Unser Kampf   作:ライト鯖

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別れ

ー10年前ー

 

 クラウス=バーナーと知り合ってから暫くのこと、アベルは、クラウスを庇ったことで、彼自身もいじめの対象となってしまっていた。

 ヤゲノ王国は政策として帝国系の住民を差別したことはなかったが、多くの人々が黙認し、彼らを助けることはなかった。

故に帝国系であるクラウスを助けたアベルが周囲からいじめられることも、また、黙認されたのだ。

 だが、アベルの両親は、彼の行動を褒め、誇りに思うと彼を励まし続け、彼もまた、折れることはなかった。

一月もする頃にはクラウスとアベルは毎日アザだらけになりながらもすっかり打ち解け、まるで昔からの親友であったかのようになっていた。

彼らの家族もまた、良い関係を築き上げた。

 いじめは一年も経たない内に、首謀者であった男子が、たまたま交通事故で死んだことを機に、暴力行為は殆ど止んだ。

 とはいっても、友達が増えたわけではなく、無視されるなど暴力行為以外の形で薄くいじめは続いていた。

 

 そこから4年近くが経ったある日のこと。

アベルは、その日もクラウスの家に遊びに来ており、お菓子を馳走になっていた。

そして、二人で外へ遊びに行こうとした時、突然、けたたましいサイレンの音が町中に鳴り響いた。

それとほぼ同時に、クラウスの家のラジオから緊迫したアナウンサーの声も聞こえて来た。

 

 『臨時ニュースを申し上げます。臨時ニュースを申し上げます。ヤゲノ王国政府首相府より緊急発表。先程、オストレオン帝国政府より、国交の断絶、及び最後通牒が在オストレオン帝国ヤゲノ公使に手渡され、ほぼ同時に、帝国軍が我が国との国境を侵犯。軍事侵攻を開始した。とのことです。オストレオン帝国が我が国への侵略を開始したのです。市民の皆さーー』

遠くから爆音が響き、直後にラジオは聞こえなくなった。

「まさか..」

 

 クラウスの両親は顔を青ざめさせ、暫く放心したようにしていたが、ハッと気付いたようにクラウスとアベルの顔を見て、二人して頷いた。

「クラウスは母さんと一緒にいなさい。アベルくんは、私が君の家まで送って行こう」

クラウスの父親はそう言ってアベルの手を引く。

ラジオも突然入らなくなり、市民はパニックに陥っていた。

人々は何処に逃げればいいのかも分からずに、大慌てで走り回り、怒号が飛び交うだけだった。

 やがて、そのパニックはより大きなものとなる。

帝国軍の航空機が街にやって来たのだ。

国境近くの街で近くに小さいとは言え軍事基地も存在したため、真っ先に帝国軍に狙われてしまったのだ。

 街に、爆弾が投下されていく。

 人々の恐慌状態はピークに達し、どうにか宥めようとしていた警察官も手に負えない状態になってしまった。

そんな中をクラウスの父親に手を引かれ、どうにか家までたどり着いたアベルだったが、そこは既に瓦礫となっていた。

 アベルは状況を呑み込めず、呆然と立ち尽くした。

さっきまでそこには彼と彼の家族の家があったのに、今は、木材やモルタル、それらがゴミのように積み重なる瓦礫の山があるだけだった。

瓦礫に潰されるようにして下敷きとなっている母を見つけアベルは漸く足が動いた。

「母さん!」

 アベルが駆け寄ると、まだ意識のあった彼女は、少し安心したような顔をした。

「良かった。無事だったのね」

少し遅れて駆け付けたクラウスの父を認めた彼女は、彼の顔を見、言った。

「バーナーさん。どうか、家の子を、お願い出来ませんか」

クラウスの父は、暫く彼女の顔を見つめた後、大きく頷いた。

「分かりました。任せてください。貴方達の子は私達が守ります」

それを聞いた彼女は僅かに口元を緩ませ笑う。

「良かった..」

そして、彼女は片方だけ瓦礫から逃れていた腕を、アベルの頬に当てた。

「母さん..?」

「ごめんね」

そう言って直ぐ、彼女の腕はだらりと落ち、もう、動くことはなくなった。

近くで爆音が響く。

 クラウスの父は、まだ呆然としているアベルを引きずるようにして、元来た道を駆けていった。

その道中で漸く事態を呑み込み始めたアベルは、家族が死んだことも理解し、両目に溢れんばかりの涙を湛えて、泣き叫んだ。

 クラウスの父は泣き叫び動けなくなってしまったアベルを直ぐに背負い上げ、何も言わず、ただ全力で彼の新たな家族を背中に抱えながら走っていった。

 

 そこからは直ぐだった。

帝国軍は3日も経たぬ内に、街へと侵入して来て、占領してしまった。

その時、多くのヤゲノ人が帝国軍や占領を担った親衛隊に略奪され、強姦され、殺された。

アベルは帝国系のバーナー家に引き取られたことが幸いし、被害を受けることはなかった。

オストレオン帝国は帝国系の住民を帝国臣民として迎え入れ、統治に利用したのだ。

 戦時の混乱によって戸籍等も厳格にチェックされるということはなく、アベルはオイゲンという姓を隠し、帝国系のアベル=バーナーとして帝国軍占領下で生きることが出来たのだ。

バーナー家はアベルを本当の子供の様に扱い、アベルもそれに深く感謝していた。

クラウスともより親密になり、二人は本当の兄弟かのように通じ会う仲となった。

 だが、ヤゲノ王国が敗戦し、帝国のヤゲノ支配が確定すると、思わぬ事態が起きる。

バーナー家と同じく帝国系で、親帝国的であった者や、ヤゲノ人であっても、帝国に阿って、自身の生命や財産を守ろうとした街の住民によって、アベルがバーナー家の本当の子でないことが密告されたのだ。

その密告を受けた親衛隊がバーナー家に押し掛け、アベルを逮捕した。

 クラウスやその両親は、最後まで抵抗し、親衛隊らに見逃すように願うだけでなく、多くの金品を渡し、必死に頼み込んだ。

親衛隊らは、それらの金品を受け取り、アベルを解放するかに思えた。

しかし、解放することはなかった。

 

 「貴様らが劣等を匿っていた罪だけは見逃してやる」

と言い放ち、最後にはクラウス一家に銃口を突き付け、アベルを連れ去ってしまったのだ。

 

「必ずーー」

アベルは、親衛隊によって扉が乱暴に閉められる瞬間、確かに、クラウスが何かを叫ぶ声を聞いたのだった。

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