「お待ちください!何かの間違いです!」
総帥に裏切り者と名指しされたルドルフは、狼狽した様子で立ち上がる。
「幾つもの"証拠"と共に報告が挙がっている。私としても、君を信じていたので残念だが、疑わざるを得ない」
そう言うシュナイダー帝国総帥は言葉と裏腹に、眉一つ動かさず、冷淡な顔をルドルフに向けていた。
「い、一体どういった証拠があると..?」
ルドルフの問いに、シュナイダーは自身の後ろに待機させていた書記官に合図し、彼が持っていた封筒をルドルフの方へ投げるように渡すことで返答する。
「君が、レジスタンスに協力しているのではないか、という嫌疑だよ」
ルドルフが渡された封筒の中に入っていた書類を読み始めると、シュナイダーはそう言った。
そして、その言葉を呑み込みきる前に、ルドルフは書類の内容に衝撃を受け、混乱した。
そこには、グダルスカでの出来事が詳細に、しかし、ルドルフへの悪意に満ちた形で語られていたのだ。
"戦車をレジスタンスに奪われたのは、ルドルフが戦車部隊にわざと護衛を付けなかったからだ"
"レジスタンスを追わずに見過ごしたことは、帝国の威信に著しく傷を負わせた"
と、いう風に。
「この書類を読む限り、君はレジスタンスと共謀していたか、別な形で帝国に反抗しているようにしか思えない」
「お、お待ちください。この書類は余りにも..」
ルドルフは混乱によって言葉に詰まってしまう。
「君は、帝国に尽くしてきてくれたと私は思っている。だから、こうして、君を逮捕もせず、この場で弁明の機会を与えているのだ」
シュナイダーは尚も冷淡に、ルドルフへ言葉の先を促した。
「わ、私もグダルスカの件は報告書をお送り致しました。そこに書かれているように、作戦の一貫でして」
「戦車を奪われたこともか?」
シュナイダーは、僅かに不機嫌さを感じる声色になり、詰問する。
「あ、あれは想定外の事態でした。しかし、概ね作戦通りであり、内通者を敵レジスタンスに送り込む目的は達成しました。故に、故に、余計な損害を出さぬようレジスタンスを追わせなかったのです」
「ふむ...仮に君の言う通りだとして、だ、追うそぶりさえ見せなかったと聞いているが?帝国の威信を傷付けるとは考えなかったのかね?」
「それは..私の考えが足りませんでした。その点は私のミスであります。申し訳ありません」
ルドルフは漸く少し落ち着きを取り戻して来た。
「あくまで、ミスだと言うわけだな?」
「はい。私は帝国の為を思い、誠心誠意勤めて参りました。決して良からぬ事を企んでいたから、等ということはあり得ません」
ルドルフはそう答えながら、頭の中では、誰がこんなことをしたのか必死に考えを巡らせていた。
誰の陰謀で自身が窮地に立たされているのか、それを考えた時、彼には幾つか心当たりがあった。
「ふむ。だ、そうだが。報告者である君はどう思う?」
シュナイダーにそう促され、立ち上がった男を見たルドルフは、果たして幾つかの心当たりの一つが見事に当たっていたことを知る。
立ち上がった男は、ルドルフのヤゲノ総督府領を管轄している帝国親衛隊ヤゲノ管区司令である、ギルベルト=ハスリックであった。
ギルベルトはニヤリと笑い、懐から別な書類の束を取り出し、シュナイダーの書記官へと渡した。
書記官から書類の束を受け取ったシュナイダーが書類に目を通し始めたのを見て、ギルベルトは話を始める。
「其方の書類は、本日此方に来る前に準備が完了したものでありまして、まず、報告が遅れたことお詫び致します」
彼は、そう一度頭を下げた後、醜悪な笑みをルドルフに一瞬だけ向けて、再び口を開いた。
「そこには、先日のグダルスカの件のみならず、今までの総督府において収集された、ルドルフ総督の裏切りを示す証拠郡です」
ルドルフはその言葉に、驚愕と怒りの混じった顔を、ギルベルトに向けた。
「何を適当なことを..!」
「貴方も読まれますか?人数分用意してありますし」
ギルベルトはそれに嘲笑で応える。
