歪の天使   作:やんでれてんし

6 / 9
こんばんは
今回は、もう、あれです。むしゃくしゃして書きました。後悔はしてない。


6話

 

目を覚ますと、目の前には見慣れた天井があった。

時刻は既に黄昏。太陽は既に沈みかけており、カーテンの隙間から見える西方の空は燃えるよな茜に染まっている。

黄昏時の影響は部屋に差し込む光にも表れており、見慣れた部屋は淡いオレンジによってグラデーションされ、何とも言えない雰囲気を醸し出していた。。

そんな部屋の中で、俺は本日2度目の起床を果たす。いや、正確には3度目…まあ、そこは別にどうでもいいけど。

さて、本日2度目の起床となった俺だが、1度目の起床時とは決定的に違う点がある。そう、俺が全裸だという事だ。

字面だけを見ると変態にしか見えないが、ここは俺の家で、俺の部屋なのだ。全裸だろうが何だろうが、文句を言われる筋合いはない。

と、言いたいところなのだが、今日に限ってはそうはいかない。そうは言ってられない理由が、この部屋に転がっている。

 

「……よく寝てんな」

 

その理由である幼馴染にチラリと横目を向けると、目を瞑って気持ちよさそうな表情をしている。疲れもあるからか、ぐっすり眠っているようだ。

こいつの寝顔を見るのも、本日2度目だ。1度目と違う点があるとすれば、こいつが一糸纏わぬ産まれたままの姿をしているということだ。

今現在は布団によって隠れているものの、まるで天使を思わせる美しい肢体は思い出すだけで情欲を搔き立てられる。

そんな彼女と俺は現在、同じ布団に包まり、互いに体を寄せ合っている。つまり、ムードも何もない言い方をしてしまえば、事後というやつである。

頭の中で改めて状況を整理すると、どうしようもなく頭を抱えたくなる。というか実際に頭を抱えたまま、小さな声を零した。

 

「やっちまった……」

 

そう、やっちまったのである。いろいろな意味で。

 

「今までの我慢が…」

 

今までは手を出さないように、自分の激情がバレないように、必死で心に鍵をかけてきたが、今日はもう限界だった。

だって、ねえ?同じ布団の中で、好きな相手にあんなこと言われて我慢できる男が居るか?いや、いない。

相手が一般人なら俺も何も思わない、とまでは言わないが、ここまで頭を抱えることはなかっただろう。ただ、今回の相手は一般人ではないのだ。

相手は言わずと知れた国民的人気女優。もし万が一、このことが世間にバレると大変不味い。碌なことにならないのは火を見るより明らかだ。

とはいえ、このことは俺とこいつしか知らないから、バレる可能性は低いだろう。あまり気にしなくてもいいかもしれないが。

そんなことよりも、俺の脳内は別のことでいっぱいだ。

そう、情事中の俺の言動である。

まあ簡単に言えば、今まで我慢してきた分、暴走してしまったのである。

興奮しすぎてあんまり覚えていないが、何か滅茶苦茶に臭いセリフを連発してしまった。思い出したくないので具体的には思い出さないが、黒歴史入りするのは間違いない。

そのうえ、1回だけでは溜飲は下がらず、何回も致してしまった。…まあ、これに関しては千世子もノリノリだったっぽいから問題ないかもしれない。思春期の性欲ってすげー。

不幸中の幸い、と言っていいのか避妊はしっかりしていたので、そっちの心配はないだろう。

半年前に買うだけ買って結局使わず、引き出しの奥に眠らせていたゴムが役に立つ日が来るとは思ってもいなかったが。

 

「ん……」

 

俺が色々と考えている間に、千世子が目を覚ましたようだ。未だに眠そうな視線と、俺の視線が重なる。

目が合ってから数秒後、千世子は柔らかく微笑んだ。

 

「ふふ…しちゃったね?」

 

「…あんま言わないでえ」

 

しちゃったのは事実だから何も言い返せないが、それを面と向かって本人から言われるのはかなり恥ずかしい。

自分の頬が熱を帯びていくのが分かってしまい、そのせいで更に恥ずかしさが増していく。

 

「事実でしょ?」

 

「そうだけどさあ…」

 

「私の初めて、ひーくんに捧げちゃった」

 

そんな俺の想いを知ってか知らずか、千世子が再び恥ずかしいセリフを発する。

こいつのこの感じ、俺が恥ずかしがってるのを分かってわざと言ってやがるな。俺が狼狽えるのを見て楽しんでやがる。

こいつは天使じゃなくて小悪魔かもしれない。

 

「私の初めてを奪ったんだからさ、当然、責任は取ってくれるよね?」

 

本当の小悪魔みたいな表情の千世子に、俺は思わず苦笑。

奪ったというか、奪うように誘導されたというか……どちらにせよ、致したという事実には変わりはないが。

となれば当然、千世子の発言にも正当性が出てくるわけで。

 

「責任は取るよ」

 

「ふふ、嬉しい。じゃ、ひーくんは今から私の物ね」

 

「まあ…っ!いっ…!」

 

千世子に言葉を返そうとした瞬間、右肩に鋭い痛みが走った。

原因は一目瞭然、何故か千世子が俺の方に思いっきり嚙みついているのである。

小悪魔じゃなくて吸血姫だったの、こいつ?

