歪の天使   作:やんでれてんし

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わ、わぁ〜、久々の投稿なのに感想がいっぱい…!




9話

 

 「ひーくん、見て。海が綺麗だよ」

 

 「ほんとだ。超青いね」

 

 窓の外に映る群青を指すと、隣に座るひーくんも同じように窓を覗き込んだ。

 飛行機の小さな窓からではあるが、ひーくんと一緒に綺麗な海を眺める……最高か?

 そう。私とひーくんは今、飛行機に乗って、私が主演を務める映画の撮影地である南の島へと向かっている最中だ。

 

 何故、ひーくんが私と一緒に映画の撮影地に向かっているのか。それはまあ、私が色々頑張ったからだ。

 映画の撮影期間は1ヶ月。その間は多忙になってひーくんと会う時間が激減する。が、そんなことは許せない。

 私はひーくんと一緒にいるためなら何でもする。だからアリサさんと交渉して、ひーくんを撮影地まで連れていく権利を勝ち取った。

 難しい交渉になるかなと思ってたけど、昔の約束を出したら意外にもあっさり折れてくれた。流石、話の分かる女だね。

 あとはひーくんが了承するかどうか、って話だったけど、ひーくんが私のお願い(超強引)を断るわけないし、そこは簡単だったかな。

 

 そんなこんなで、ひーくんと一緒に南の島へ行くことに。仕事があるとはいえ最高のシチュエーションだ。

 ……唯一不満があるとすれば、2人きりじゃないってことだけ。

 

 本当はひーくんと2人きりで島まで向かいたかったのだが、流石にそういうわけにもいかず。

 この飛行機には、同じ映画に出演するスターズ所属の役者たちが11人―私含めて12人、乗っているのだ。

 まあ会社のプライベートジェットだから、他の客がいないだけ良しとしよう。

 

 とはいえ、周りの同僚に特に説明することなくひーくんを連れてきたからか、合流した瞬間から色々な視線が私達に突き刺さっている。説明したほうが良かったかな。

 私は何とも思わないけど、一般人のひーくんは少し居心地が悪そう……じゃないな、うん。ひーくんは全然いつも通り…どころか滅茶苦茶寛いでる。

 今だって備え付けのお菓子を食べながら「イルカいないかな~」とか言って海を眺めてる。私のフィアンセにふさわしい強メンタルだ。

 

 「ひーくん。私もお菓子食べたい」

 

 「ん」

 

 そう言って口を開けると、ひーくんはクッキーを食べさせてくれる。恋人たちがよくやる「あ~ん♡」ってやつだ。カップルって感じがしてテンションが上がる。

 ひーくんがいれば撮影もいつも以上に頑張れる気がする。もう少しで島に着くし、ひーくんに良いところ見せちゃおっかな。

 そして夜はイチャイチャして……ふふ、楽しみだなあ。

 

 

 

 

 「水無瀬くん?」 

 

 「あ、夜凪」

 

 ………………………………は?

 

ーーー

 

 千世子が主演を務める映画の撮影地…普段は観光地となっている南の島へと到着した。

 なぜ一般人の俺がこんなところにいるのかは……千世子に聞いてくれ。俺だってよくわかってないんだ。

 千世子から受けた説明を要約すると、1ヶ月間千世子の傍で生活すればいいらしい。

 なんで?って聞いたら「映画撮影で忙しいと、ひーくんに会えなくて寂しいから」って言われちゃった。可愛すぎて脳みそが死んでIQが5億下がった俺はホイホイ南の島まで付いてきてしまった。ちょろい。

 

 「お、来た来た。お疲れ様、皆。オーディション組はもう到着してるから合流しちゃおっか。さ、付いてきて」

 

 何やらサングラスをかけた胡散臭いおっさんが話しかけてきた。夜道で話しかけられたら逃げ出すくらいには胡散臭い。

 のだが、誰1人として悲鳴を上げたりはしないし、何なら言葉に従っておっさんに付いていってるのを見るに、このおっさんは映画撮影のスタッフなのだろう。というわけで、俺も大人しくおっさんに付いていくことにする。

 徒歩でテクテクと歩く道中、同じように隣を歩く千世子が声をかけてきた。

 

 「今の胡散臭い人が監督の手塚さん」

 

 監督だったんだ、めっちゃ偉い人じゃん。胡散臭いのに。

 

 「挨拶した方が良かったかな」

 

 「大丈夫じゃない?ひーくんのことはアリサさんから伝わってるだろうし」

 

 千世子はそう言うが、こちらとしては撮影現場にお邪魔している立場なので、一言くらい挨拶はしておいた方がいいだろう。まあ後で時間があったらしておこう。

 

 「そういや、この映画って一般からの参加もいるんだっけ」

 

 「うん。一般のオーディション合格者とスターズで半々だよ」

 

