Unser Kampf   作:ライト鯖

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未来

 

帝暦1934年8月23日 共和暦0年

 

その日、民主国家連合は、驚愕や悲嘆、困惑に征服されていた。

余りにも突然のこと。

自由連合軍を支持している人々は混乱し、悲しんだ。自由連合軍と同盟し、民主国家連合へと参加している各民族の代表達は、驚愕し、まず疑念をヴェルナーに向けた。

権力を一手に収める為に、謀殺したのではないか、と。

だが、直ぐにそれは払拭される。

殆ど同時に、ヨアヒム=ドーペルトの逮捕が発表されたのだ。

 

彼は、クーデターとアベル、ヴェルナーの斬首作戦を同時に行い、混乱の隙を付き、全権を掌握、独裁者として君臨するつもりであった、と。

ヴェルナーも狙われていた、ということは、その場に居合わせたエミリアらの証言と床にある弾痕の数から明らかとなった。と報じられた。

これによって、ヴェルナーへの疑念は晴れ、ヨアヒムへの非難が集中することになる。

だが、レオニカ人の軍人が独裁者となろうとした、という事実は、レオニカ人とそれ以外の人々に溝が生みかねない、ということで、同じくレオニカ人であるルーカスが、ヨアヒムの野望を暴いた英雄ともされた。

ヨアヒムと数人の個人的野望であり、大部分は何も知らされておらず、騙されていた、その構図をはっきりさせることで、レオニカ人に対する悪感情を和らげる方策に出たのだ。

これによって、元々差別をしてきていたレオニカ人であるため、それらが払拭されたわけではないが、新たな火種となることはなかった。

そして、アベルの死を悼む目的と、それでも民主国家連合の歩みを止めてはならない、というメッセージを込め、ヴェルナーと最高会議議員らの合意によって、新たな暦が

策定された。

 

          共和暦

 

新たな、共に生きる未来を、王も、独裁者もいない未来を数える暦。

次の年の一月一日を共和暦一年とすることが決定され、今年の間は、0年とされた。

 

こうして、後に、ヨアヒム=ドーペルトクーデター未遂として記録される事件は、民主国家連合、表の顔として、英雄となったアベルの喪失で幕を閉じる。

だが、ヨアヒムを上手く使ったことで、民主国家連合の分解は避けられ、アベルの残した遺産は、多くの問題を抱えながらも、歴史の海へと漕ぎだしたのだった。

 

 

共和暦2年8月22日

-民主国家連合 首都 レパブリア特別市(旧レオンスブルク)-

 

二年前までレオン帝国の帝都であったこの街は、最高会議議員選挙の実施実験、選挙区の割り振りなどを実地で確かめるために、民主国家連合初めての国政選挙として新たな名前が選挙によって定められた。

まず、名称を公募し、最高会議で幾つかの候補に絞り込み、投票にかけたのだ。

そうして、レパブリアと名を新たにしたこの都市は、二年前からは考えられない程に、民族的多様性に満ち溢れた空間となっていた。

議員や閣僚、官僚達とその家族だけでも、かなりの数であり、首都の人口構成を変化させるには充分であったが、それに加え、多くの移住者が集まっていた。

 

そして、アベルの死から丸二年が経ち、どうにか安定しつつあるこの国は、ついに議員選挙を行うこととしたのだ。

投票は二ヶ月後、そこで、民意に基づいた最高会議が誕生する。

既に、ヴェルナーは憲政民主党を組織し、活動を始めていた。

彼曰く、やり残したことが多すぎる。とのことで、まだまだ議長の座を降りるつもりはないのだ。

 

そして、そんなヴェルナーの執務室にて、この日、喧々諤々の議論が交わされていた。

 

「何故です!ローベルト達の研究であのミサイルは完全解体が可能と分かったじゃありませんか!」

ヴェルナーの机を叩くようにして抗議しているのは、外務大臣となっていたエミリア=ギャズダであった。

「君の気持ちは分かる。だがな、現実を見た前よ。君も知っているだろう?今の国際情勢を!」

ヴェルナーも全力で反論していた。

そう、彼らは、レオン帝国総帥の置き土産、魔力を大量に込めた巨大爆弾の処理について、正反対の意見を有していたのだ。

ローベルトらの研究、分析は多くの時間を要した。

何せ、作った本人達も、解体する等全く思考には入れずに設計していたので、何処から取りかかれば安全か、など知らなかったからである。

本来、そのつもりがなくても想定されてしかるべきものだったが、初めの五発は確実に使うから早く完成させることだけを考えろ、と急かされていたので、そうせざるを得なかったのだ。

故に、彼らは図面からミサイルと爆弾の仕組みをローベルトらに共有しつつ、分析し、共有を受けたローベルトらも、それに加わることで、二年近い時間を掛けて、一発を完全に解体。これでもって、解体が可能であると、結論付けたばかりであった。

 

アベルは、解体を命じていた。

その理由は、エミリアにもヴェルナーにも分かっていた。

抗い様のない力で無理やり他国を押さえ付けかねないものを、受け入れるわけにはいかなかったのだ。

それに、他国に知られ、他国が開発をすれば、世界に広がり、次に戦争が起きた時、破滅をもたらす可能性が生まれる。

故に、ヴェルナーも当初は解体に賛成であった。

 

