ルドルフを拘束したアベルは、ルドルフの側近らを脅迫し、彼らの一人から銃を奪い、ルドルフを連れたまま上手く外に出ていた。
外にいた親衛隊員らもルドルフが拘束されているのを見て、慌てた様子を見せたが、アベルがこれみよがしに、ルドルフの頭に銃口を突きつけていたため、どうすることも出来ず、ただアベルらを見送るだけだった。
「悪いね。総督閣下。だけど、貴方がご所望の人が街の広場に来ている」
親衛隊らと向かい合う形でルドルフを盾にしながらゆっくりと街の方へとアベルは向かっていき、やがて、司令部近辺にいた親衛隊らが木々に隠れて見えなくなると、街の方角へと向き直り、チラチラと周囲を警戒しながら、少しスピードを上げて移動を始める。
「R.B!」
街に入って直ぐのところで、覆面をした彼の仲間に声をかけられた。
「上手く行ったんだな。後の移動は俺もついていく。そっちのが早く移動出来るだろ?」
「助かるよ」
周囲を警戒する役回りの人間が増えたことで、更にスピードを上げることが出来たので、アベルらは小走りで広場へと向かう。
やがて、広場に到着すると、そこには既に親衛隊服から各々の服へと着替えたアベルの仲間達が待機していた。
「!!」
アベルに拘束されたまま走らされたルドルフは息を切らせながら広場を見て、目を向いた。
親衛隊員が直ぐには数えきれないほど、数十人という規模で捕えられていたからだ。
「貴方が、総督閣下ですかな?」
ルドルフが声のした方を向くと、そこには、大型のトラックが止まっており、その上に、街灯を背にしているため、顔はよく見えないが、人影が立っていた。
「まさか..貴様が..」
「ええ、そうです。私が、ヤゲノ解放軍最高司令官。V.Bと申します」
「ふん。コードネームとはしゃらくさい真似をする」
芝居がかった様子でお辞儀をしたV.Bと名乗った人影に、ルドルフは悪態をつく。
「本名を明かすわけには行きませんからな」
それと、とV.Bが続けたタイミングで、ルドルフ自身の目が慣れてきた為、彼は漸くトラックの上に立つV.Bの顔を視認することが出来た。
「素顔も..」
劇仮面を着けたV.Bは口元に余裕のある笑みを浮かべながら、トラックから飛び降りた。
「さあ。総督閣下。グダルスカの住民を解放していただきましょうか」
V.Bがルドルフに詰め寄ると、ルドルフは噛み付くように口を開いた。
「素顔も見せぬ男をボスだと信じて解放しろと!?バカバカしい!承諾するわけが..」
だが、言い終える前に、アベルに腕をきつく締め上げられ、苦悶の表情を浮かべながら、黙り込んだ。
「まだ、そっちが優位にあるつもりか?」
先程までとは打って変わった冷酷な声色で、ルドルフに囁く。
「貴方自身の命、そしてここにいる計38名の親衛隊員の命が人質なんだよ。貴方が判断を誤れば、貴方だけじゃなく、ここにいる親衛隊も大勢死ぬ。その意味が分からないわけじゃないでしょう?」
「貴様..!」
ルドルフは苦虫を噛み潰したような顔で呻いた。
「さあ、早く住民を解放することを認めなさい」
V.Bが止めとばかりにルドルフに顔を近付ける。
「...分かった。解放する..」
ルドルフは屈辱に歪んだその口から、敗北の命令を下した。
待機していた解放軍のメンバーが、各家を回り、住民らに解放を告げて回る。
最初は半信半疑だった住民達も、恐る恐る家を出て、広場を見た住民らから広場の様子を伝え聞く内に、喜び、安堵し、次々に広場へと向かい始めた。
広場は熱狂に包まれ、「ヤゲノ万歳!」など歓喜の声が上がり、拘束された親衛隊員らが勢い余って殺されるのではないかと恐怖を感じる程になっていた。
だが、先程アベルを見逃すしか出来なかった親衛隊らが装備を整え、ほぼ全戦力でもって広場にやって来ると、熱狂はピタリと消え、恐怖が広場にいる住民らを瞬間的に支配する。
だが、当然、まだルドルフはアベルに拘束されおり、片時も油断せず、一人、いやルドルフを連れ二人でトラックの上にて待機していたアベルが応援に来た親衛隊らによく見えるようルドルフを前に出すと、再び彼らは沈黙した。
「分かっていたことだろう」
アベルは呆れ顔でそう呟く。
「仕事として、なにもしないわけにはいかなかったのだろう」
いつの間にか隣に来ていたV.Bは用意していた拡声器を持ち上げ、人々に告げる。
「君達は確かに解放されたが、それは今だけの話だ。むしろこの不名誉な事態を覆い隠すため、帝国は数日も立たぬ内に君たちを処分するだろう」
V.Bの言葉で、現実を思い出した住民らを絶望が覆う。
「だが、君たちには選択肢がある。この住み慣れた故郷を捨てなければならないことになるが、君たちの命は保障する」
住民だけでなく、広場にいる親衛隊らもざわめき出す。
「そう、選択肢とは、我々と共に来るか。ここで直ぐに訪れる終わりを待つか。だ」
V.Bのその言葉で住民達の目に今度は、希望が灯った。