工場
ゴウンゴウンと機械の唸る音が溢れている。
その音の中、黒い軍服に、紺の生地に白い菱形が入り、その中に漆黒の獅子を描いた紋様の入った腕章を身につけた男達が、工場内を巡回していた。
「サボるなよ!」
そう声を荒らげて周囲を威圧する態度で男達は巡回を続ける。
彼らに睨み付けられながら巨大な機械に向き合っている人々は性別も、年齢も様々であり、皆一様に痩せ細り、疲弊していた。
人々は、ベルトコンベアを流れてくる機械を単調に組み立てる作業をさせられている。
作業自体は単純極まるものであったが、彼らは殆ど休みなく働かされ続けており、丸2日以上寝ていない者はざらにいた。
「そこ!手を止めるな!」
疲弊の際に達して倒れた者や気絶した者は容赦なく見張りに殴打され、無理矢理また働かされる。
それでももう限界に達した者は、何処かへと連れ去られていく。
彼らは、奴隷だ。
彼らの故郷を侵略した、オストレオン帝国によって捕らえられ、奴隷にさせられてしまったのだ。
帝国は、帝国の人間以外を蔑み、差別している。捕らえられた人々は、使い捨ての労働力、というわけだ。
彼らは、いつ終わるとしれない地獄の中で、ただ、死を待つしかない日々を送っていた。
この日までは。
突如、工場内にいた人々の身体を芯から揺らすかのように巨大な爆発音が辺りに響き渡り、工場内は煙に包まれた。
「何だ!?」
見張りの軍服の一人が叫んだ。
「テロか!?総員戦闘態勢!」
軍服の責任者らしき男は、そう言って、自身の拳銃をホルスターから抜く。
やがて、煙が徐々に晴れてくると、軍服達は工場の二階部分、一階を見渡せるようになっている通路に立つ何者かの存在を認めた。
「誰だ!?」
通路に立つその者はオペラで使われているような仮面を着けており、黒髪であること以外、顔が分からない。
その仮面の人物は両手を大袈裟に広げ、工場内に響き渡る声で叫んだ。
「私は、ヤゲノ民族解放軍の戦士、R.B!帝国に虐げられし諸君らを救いに来た!」
「解放戦線!?最近噂の叛徒共か..!」
「のこのこと顔を出しおって!」
軍服の一人が仮面の、R.Bと名乗る人物に拳銃を向ける。
「そういきり立たないでくれ」
R.Bは、そう軍服らを嘲るように言い、続けた。
「残念ながら私は一人でのこのこやってくるようなまぬけではない」
軍服達は、煙が殆ど晴れた周囲を改めて見回す。
「...!貴様らいつの間に..!」
軍服らの周囲は少し距離を開けてぐるりと布を顔に巻いたような覆面を被り、三色に染められた腕章を着用している、武器を構えた者達に囲まれていた。
「私は囮だよ。煙が晴れ始めたら君たちの注意をこちらに向けるためのね。その隙にしっかりと包囲させてもらった。では、さようならだ"総帥親衛隊"諸君」
軍服らを見下ろしながら、ペコリとおじぎをしたR.Bは、彼らの次の行動を察した総帥親衛隊と呼ばれた軍服らをよそに端的に命令を下した「撃て!」と。
銃火器の音が工場内に響き渡り、親衛隊らは音が止むのとほぼ同時に崩れ落ちて、辺り一面に深紅の池が作られる。
「彼らの拘束を外せ」
とR.Bは仲間らに指示をを出し、一階に向かってふわりと飛び降りた。
そして、未だ呆然としている奴隷労働者達に呼び掛ける。「諸君、我々はヤゲノ解放軍。帝国に虐げられし者達を救い、ヤゲノ王国を解放するために戦う組織だ。君たちは我々が保護する!もうこのような奴隷労働に従事しなくとも良いのだ!」
奴隷労働者達は、暫く呆気にとられていたが、やがて、喜びが湧いてきたのか、歓喜や安堵の表情が顔に浮かび始めた。
その様子にR.Bは頷き、そして、と言いながら、彼は奴隷労働者達が作業をしていたコンベアの奥の壁、いくつもの配管とも配線ともとれる太さの管が出てきている場所に向かって手のひらを向ける。
「こっちにいる君達も解放される」
その言葉とほぼ同時に、R.Bの手のひらから閃光が走り、ズドンという音と共に壁に大穴が空いた。
R.Bはそのまま穴の中に入っていく。
少々元気の余っていた奴隷労働者の何人かは、R.Bの造った穴を興味本位から覗き込んだ。
「!?」
穴を覗き込んだ彼らの目に入ってきたのは信じがたい光景であった。
そこには、店に並べられている商品の様に一列に並べられ、痩せこけ、今にも崩れ落ちそうな状態で手枷を嵌められ、口枷もあり、更に身体に幾本もの管を繋げられている人々がいた。
「こ、これ..は..?」
覗き込んだ奴隷労働者の一人がそう絞り出すように呟く。
R.Bは並べられた者達の拘束を外していき、奥にある機械を操って管を外しながら、彼らの疑問に答えた。
「燃料だよ」
「え?」
「この人達は、工場稼働のための燃料にされていたんだよ」
今日は三話まで投稿します。
明日からは二話ずつ毎日投稿し、pixivさんに投稿している分に追い付くまではその形式で続けます。