 夜凪もこの映画のオーディション受けるって言ってたけど受かったんだろうか。倍率がエグイことになってたから確率は低そうだけど、あいつならワンチャンスありそうだ。

 ……いや、そもそもあいつスターズ事務所のオーディション落ちてんだよな。じゃあスターズ主催の映画のオーディションに受かるわけないか。

 

 そのまま暫く歩いていると、目の前にペンションというかホテルというか、ロッジ的ななんかそんな感じの建物が見えてきた。恐らく、あそこが寝泊まりする場所になるんだろう。

 そして、宿舎の前には多くの人が集まっている。スタッフと思わしき人間と……若い男女。あれが一般オーディション組だろう。

 

 「はい。じゃあ全員揃ったね。まあ一応、簡単に自己紹介でもしておこうか」

 

 監督の言葉に続いて、まずはスターズ側の自己紹介が始まった。

 これ、俺も自己紹介した方がいいのかなぁ……とか考えていると、正面に立っている女子と目が合う。

 濡羽色の美しい髪を持つ少女は、俺を見た瞬間に驚愕で目を剝いた。

 

 「水無瀬くん?」 

 

 「あ、夜凪」

 

 その少女は、高校の同級生である夜凪景だった。

 夜凪、オーディション受かってたのか。流石だな~。

 

 「オーディション受かってたんだな。おめでとう」

 

 「ありがとう。……それよりも、水無瀬くんは何でここに?…もしかして、スターズの人だったの!?」

 

 「え?いやいや、違う違う」

 

 「じゃあ何で?」

 

 「天使に拉致られた」

 

 「?????」

 

 夜凪から至極真面な質問が飛んできた。確かに、本当に映画に1ミリも関係ない只の一般人である俺がこの場にいるのは不自然すぎるな。

 そんな問いかけに偽りなく正直に答えるが、夜凪は理解不能といった感じだ。頭の上に何個も"?"が浮かんでるし、宇宙猫みたいな顔してる。

 

 「えっと、ひーくん?え、なに?夜凪さんとはどういう関係?」

 

 夜凪と話していると、不意に千世子が話しかけてきた。いつものような笑顔を浮かべ…ひえっ……目が笑ってないよぉ…。

 

 「ただの同級生だよ……ははは」

 

 「ふうん。女の同級生と、随分仲が良さそうだね?」

 

 「ひん…」

 

 大天使チヨコエルが堕天使になっちゃった…。こわい。

 

 「水無瀬くんと千世子ちゃん、知り合いなの?」

 

 「うん。それより、夜凪さんはひーくん……水無瀬千尋の何なの?」

 

 目が笑ってない千世子に威圧されていると、夜凪が口を挟んできた。それにより千世子の圧が夜凪に向かう。助かった。

 

 「水無瀬くんとは友達よ!この間は屋上で一緒に授業をサボったの!」

 

 「……へえ?」

 

 全然助かってなかった。

 キラキラした瞳で答える夜凪とは真逆、千世子の瞳にはドス黒い闇が渦巻いている。

 

 「そっか、夜凪さんはひーくんと一緒に授業サボるくらい仲いいんだ?」

 

 「そうね。あと偶に、朝一緒にランニングしてるわ」

 

 「ふ~ん……」

 

 ちらりと、横目で俺を一瞥する千世子。こわい。

 

 「じゃあただの友達って感じか。なるほどね」

 

 「そ、そうそう。夜凪とはただのと」

 

 「ま、詳しい話はあとで聞かせてね?ひーくん?」

 

 死。

 

ーーー

 

 色々とあったが、その後は特に問題なく撮影がスタートした。一般人の俺は隅っこで見学しているだけだが、撮影を見てても何も分からないので、ただひたすらにぼーっとする時間が続いている。暇だし1人で手相占いでもしよっかな。

 えっとまず生命線…あれ、なんか途切れてる?俺は…死ぬのか?

 

 「おーい。水無瀬?で合ってるよな」

 

 後ろからの呼び声に振り向くと、そこには1組の男女が立っていた。いかにもチャラそうな男と、真面目そうな金髪の女子。

 確か、スターズ組の2人だったはず。名前は……分かんないや。

 

 「はい、もうすぐ死ぬ予定の水無瀬です」

 

 「お、合ってた合ってた…え、死ぬの?」

 

 「うん……」

 

 「おお…そうか………ご愁傷様です?」

 

 「なんですかその会話…」

 

 俺とチャラ男の会話に、金髪女子が呆れたような声を出す。

 

 「竜吾さん、あんまりふざけないで。あと水無瀬さん、簡単に死ぬとか言っちゃだめですよ」

 

 「え、でも生命線が……」

 

 「おお、こりゃ不味いな。バッサリじゃねえか。ほら、和歌月も見ろよ」

 

 「わ、本当ですね。ご愁傷様です…………じゃなくてっ!水無瀬さんに用があるから来たんでしょ!」

 

 素晴らしいノリツッコミだ。この子、真面目そうに見えるけど案外ノリはいいのかもしれない。

 

