Unser Kampf   作:ライト鯖

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偽善、慈善

 

 首府、ヤゲノスルカに到着したアベルとエミリアは、予定通り総督府のある中心地へ向かっていた。

 

 首府と言っても、開発途上にあるため、街の端はまだかつてのヤゲノスルカの風景を留めている。

とはいっても、帝国人しか住むことが許されなくなった首府において、旧市街に住んでいる者は大半が帝国人の貧困層であり、かつての活気は感じられなくなっていた。

「寂れてますね..」

「その内解体して再開発し直す場所を手入れする必要もないんだろう」

 中世から続く美しい街並みも、手入れがされなくなり、荒れ果てるままとなってしまった今では、建築物の古さも相まって、不気味な様相を呈している。

そんな寂れた旧市街を暫く進んでいった二人は、道の端に蹲っている子供の存在に気が付いた。

 

 「あれは..」

「孤児かもな」

アベルはそう呟くが早いか、その子の前にしゃがみこんだ。

 

「君、どうしたんだい?」

子供はびくっと怯えた様にして顔を上げる。

「な、何ですか..?」 

いきなり見知らぬ男に声をかけられた子供はすっかり怯えた様子で、小刻みに震えていた。

「ごめんごめん。怖がらせるつもりは無かったんだ」

アベルは笑みを浮かべながら、怪しい者ではないことをアピールしながら言った。

「ほっといてくれ!」

子供にそう払い除けられるようにして言われたアベルは仕方がないといった調子で立ち上がった。

その拍子に、子供の座っている横に、隠すように置かれている幾らか小銭の入った缶が彼の目に止まった。 

アベルは、その缶に自身の懐から取り出した何枚かの帝国レオニス札を入れ、「すまない」と呟き、子供の前から立ち去る。

それを見ていたエミリアは彼を急いで追いかけ、彼に尋ねた。

 

「なぜ、あんな..余りこの都市の人間と不必要に関わるのは不味いんじゃ..」

アベルは苦笑し、言った。

「その通りだ。全く問題行動だよ。でも、どうしてもああいう子は放っておけないんだ。あんな金額じゃ、直ぐに消えてしまう。自己満足のものだとも分かってる。それでも、何もせずに見捨てたくはないんだ」

その言葉に、エミリアは先程車中でアベルから聞いた彼の過去を思い出した。

 

時間は少し遡り、先程の車中でのこと。

エミリアの何故、帝国と闘うのかという質問に、アベルは、少し考えた後に、答え始めた。

 

 「俺は、すくなくとも愛国心なんかじゃないよ。俺は、民族主義者でもない」

「俺には、親友がいたんだ。帝国人の..」

そこで一旦アベルは言葉を区切った。

「帝国人ってのは適切じゃないかもな。帝国系のヤゲノ人だったんだ。その親友は」

「10年前に出会ったんだが、気があってな。直ぐに家族同士も仲良くなったんだ」

そこから時折、言葉を選びながら、アベルは自身の過去を語り始めた。

 

 ーー10年前のことだった。

 俺は、いつも通り学校から帰っている途中だった。

そこで何人かの同じぐらいの年頃のやつらが誰かを虐めているのを見たんだ。

俺は、両親から、弱いもの虐めはダメだって何度も教えられていたからか、他のやつが虐めてたりするのも許せなかったんだ。

だから、止めに行った。

「帝国人め!」

「汚れたクズめ!」

そんな風に言われながら、彼は踏まれたり、蹴られたりをずっと繰り返されてた。

俺が止めると、奴らは、俺を睨んで言った。

「お前、帝国人の味方すんのかよ?」

「裏切り者だ!」

ってな。当時、ヤゲノ王国は、旧宗主国だった帝国人に対して敵意を抱いていたから、帝国系の住民が迫害されてたりもしたんだ。

でも、俺はそんな理由で彼を虐めて良いとは思わなかった。

「彼がお前達に何かしたのか!?」

そう言って彼を庇ったんだ。

そしたら案の定、俺もぼこぼこにされてね。

 でも、俺が抵抗し続けたからか、飽きたからか、そいつらは去っていった。

 それで先にやられていた彼に声をかけたんだ。

「大丈夫か?」

って、そしたら、彼は言った。

「大丈夫。ありがとう」 

全然大丈夫じゃなくって、立ち上がるどころか、起き上がるのすらキツそうだった。

だから彼をおぶって、彼から道を聞いて、家に送り届けた。

 彼の家に着いたら、彼の家族にも凄く感謝された。

どうやらぼこぼこにされて帰ってくることはよくあったらしくて、でも何処にいるのか分からないから毎回探しようもなく、警察も取り合ってくれないから、待ってるしかなかったって泣きながら言ってた。

 

俺が助けてくれたって彼が言ったら、泣いてお礼を言い出して、結局守れなかった上、ぼこぼこにされただけだとあの時は思ってたから凄い居心地が悪かったよ。

その時、別れ際に初めて名前を知ったんだ。

それまでそんな余裕無かったのもあって、二人とも名乗ってなかったからさ。

それが、あいつ、俺の無二の親友で恩人、"クラウス=バーナー"との出会いだった。

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