 

「千世子……なにして…」

 

俺が戸惑いながら問いかけると、千世子は漸く俺の肩から口を離す。

肩には千世子の歯形が濃くはっきりと刻まれており、血が滲んでいる箇所もある。

 

「え、マーキング。変な虫が付かないように、私の物だって刻んでおかないと」

 

ああ、さいですか。普通に痛かった。

 

「これで…ひーくんは私の物だよ」

 

千世子が俺の肩についた歯形に舌を這わせ、滲んでいた血液を舐め取る。

勝手に所有物認定されてしまったが、普通に考えて千世子の所有物になるってのは御褒美だ。俺に不満はないし何なら燃える。

 

「そして…私はひーくんの物。いつでも、どこでも、私のこと好きにしていいからね」

 

上目遣いで言う千世子の言葉に、思わず喉を鳴らす。

千世子が俺の物……?いいんですか…?というか、好きにしていいの?じゃあ、あんなことやこんなことも良いってこと…?

 

「……」

 

俺が半分混乱した頭で色々と想像を膨らませる中、千世子が何か言いたげなジト目で俺を見つめていることに気付いた。

数秒間、千世子の言いたいことを考えてみたが、いまいちピンと来ない。もうしょうがないので、本人に聞いてみることにした。

 

「千世子?どうしたの」

 

「ねえ、ひーくん。私たち、セックスしたよね」

 

「急にどうしたの」

 

「したよね?」

 

「あ、はい。しました」

 

唐突に直球をド真ん中に放り込んできた。オオタニサンもびっくりの剛速球だ。

投げた本人の瞳は有無を言わさぬ迫力を孕んでいて、何だかちょっとこわい。

 

「つまり、私たちは相思相愛ってことだよね」

 

「そうなるのか」

 

俺としてはまだ実感がわかないけれど、千世子が言うならそうなんだろう。

俺が千世子のことが好きなのは揺るぎない事実なわけだし。

というか今の発言、実質的な告白なんじゃ…?

 

「何か、言う事があるんじゃないの」

 

千世子が拗ねたような様子で言う。そこまで聞いて、俺にも千世子の言わんとしていることが理解できた。

確かに、体を重ねた以上、男の俺から言わないといけない。すっかり失念していた。こういうのは、男から言わないとな。

互いに裸のままで言う事ではないかもしれないけど、他でもない天使様からの要望だからな。

俺は小さく深呼吸をし、千世子の綺麗な瞳を見つめる。意を決して、吐き出す息に言葉を乗せた。

 

「千世子、結婚しよう」

 

「うん…………??……っっ!!!?!!!?!?!?!??」

 

俺の言葉を聞き、千世子は返事をする。そして数秒間停止した後、顔を真っ赤にしてしまった。

真っ赤なお顔の千世子さんは、誰が見ても分かるくらいにパニックに陥っており、とうとう顔を伏せてしまった。

なんか、思ってた反応と違う……これが正解じゃないの…?

 

「ち、千世子…?」

 

俺が千世子に声をかけるも、返事はない。俯いたまま、何も反応がない。

一体、何が起きたんだ。俺のさっきの言葉、気に入らなかったのか?う~ん、分からん。どうしよう。

どうしたもんかと考えていると、不意に千世子が顔を上げた。そしてそのまま、勢い良く俺を押し倒した。

思わずうおっ!?と声を上げてしまうが、千世子はお構いなしに俺をベッドに押し付け。俺の腹の上に座る。

互いに全裸のため、千世子の色んな場所が丸見えだ。このままじゃ息子が反応してしまう、というか半分してる。息子が完全に起きてしまう前に静かに口を開く。

 

「えっと……千世子さん?」

 

「ん?なに?ひーくん」

 

俺の上に乗る千世子は、柔らかい笑みを浮かべているが、その目は笑っていない。

そう、この目は、獲物を見つけて時の捕食者の目だ。

その目を見た瞬間、全身に鳥肌が立つ。俺の中にある生物としての本能が、身の危険を訴えかけてくる。

 

「ちよっ!」

 