 「……俺に用?えっと……」

 

 俺が言葉に詰まると、2人は揃って首を傾げた。

 ……言えない。スターズの俳優に対して、名前(上下)を知らないなんて…そんな失礼なこと言えない。

 ……………どうすれば…。

 

 「……もしかして、俺らの名前知らない感じ?」

 

 なんて誤魔化そうか頭を回していると、男の方が核心を突いてきた。

 もはや誤魔化すのは不可能なので、小さく頷いて肯定する。

 

 「おお……まじか。和歌月はともかく、俺も知らないのかよ」

 

 「まあ、私はデビューしたてですけど、竜吾さんは結構有名ですもんね」

 

 「結構ってなんだよ。滅茶苦茶有名だわ」

 

 どうやら女子はそこまでみたいだが、男の方は有名人らしい。申し訳ないけど全然知らない。だってテレビとか映画とか、千世子以外に興味ないし……。

 

 「ま、いいや。俺が堂上竜吾で、こっちが和歌月千。どっちもスターズの俳優な。よろしく」

 

 「水無瀬千尋です。よろしく」

 

 俺が知らなかったことを特に気にする様子はなく、普通に自己紹介をしてくれた。2人とも俺の名前は知ってるみたいだったけど、一応こちらも名乗っておく。

 

 「で、水無瀬。1個聞きたいんだけど……お前、千世子とどういう関係なの?」 

 

 「え~っと……」

 

 堂上くんが単刀を直入してきたので、思わず言い淀む。横の和歌月さんも興味津々といった様子だ。

 どういう関係、と聞かれると答えに困る。だって、俺もよくわかってないんだもん。

 まあ、幼馴染ではあるが……俺と千世子って付き合ってるの?う~ん……。

 

 「婚約者だよ」

 

 俺がなんて答えようかと頭を抱えていると、聞きなれた声が耳に届いた。

 振り向くと、高校の制服らしき衣装に身を包んだ千世子が立っていた。

 

 「え、婚約者…?マジで?」

 

 突然の爆弾発言に、堂上くんと和歌月さんは目を見開いて驚愕している。そして、俺も内心で驚いていた。

 え、婚約者ってことは、千世子と結婚できるの?最高じゃん。やった~!

 

 「マジだよ。将来、私とひーくんは結婚するの。ね?」

 

 「する」

 

 「…おま、そういう相手いたのかよ…」

 

 「…それ、私達に言って良かったんですか?世間にバレたりしたらマズいんじゃ…」

 

 「うん。だから……内緒にしてね?」

 

 千世子は可愛らしく微笑むと、両手を顔の前で合わせて『お願いポーズ』を見せる。

 そのあまりの可愛さと圧倒的な魅力に負けたのか、2人は無言のままコクコクと首を縦に振った。

 

 「じゃ、ひーくん。私、今日の撮影もう終わったから、ロッジ行こっか」

 

 「いいけど、俺の部屋ってちゃんとあるの?」

 

 「ひーくんの部屋?ないけど」

 

 「え?……野宿?」

 

 「違うよ。ひーくんは私の部屋で寝るんだよ」

 

 「ああ、俺のプライベートが死んだ…」

 

 さっき見た生命線ってそういうこと……?

 

 「ぁ……そっか、そうだよね。私と同じ部屋……嫌だよね」

 

 「嫌じゃない!」

 

 瞳を潤ませる千世子。それを見た瞬間、口が勝手に動いた。

 よく考えたら、千世子と同じ部屋なんてただのご褒美だ。俺のプライベートと天秤にかけるまでもない。

 プライベートは死んだんだ。あいつぁ……良い奴だったよ

 

 「だよね!じゃ、早く行こ?」

 

 「えっ、あれ?」

 

 一瞬で涙を引っ込め、輝くような笑みを浮かべた千世子が俺の腕に抱きついてくる。

 どうやら、さっきの涙は演技だったらしい。くっ、流石は若手トップ女優…さすがの演技力だ。

 

 「さっきの続き……夜凪さんとの話も聞きたいしさ」

 

 何やら不穏なセリフが聞こえた。どうやら、プライベートだけじゃなく本体も死にそうだ。生命線~~!お前のせいだぞっ!

 腕を組みながら歩いている俺たちは、傍から見れば仲のいいカップルのように見えるだろうが……実情は堕天使に捕まった子羊だ。ああ、哀れなり。

 まあでも……よく考えたら、千世子と同じ部屋だし、ちょっと死ぬくらい別に良いか。むしろプラマイプラスだな。ガハハッ! 

 

 「じゃ、またね」

 

 「お、おお。またな…」

 

 「あ、はい。また…」

 

 堂上くんと和歌月さんに笑顔で手を振ると、2人は何だか複雑な表情を浮かべていた。そんな2人に見送られながら、俺は千世子と共にペンションに向かった。

 




次回、死。
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