だが、事情が変わったのだ。

カルメリアとアグロムノイの対立は、戦後、一挙に激しくなり、アグロムノイは、混乱する民主国家連合から一部領土を掠める等して、民主国家連合とも対立を深めていた。

それ故、戦中に議論されていた、カルメリアと民主国家連合の同盟が成立し、アグロムノイとにらみ合うことになったのだ。

一触即発、いつ武力衝突になってもおかしくはなかったが、国内の安定を優先したい民主国家連合が戦争の回避に努めていた。

しかし、カルメリアが、殆ど一年前に、新兵器を開発したことで、潮目が変わった。

 

その新兵器は、総帥の置き土産に勝るとも劣らぬ威力の爆弾であり、街一つを容易に消し飛ばすものであった。

魔力を利用したものではなく、原子を利用した新たな理論に基づくものである、とカルメリアからの情報で明らかになった。

 

こうして、カルメリアは強力な兵器を手中に収めたこで、一気に好戦的になり、民主国家連合など意に介さず、アグロムノイとの対決姿勢を見せたのだ。

だが、その数ヵ月後、アグロムノイがカルメリアと同じ爆弾を完成させ、実験の模様を世界に知らしめた。

これにはカルメリアも怯み、直接衝突は遠退いた。

 

これによって、民主国家連合は新型爆弾を抱える国と敵対することになり、味方とは言え、自国よりも遥かに強大な国力の同じく爆弾を抱えた国と板挟みになってしまったのだ。

民主国家連合は、以前ならカルメリアにアグロムノイと直接接していること等を理由に、ある程度強く出れたのだが、カルメリアが新型爆弾を抱えている故に、民主国家連合の領土を狙うアグロムノイに攻め込まれずに済んでいる状況となってしまい、そうした交渉カードが破綻してしまった。

 

だから、ヴェルナーは、魔力ミサイルの解体をストップし、むしろ存在をある程度アピールするべきだ、との考えに至っていたのだった。

 

エミリアも、それは分かっていた。

だが。

「それでも、アベルさんの意志を継ぐべきです」

「現実が変わった以上、受け入れるべきだ。それとも、カルメリアの言いなりになるべきだ、とでも言うのかね?」

「では、我々も同じ土俵に上るのですか!?国を滅ぼせるような兵器を抱え、他国を威圧する国家に加わるのですか!アベルさんは、この国を平和な国にしてほしいと言っていました」

「なればこそだ!理想だけで国はやっていけない。アベルの理想も分かっている。出きる限り、実現したい。だが、このままではダメだ。今、カルメリアが戦争を始めようとしても、我々にそれを止める手段がないんだ。カルメリアと手を切り、魔力ミサイルを手放せば、アグロムノイの侵略を止める術がなくなる。分かるだろう?エミリア」

最初は興奮していたヴェルナーだったが、最後は諭すように、そう言葉を紡いだ。

 

「ええ」

ポツリ、とエミリアも興奮を収めて、静かに語る。

「私も分かっています。現実は非情なことを、力が必要なことを」

「なら..」

ヴェルナーが口を開き掛けたが、エミリアはそれを遮るように続けた。

「でも、私は理想を諦めたくはないんです。私は、理想に生かされているから」

彼女は、覚悟が籠められた瞳を、ヴェルナーに、真っ直ぐと向ける。

「......」

ヴェルナーは、何も言わなかった。

「だから、ヴェルナーさん。ごめんなさい。私は、貴方の敵になります」

「それはつまり...」

ヴェルナーは、エミリアの言わんとすることを察した。

「はい。二ヶ月後の選挙、私は、自分の政党を作って出馬します。理想を捨てないために」

「本気か?」

「はい。貴方の考えが、現実的なことは理解しているのです。でも私は、私を救ってくれた理想を、捨てたくはない」

「分かった。では、私達はライバルというわけだな?」

ヴェルナーは、先程までの激しい表情とは対照的に、柔らかな笑みを浮かべ、頷いて見せた。

エミリアも、笑顔で返す。

 

「後2ヶ月ですから、迷惑をかけないよう、業務はやり遂げます。ですが、手を携えるのはそこまでです」

「ならば、今握手でもしておこうか?暫くそんな機会はこないだろうし」

余裕の戻ったヴェルナーは、そう冗談めかして言う。

「いえ、直ぐに握手の機会は訪れますよ。政権引き継ぎの時にでもね。ヴェルナーさん。私は勝つつもりですよ」

エミリアもそう笑いながら返した。

「なればこそ、だ。私には譲るつもりがない」

二人はニヤリと不敵な笑みを浮かべる。

「我等の闘争は、終わりがなさそうだな」

ヴェルナーが肩を竦めるジェスチャーをしなから笑って発したその言葉に、エミリアはこう返した。

「民主主義とは、そういうものでしょう」

ヴェルナーが、ああ、と頷く。

「今までよりずっと平和的だ」

今度はエミリアが頷き返した。

「そして、これが、私達の掴みとった新たな"未来"ですね」

 

民主国家連合の選挙が始まる━━。





実質的にはこれが最終回です。
金曜日にエピローグを投稿して終わりです。
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