俺がもう一度名前を呼ぼうとするも、千世子の唇によって無理やり口を塞がれる。

千世子の舌が俺の口内で暴れ回り、息をする暇がないほどにドロドロに蹂躙される。

数分間に渡る間の深い口づけを終え、互いに息を切らしながら唇を離す。互いの唇は、透明で卑猥な橋で繋がっていた。

目の前に見える千世子は頬を紅潮させており、息も荒い。端的に言えば、完全に発情している。

 

「ね、ひーくん?結婚してくれるんだよね?」

 

「え、あ、うん」

 

「ふふ、嬉しいなあ……。じゃあ私たちもう、実質新婚だよね?」

 

「え、うん……?そうなのかな…?」

 

まだ婚姻届も何も出してないし、それは違うんじゃ……と言おうとしたが、千世子の迫力に負けてしまい口を噤む。

千世子は発情しきった顔のまま、自らの興奮をそのまま声に乗せた。

 

「新婚の夫婦がすることと言ったら、決まってるよね」

 

千世子はそこまで言うと、体を倒して互いの上半身を密着させる。

人肌の心地良さを感じる間もなく、千世子が俺の耳元で熱を孕んだ吐息を零す。

 

「こども……つくっちゃおっか」

 

「は!?」

 

こども?こどもってあの、コウノトリが運んでくる子供?

え、こどもつくるの?今から?え、あ…あ、えぇ?

千世子の爆弾発言が凄まじすぎて、俺がパニックを起こしてしまう中、千世子は妖艶な笑みを浮かべて口を開いた。

 

「だめ?」

 

「…………い…ダメっていうか…普通ダメじゃない?お前女優だろ」

 

千世子があまりにも可愛すぎて、一瞬いいよって言いそうになったが何とかギリギリ平静を取り戻し、理性を限界まで働かせる。

さすがに子供はまずい。千世子は国民的な人気女優だ。そんな彼女が妊娠したとなれば世間は大騒ぎになってしまうだろうし、千世子の事務所も許さないだろう。

それに、まだ俺たち高校生だ。子供を作っていい歳じゃないし、責任を取れない。

 

「なんでダメなの?私はいいよ。お金もあるし」

 

「いや、お金とかじゃなくて……よくないって。下手したら女優引退することになるだろ」

 

「ふーん」

 

俺の言葉を聞いた千世子は、どこか不満げだ。頬を膨らませたまま、俺の耳元まで顔を近づけてくる。

 

「…私は、ひーくんの子供ほしいけどなぁ」

 

「…っ!…ダメなもんはダメ」

 

「いいじゃん。しようよ」

 

「……だめです…!」

 

「結婚するんでしょ?」

 

「…まあ、いずれは」

 

「じゃあ問題ないじゃん」

 

「問題しかないよ」

 

理性が揺さぶられるが、俺の理性はそこまで脆くはない。心の奥底からマグマのように湧き上がってくる、こいつの人生をめちゃくちゃにして俺の物にしてやりたい、という欲望を必死で抑え込む。

…が、必死で欲望を止めている理性の壁に、千世子が楔を打ち付ける。早く壊れてしまえと言わんばかりに、俺の感情を揺さぶる。

 

「…もう私、我慢できないよ。ひーくんの存在を、私に刻み付けて欲しいの」

 

「……だめだって…」

 

「ねえ、ひーくん。私の人生、ひーくんがめちゃくちゃにしてよ。全部壊して、何もかもひーくんの物にしてよ」

 

「…っ!!」

 

「きゃっ!」

 

その言葉を聞いた瞬間、俺の体の操縦権が無くなってしまった。自分の体なのに、言うことを聞かない。

俺の体は俺の意思と関係なく、腹の上に跨っていた千世子の肩を掴んでベッドへと押し倒していた。安物のベッドが深く沈み込み、静かな部屋に枠組みが軋む音が響く。

 

「あ…」

 

やばい、やってしまった。思わず押し倒してしまった。

千世子に謝罪をし、起き上がろうとした瞬間、千世子が両足を俺の腰に回し、ガッチリと掴んだ。

 

「うおっ…!」

 

バランスを崩してしまい千世子の上に倒れ込む。顔面が千世子の控えめな胸に墜落した。

顔を上げると、目の前に千世子の顔がある。潤んだ瞳と火照った頬が、どうしようもなく俺の情欲を掻き立てる。

 

「……ねえ」

 

いつの間にか、夕日が沈んだのだろう。差し込む茜が消え、暗闇と静寂に包まれた部屋。

俺の呼吸音と、千世子の控えめな声だけが部屋に響く。

 

「ひーくんのしたいようにして?」

 

千世子の声が…吐息が、俺の耳に届き、脳の奥まで入り込み、全身を震わせる。

まるで毒のように俺の心と全身を蝕み、何もかもを溶かしていく。

 

「…はやく、私の全部を犯してよ」

 

俺は頭の中で、本日2度目の理性が壊れる音を聞いた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。