんだろう、と感心していると、アキラ君が静かに言を紡ぐ

 

「……内容は?」

 

アキラ君は未だに困惑した様子だが、素直に相談を聞いてくれるらしい。

私は数秒の間を置き、舌に音を乗せる。

 

「アキラ君って、今18歳だよね?免許あるし」

 

「そうだけど」

 

「あと、アキラ君ってさ、イケメンだよね」

 

「……え!?いや……は?」

 

私の言葉にアキラ君は見るからに動揺する。しかし私はそんなことを気にも留めず、マシンガンのように言葉を放ち続ける。

 

「女の子にもモテるよね?」

 

「千世子くん!?何を言って」

 

「じゃあ、女の子に誘われたこともあるよね?」

 

「ちょ…!まってく」

 

「どういう誘われ方なら、手出したくなるの?」

 

「…なっ…!」

 

私の口から次々と飛び出す言葉にアキラ君はかなり動揺していたが、最後の言葉がトドメになったようだ。聞いた瞬間に固まってしまった。

運転席のマネージャーさんも、アキラ君のように固まってはいないものの、何となく気まずそうな雰囲気を醸し出していた。

 

「…ち、千世子くん…からかってるのか?」

 

数秒後、再起動したアキラ君が震えた声で言うが、私はからかってるつもりはない。至って真剣な質問だ。

ひーくんに手を出させるために、ひーくんに隅々まで愛してもらうために、アキラ君の意見を参考にするための質問だ。

私はただ単に、ひーくんの強固な理性をぐずぐずに溶かすにはどうすれば良いかを考えているだけだ。アキラ君をからかうつもりなんて微塵もない。

 

「私は真剣だよ」

 

「………なんでそんなことを聞いてくるんだい?」

 

「そんなの決まってるでしょ?」

 

乙女が恥を忍んでそんなことを聞く理由なんて1つだ。

堕としたい相手がいるから、それ以外にない。

それを理解したアキラ君は、小さなため息を吐いた。そして言いにくそうに、俳優とは思えない弱気な声で告げる。

 

「あー…その……僕は女の人と、その……そういった経験がないんだ。だから…力になれそうにない、すまない」

 

「……あー…」

 

滅茶苦茶気まずい空気になってしまった。マネージャーさんも気まずそうにしている。

結局、アキラ君からはひーくんを堕とすためのアイデアは殆ど得られなかったけど、有用な情報は手に入れた。

アキラ君は童貞、これだけは覚えておこう。

 

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