ルドルフ総督と"代理"の対談はその後、5時間以上も続いた。
ルドルフはあの手この手で有用な情報を出来る限り引き出そうとし、"代理"は出来る限り情報を与えないようのらりくらりと嘘も混ぜつつ躱し続ける。
彼がこの長い対談で得た情報は、組織の目的、おおよその規模感、どの程度、帝国側の情報を握っているかの予測。ウェスティンレオーネにあるヤゲノ亡命政府と繋がりがある可能性。といった程度のものだった。
組織の目的などは、聞かずとも分かるものであったため、余り収穫があるとは言えなかったが、ルドルフはそれなりに満足していた。
なにせ、今まで全くと言っていいほど尻尾を掴めずにいたのだから。僅かでも情報を得られればそれを手懸かりに探ることも可能になってくる。
少し薄暗い部屋の天井近くに掛けられた時計の針が9:30に近づきつつあった頃、ルドルフは"代理"に言った。
「君はどうやら見捨てられたようだな。君のボスは土壇場になって怖くなったんじゃあないか?」
「まだ、30分ありますよ」
揺さぶるつもりで発した言葉にも"代理"は全く動じる様子を見せない。
「フッ..強がりを。どうだ?見たところ君は優秀そうだ。我々の元で働かないか?」
総督は更に揺さぶりをかけることにした。
「私は"劣等民族"ですよ」
「だからこそ、だ。別の反抗組織に潜入するスパイ。街中で住民を監視、君が望むなら名誉帝国人にだってしてあげよう。私にはそれぐらいの権限はある。どうだ?君を見捨てた組織の情報を君の知る限り全て教えてくれれば、君の罪は帳消しにする。悪くない話だろう?」
ルドルフはそう、親しげな調子で、笑顔をその顔に貼り付けながら言う。
"代理"はフッと笑うだけで、何も答えなかった。
ルドルフは彼が笑ったことに気付かなかったのか、気付いていてなお、それを迷っていると解釈したのか、更に畳み掛ける。
「他にも何か望みはあるか?ある程度のことなら叶えるぞ」
"代理"は少し哀れむような目でルドルフを見た。
「レジスタンスに対して他のレジスタンスを追い詰めろ、とはね。名誉帝国人。ハッ。そんな風にあんたらの支配を受け入れる人間が、反乱に参加するとでも?」
「どうせ君の組織に未来はないんだ。諦めて帝国に恭順するだけで、君の今後は保障されるのだぞ」
"代理"の言葉に少々不機嫌になり、笑顔が崩れかけつつも、ルドルフはなお、彼が"飴"だと思う言葉を並べる。
それに対して、"代理"は暫くうつむいた後、溜め息を一つ吐き、再び顔を上げた。
「残念ながらお断りします」
はっきりと断りの言葉が"代理"から発せられると、ルドルフの顔から貼り付けていた笑みが瞬時に消え、冷たい、抑揚のない声が代わりに発せられる。
「残念だ。では、この会合はお開きだな」
ルドルフは、手で側に控えていた部下達に命じ、立ち上がる。
その時、時計の針が丁度9:30を指した。
爆音。
部屋中に爆発音が響き渡り、薄暗い部屋が一瞬、昼間のような明るさになる。
「なんだ!?」
部屋中の人間の注意が"代理"を飛び越し、その後ろにある窓の外へと向かった。
その瞬間、"代理"は机に飛び乗り、滑るようにして向かいにいるルドルフの後ろへと回り込んだ。
そして、ルドルフを組伏せ、自身の右手のひらを彼の頭に当てる。
「総督!!」
周囲の部下達はさすが軍人というべきか、素早く反応し、瞬時に銃を"代理"に向ける。
だが、一瞬の遅れのせいで、"代理"の身体は半分ほどルドルフの後ろに隠れてしまっており、彼は盾にされた格好となってしまっていた。
「こいつは武器を持っていない!取り押さえろ!」
ルドルフは必死に身を捩りながら部下に命じる。
部下達はそういえば数時間前に"代理"の身体検査もしていたことを思い出し、彼を取り押さえにかかろうとした。
「やめておけ。私は魔導士だ」
魔導士ならば、武器などなくともこの至近距離から魔力を放てばルドルフの頭など簡単に消し飛ばせてしまう。
故に、"代理"のその一言は彼らの動きを止めるには充分過ぎる程の効果があった。
「油断だね。君達は全員、自分達が優位にあると慢心していた。その上、私達を"劣等"と見下し、自分達の方が優秀だと疑わなかった。だから、こういう穴が生まれる」
"代理"は淡々と彼らをそう評すると、ルドルフを片腕で拘束し、手を彼の心臓部辺りにかざし直しつつ、立ち上がった。
外は親衛隊や軍の人間が大慌てしていることが手に取るように分かる程に騒がかったが、対照的に、室内は静寂が支配していた。
だが、直ぐにその静寂を"代理"が破る。
「私は、ヤゲノ解放軍のR.B!ここからは、我々のターンだ !」
解放軍のアベルは、そう不敵に笑うのだった。