「それで、連れ去られた俺は"工場"に運ばれたんだ」
アベルはハンドルを握りながら、苦々しい顔で、話した。
「工場に連れていかれた俺は、魔力検査を受けさせられ、魔力保有量が多いことが分かると、独房にぶちこまれた」
「なぜ、工場で魔力検査を行っているんですか?」
エミリアは、自身がかつて一時的に連れていかれた工場でも何故か魔力検査を行い人々が振り分けられていたのを思いだし、不思議そうにアベルに尋ねた。
「そうか。普通は知らないんだったな」
アベルは苦笑し、帝国は魔力保有量が多い者を燃料奴隷と呼び、工場や戦車などの動力源として使用していることを説明する。
その説明を聞いたエミリアは、あの時魔力保有量で人々を分類していた理由を知り、背筋を寒くした。
もし、自分にも魔力があったら、あの時燃料とされていたかもしれないのか、と。
「あそこにいたのは半年にも満たない時間だったけど、本当に地獄だったよ」
「魔力保有量が一定以下の者は殆ど使い捨て同然にされていて、その日の工場の稼働に耐えられれば生き残り、魔力が足りなければ、全て絞り尽くされ、死ぬ。
隣にいたやつがその日が終わる頃には動かなくなっているなんてざらにあった。
魔力はさ、体内から無くなっていくことが自分では知覚できるんだ。
だから、自分がどの程度死に近付いてるか察しながら、機械に繋がれるしかない、そんな最悪な毎日だった。
ただ、俺は幸いにも、魔力保有量がかなり高かったから、死ぬまで絞り尽くされることはなかった。
再利用のために他の人達に比べ、比較的マシな扱いでもあった。
燃料でない通常の労働奴隷は、雑居房に20人も30人も詰め込まれる。
燃料奴隷で魔力保有量が一定以下の者は雑居房に男女関係無く5~10人程度で収容される。
俺みたいな高魔力保有者は独房に入れられるんだ。
他の収容者に殺されたりしないようにね。
看守や工場の管理者共は、雑居房の者達には、憂さ晴らしで何度も暴力を振るっていた。
俺は独房エリアの端にいたから、よく、悲鳴や叫び声、時には銃声を聞いていた。
独房にいても完全に暴力がなかった訳じゃない。
看守の気分次第で殴られ、蹴られ、そういうことはしょっちゅうあった。
ただ、死なすのは不味いから、雑居房の人達に対してよりは軽いものだったよ。
そして、雑居房は、魔力保有量が一定以下の者を一律に収容しているから、人によっては体力に余裕があったりもするんだ。
そういう収容者の中には看守にやられた鬱憤を、同じ部屋に収容されてる女性に向けて発散したりする者もいた。
"工場"の側としては、生きてさえいれば魔力を搾り取れるから、そういう行為は基本的に黙認していた。
そんな地獄から助けてくれたのが、今の組織のボス達なんだ。
あの日の事は忘れはしない。
いつ終わるともしれない地獄を終わらせてくれた、優しく手を差しのべてくれた、あの日のボス達のことは。
そして、俺も組織に入った。
帝国を恨む気持ちも勿論ある。
でも、帝国人を恨んではいない。
クラウスや彼の家族みたいに良い人達もいるんだ。
当時はそんなこと考える余裕はなかったが、今から考えると、彼らがいなければ、俺はとうの昔に孤児になって野垂れ死んでるか、家族と一緒に瓦礫の下敷きになってただろうと分かる。
今生きているのはクラウス達のおかげだ。
だから、一番はあの日のボス達みたいに、同じように、オストレオン帝国の政策によって虐げられている人々を、助けたいって気持ちなんだ。
それが俺の闘う理由だ」
アベルの話を聞き終えたエミリアは自身が望んで聞いたことだったが、聞いたことを少し後悔していた。
自身が与する帝国は自身が思っていたよりも残酷で、残虐で、恐ろしいものだということを知ってしまったからだ。
人を奴隷どころか燃料として扱い、使い捨てるような国家に与していた、していることに対する罪悪感に彼女は押し潰されそうになっていた。
全部、話してしまいたい。
エミリアは、これまで何度も駆られた衝動、ただ、今回はその衝動は、これまでで一番強く感じられた。
だが、自身の家族のことを思いだし、踏みとどまる。
「アベルさんは、強いですね」
自分なんかより余程ひどい目にあっているのに、それでも闘おうとするなんて。
エミリアは、その言葉を呑み込んだ。
「君も、充分強いと思うけどね」
エミリアの方を見るでもなく、前を見据えながら、アベルは言った。
そして、現在
孤児らしき子にお金を渡し、先を行ったアベルを追いかけていたエミリアは、納得していた。
彼は、クラウスの一家に匿ってもらえなければ、孤児となっていたであろうことから、自己満足だと分かっていても、ただ見捨てるということが出来ないのだなと。
自分ならあの時死んでた方がマシだったとか思いそうなのに、そんな様子が全くないな、とエミリアは、アベルのことをやはり、強い人だと感じていた。
そうして、二人はヤゲノスルカの中心部へとたどり着く。
そこは、人の往来は多く、活気には溢れているものの、オストレオン帝国総帥が命じて考案された、新オストレオン式と呼ばれる、古代オストレオン風の装飾や形状と近代建築を混ぜ合わせた独特な、混沌とした建築様式の建物で統一されており、かつての中世から続く都市の面影は消え去っていた。
街の中央には、かつての王城を破壊して建てられた、巨大で無機質な雰囲気の、周囲を威圧するかのごとき様子である総督府が居座っている。
「すっかり帝国の街にされてしまっているな」
アベルは小さく溜め息を付きながら、街をエミリアと共に歩いて行く。
大通りから路地裏まで様々な場所を見て回り、街の大体の様子を頭に叩き込んで行く。
一度警察に呼び止められたが、組織が作った偽造身分証と不動産業で良い土地がないか視察に来ているという説明で乗り切った。
そこから夕方になるまで数時間、ヤゲノスルカの街を見て回ったアベルらは、情報を纏める為に車へと戻った。
アベルは、街を見て回ることで得た情報の要点を纏め、市販されている都市を大まかに記した地図に路地などの情報を書き込んでいく様に、エミリアに頼み、車を発進させる。
「今からは、話してたとおり君の家族がいるって街、ブレスコウに向かう」
車を発進させ、ヤゲノスルカを出たアベルは、作業を進めるエミリアにそう笑いかける。
「ありがとうございます..」
エミリアは複雑な心境ではあったものの、久しぶりに家族に会えるという確かな喜びも感じていたのだった。