午後8:45分、アベルと総督がまだ対談を続けていた頃、暗闇と一体化しているような真っ黒の親衛隊服を着用した数人の男達が、グダルスカの街灯も家の明かりも灯いてない真っ暗な広場で何やら作業をしていた。
彼らは、V.Bらヤゲノ解放軍のメンバーであり、アベルの考案した作戦に基づき、親衛隊員のふりをして、グダルスカの街に潜り込んでいたのだ。
「アベルのやつ、大丈夫かねぇ?」
V.Bと共に作戦に参加している幹部のエドワード=バンディは誰に尋ねるでもなく呟く。
「大丈夫だ。私は彼を信じている。それよりも、我々が失敗しては話にならん。確実に成功させるぞ」
エドワードの呟きに答えつつ、他のメンバーの不安も取り除くようにV.Bは言った。
「でも、魔力検査なんかもされてしまったら、まず間違いなく捕えられますよ」
アベルと同じ魔導士であるメンバーがまだ不安そうにする。
「そこは賭けでもあるが、勝算はかなり高い、心配するな」
そう励ますV.Bは先日の会議を思い返していた。
「勝算は、あります」
そう自信ありげに言いきったアベルに参加者達の視線が集中する。
彼はV.Bが頷いたのを見て、自身の考案した作戦を説明し始める。
アベルが作戦の概要を話終えると、会議の参加者達の間には感嘆とも驚きとも付かぬ空気が広がった。
V.Bがすこし考えた後、口を開く。
「確かに上手く行けば全て好転する。だが、奴らの元に魔導士を送り込むというのは難しいのではないか?」
「いえ、問題ないと思います。まず、魔力検査機は巨大ですから、たった2日程度のためにわざわざ工事をしてまで設置するとは考えにくい。それに、彼らは恐らく我々を舐めています。なので、ほぼ間違いなく検査機は存在しないでしょう」
「舐めている?」
「ええ、ボスも報告書を読んでご存知でしょう?工場襲撃を繰り返しても、警備が殆ど増強されていないのです」
「だから我々を見くびっていると?それは帝国の政治的な問題である可能性もあるだろう」
「確かに、そうですね。ですが、根拠はもう一つあります。それは、この脅迫文ですよ」
アベルはそう言ってV.Bが読み上げた帝国からの"交渉文"を手に取った。
「ここ、『諸君らの代表にグダルスカへ来るよう伝えよ。代表は直ちにグダルスカへ来い』と、ありますが、他に何も条件を指定していないんですよ」
「一人で来いなんて書いたら現れる可能性が低くなるからじゃないのか?」
カミンスキーがそう口を挟む。
「そうかもしれませんが、全く条件がない。ということが重要かなと。例え全軍で来たとしても鎮圧出来るという驕りの現れだと私は考えます」
アベルの説明を完全に否定する材料はなく、ある程度の説得力を持っていた為、会議の参加者らには賛同の空気が醸成され始めていた。
「だが、危険な任務には変わりがない」
V.Bのその一言に、アベルが「私がその役をやります」と即答したことも、一押しとなり、彼の計画が採用されたのだった。
「今のところ上手くいってますね」
エドワードに話し掛けられ、V.Bは回想を終了する。
「そうだな。だが、油断するなよ。少しの遅れが命取りに繋がる」
その会話を最後に、準備が終わるまで彼らは黙々と作業を続けた。
作業が終了したのとほぼ同時に、彼らのいる場所の直ぐ近く、広場に、バン型で大きめのトラックが数台やって来た。
「ぴったりだな」
V.Bは自身の腕時計が9:00ジャストを指していることを確認し、ニヤリと笑った。
トラックから降りて来た者達の顔を確認し、彼らは広場に出る。
「直ぐに"荷物"を出すぞ」
トラックに乗車してきた者達と共にV.Bらはトラックの荷台の奥に貼られた荷台の壁と同じ材質の板を数人懸かりで外し、中に隠してあった銃火器を次々と取り出していく。
「これで準備は完璧だな」
V.Bは全員に武器が行き渡ったことを確認し、そう呟いた。
9:30、予定通り、別働隊が街から少し離れた川辺や林等に仕掛けた爆薬が作動し、幾つもの爆発音が次々とグダルスカの街にも聞こえて来る。
住民らはさぞ驚き、恐らく恐怖しているだろう。その事に、一抹の申し訳なさを感じつつ、V.Bは部下達に各々の持ち場へ行くよう指示を出した。
街外れから親衛隊らが慌てているのだろう、怒号も聞こえ始め、やがて、幾つもの足音や声が街の広場にも近付いて来た。
その音を聞きつけ、広場に残っていたV.Bらは物陰に身を潜める。
「なんだ?このトラックは」
広場に駆けてきた数人の親衛隊員らの一人が言った。
「ああ、それならさっき北検問所から連絡があったやつだろ。明日朝、"ゴミ"を処分するためのやつって」
別の一人がそう答える。
「ああ、こいつがか。こんなとこに放置して劣等共に壊されないのかね」
「どうせ家の中で震えてるだろ。それよりも、早くさっき街中に見回りに行くって言ってた隊員達と合流するぞ。きっと増援が必要なはずだ」
親衛隊員らが、広場から立ち去ろうと再び走り始めた瞬間、銃弾が彼らの鼻先を掠めた。
「な..!誰だ!」
そして、広場に設置されている街灯が突然、煌々と光始める。
突然明るくなったことで、親衛隊員らは眩しさから一時的にまともに周囲が見えなくなってしまった。
やがて、視力が回復して来た親衛隊員らは自分達の置かれている状況に気が付く。
「しまった..」
銃器を構えた親衛隊服と私服の入り雑じった者達が彼らを取り囲むようにして立っていたのだ。
「さあ、大人しくしてもらおうか。君たちには、人質となってもらう」
銃器を構えた者達の後ろ、彼らのほぼ正面に来る位置に立ち、見下ろすようにしてV.Bは言い放つのだった。