そして、ギルベルトは持参していた鞄から書類を取り出し、手すきの衛兵や書記官に書類を参加者全員へと配らせた。
ルドルフもそれを受け取ったので、中身を見ると、目眩のするような告発ばかりが並んでいた。
曰く、"幾度も工場が襲撃されているにも関わらず、工場の警備を殆ど増強しなかった。"だの、"レジスタンスを積極的に殲滅することがなく、いつものらりくらりとはぐらかしてばかりだった。"といった調子である。
工場の警備、治安の強化は、ギルベルトに依頼していたことであり、増強した、とルドルフは報告を彼から受け取ってもいた。
レジスタンス殲滅も、積極的で無かったわけではなく、予算不足で行動に限りがある、と何度もギルベルトらに伝えてきた。
これらは、殆ど捏造か悪意に満ちた誇張で、ギルベルトが自身を陥れようとしていることがルドルフにははっきり分かった。
しかし、これ程、捏造に近い証拠の作り方をして、強引に事を進め、それがシュナイダーに許されている状況から、逆転の目がないであろうことも、同時に分かってしまったのだ。
「これらは悪質な誇張や、嘘です。説明をさせていただければ、必ず分かって頂けると...」
それでも、諦めるわけにはいかないと、彼は反論しようと口を開いた。
「もういい」
だが、シュナイダーのその冷たい一言によって遮られてしまう。
「ですが..」
「聞こえなかったか?」
「お待ちくださ..」
「口を閉じろと閣下が仰っているのが聞こえないのか?」
青ざめ、机に手を付くことで、どうにか身体に力をいれ続けていたルドルフの側に、いつの間にか、シュナイダーのすぐ近くに着席していはずの、最高評議会の司会役であるラインハルトが詰めよって来ており、ルドルフの頭は、彼によって、机に叩きつけられた。
「ぐっ..総帥閣下..どうか..」
痛みに苦し気な声をあげながら、尚もルドルフは諦めなかった。
シュナイダーは面倒くさいとでも言うように、大きなため息をつく。
「ルドルフ総督、貴殿が容疑を大人しく認めるのであれば、君の家族の生命と生活は保障しようじゃないか。君も不慮の事故で死んだことにしてやろう。君にこれ以上付き合うのも面倒だ。それでいいだろう?」
ルドルフは既に自身への興味を失っていることが、シュナイダーの声色や態度からありありと読み取れた。
彼は絶望し、口が開いていることにも気付かず、ただ放心している。
彼の頭の中には、帝都に暮らしている彼の愛する家族の姿が次々と浮かんでは消えていっていた。
「早く決めたまえ、私の気が変わらん内にな」
そう言われたルドルフは、最早、ただ頷くことしか出来なかったのだった。
「よろしい。では、その罪人をここから追い出したまえ」
シュナイダーが衛兵にそう命じ、命じられた衛兵らは、ラインハルトからルドルフを受け取って、両脇を抱えながら、会議室を去っていった。
会議の殆どの参加者は、書類に目を落としたりして、目を逸らすように、この時間をやり過ごしていた。
ヨアヒムだけは、この光景から目を逸らさず、ギルベルトを憎々しげに見つめ、拳を机の下で悔しそうに握りしめていた。
「さて、漸く会議を始められるな。諸君、
お待たせした」
シュナイダーは自身の姿勢を正すと、一人分の席が空いた会議室を見渡し、再び帝国最高評議会の開催を宣言した。
翌日、帝国の新聞では、帝国最高評議会で決定された重大事項が一面に大きく取り上げられていた。
更に、その次のビッグニュースとして、ヤゲノ総督府総督、ルドルフ=ゲーベルが会議終了後、総督府に戻る途中で事故死したことが報じられ、その記事の隅で小さく、新たな総督に、ギルベルト=ハスリックが就任したことが発表されていたのだった。
次話でpixivさんに投稿していた分に追い付きます。
ですので、火曜日からはpixivさんと同じ頻度での投稿になります。
毎週の火曜、金曜のどこかです。
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