魔力とは、量の差異こそあれ、全人類が有しているエネルギーのことだ。
その力はつい30年程前に、機械を動かす燃料としても使えることが分かった。
魔力は石炭や実用化されて40年程経つ石油等よりも、効率が良く、強力な燃料だった。
だが、人間を燃料源にするなどということは殆ど実行に移されることはなかった。
魔力を全て無理矢理に身体から出すと、その者は死んでしまう。
勿論、その前に止めれば良いのだが、調整は難しく、人を燃料とすることへの抵抗感なども強かったのだ。
だから、どこの国も自前の魔力で戦う魔導士達を補助する兵器の開発を行うに止まった。
ただ一国、資源が乏しく、異民族を劣った人間であると蔑む、オストレオン帝国を除いて━━━━━
「帝国は、魔力の少ない君達を奴隷として労働力に、魔力の多い、魔導士と分類されるような彼らは燃料にしていた。というわけだ」
R.Bが淡々と告げたその事実をつい先程まで帝国人に虐げられていた元奴隷達ですら信じきることが出来ずにいたた。いや、信じたくなかった。
困惑したような、呆気にとられたような、そんな顔をした元奴隷達に、R.Bは続けた。
「同じ人間にここまでの事が出来るとは私も信じたくはない。だが、今君達が目にしているこの光景が真実なんだ」
元奴隷達は何と言うべきか分からず、ただ呆然と立ち尽くすのみだった。
「おい、R.B」
ふいに、穴の向こう側から彼を呼ぶ声がした。
「どうした?」
R.Bは穴から顔を出し、彼を呼んだ仲間に尋ねる。
「今、L.Mから伝達があったんだが、工場の完全制圧が完了したらしい。後は全員逃がしてここを破壊するだけだ」
「分かった。ありがとう。通信はされたか?」
「いや、最初に爆破したからそれはないだろう」
「なら、次の定時連絡の時間まで余裕はありそうだな。武器庫も見つかったのか?」
「ああ、今運び出してるとこらしい」
「順調だな。引き続き作戦を続けてくれ」
「了解」
「それと、君達」
R.Bは穴から顔を引っ込め、まだそこにいた
元奴隷達に声をかける。
「君達は自分で歩けるか?もし歩けるなら私の仲間の誘導に従って速やかに外に出てくれ。この工場は爆破するのでな」
その言葉で漸く元奴隷達は我に返ったように動き出した。
「悪いね。覗かないように注意するべきだったかもしれない。だが、さっきも言ったが、この光景が、真実なんだ」
そう言いながら、R.Bは立ち上がる体力も失われている燃料とされていた人々を抱き上げ、穴の外へと運び始める。
「あの..」
その様子を暫く押し黙って眺めていた元奴隷の一人はなにかを決意したような目でR.Bを呼び止めた。
「おれも..貴方達の仲間になることは、出来ますか..?」
R.Bはその申し出に一旦作業を中断し、彼に向き合う。
「申し出は嬉しいが、きっとまだ混乱もしているだろう。ここから逃げ出して、暫くは我々が保護するから、その間、じっくり考えてくれ」
その声は、仮面に隠れて顔が見えないにも関わらず、彼が優しげな目をしているのだろうと分かるほど、柔らかな声だった。
申し出をした男は、そのR.Bの真摯な言葉に、大きく、「分かりました」と頷いた。
その後、捕らえられていた奴隷や、燃料として拘束されていた者達を全て救出し終えたR.Bらは、工場を見渡せる場所に集まった。
「なんでこんな何もないとこに工場なんて建てているんでしょうね」
「"心優しい"帝国臣民が劣等とは言え、人間が日常的に痩せ細った姿を見たりなんかをすれば、同情から助けようとする者が現れかねないから、だそうだ」
仲間がポツリと言ったことに双眼鏡を覗き込みながら淡々と答えたR.Bは双眼鏡から目を離し、別の仲間を呼んだ。
「爆薬の設置は終わったか?」
「はい。完了しました」
「救出は?」
「既に退避は完了しています」
「分かった。ありがとう」
頷いたR.Bは、手を、工場に向ける。
彼は魔力を、工場へと放った。
R.Bの魔力は工場の壁を突き破り、中に突入し、着弾する。
それによって産まれた強い衝撃によって爆薬が起爆し、次々と誘爆し始める。
そして、ほんの僅かな間に、工場だったものは巨大な炎の渦へと変化した。
「先は長いが、確実に進んでいる」
人里離れた平原に赤々と輝く炎を見つめながら、R.Bは自身に言い聞かせるように小さく呟いたのだった。
とりあえず三話まで投稿させていただきました!
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