「エミリア=ギャズダだな?貴様を処分する」
かつての自宅で待ち構えていた親衛隊らに突如銃口を向けられたエミリアは、事態を呑み込めずにいた。
「え..?なんで..何が..どうして..」
その困惑ぶりが面白かったのか親衛隊の一人が、ニヤニヤと笑みを浮かべながら彼女に更に追い討ちをかける。
「貴様の家族も、既に処分済みだ。劣等は重要任務には不要と判断された」
「なんで..だって..契約..私が、貴方達に協力すれば、家族を助けてくれるって..」
「劣等との契約など守る必要性はない」
別な一人は、そう冷たく言い放ち、引き金に指を置く。
お母さん。お父さん。ジェームス。もう、いないの..?なんで..?
エミリアは自身に向けられた銃口に、意識はなく、ただ、呆然と、立ち尽くすだけだった。
彼らが引き金を引く様子がエミリアの目に情報としてやけにゆっくりと映っていたが、彼女は動こうとはしない。
彼女の脳裏には家族、かつてのブレスコウでの友人達との記憶、今までの思い出が次々に流れていた。
だが、次の瞬間、エミリアの眼前は真っ白に染まる。
続いて、何か大きなものがぶつかったような、衝突音とも爆弾の爆発音ともつかない凄まじい音が、エミリアの耳を駆け抜けて行った。
そして、真っ白に染まった視界も徐々に景色を取り戻していくと、彼女の目の前に、胸より上がえぐれるようにして消えてなくなった、親衛隊らの姿が現れたのだった。
少し前、アベルとエミリアがカフェの前で別れた直後のこと。
アベルはカフェの扉に手をかけた瞬間、背後に気配を感じていた。
振り向くと、丁度目の前に、目深に被った帽子で顔を隠すようにしている男が、鈍器のようなものをアベルに振り下ろそうとしている様子が目に飛び込んで来た。彼は咄嗟に横に飛び、左腕に鈍器が当たりこそしたものの、どうにか直撃は回避し、直ぐ様体勢を立て直した。
だが、再びアベルは横に飛ぶ。
別な男が、また背後から襲いかかってきていたのだ。
「随分と手荒だな」
アベルは懐から銃を取り出そうとしたが、再び気配を察知し、転がるようにして避ける。
周辺を歩いていた何人かの通行人達は、尋常でない様子を見て、蜘蛛の子を散らすように逃げ出していく。
アベルは通行人が辺りからいなくなったことを確認すると、掌を、地面に向け、思い切りジャンプした。
そして、ほぼ同時に魔力を地面に向け発射し、空に飛び上がった。
とはいっても空中で浮遊出来るわけではないので、そのまま落下を始めるのだが、落下しながら、アベルは、自身に襲いかかってきていた男達が空中にいる彼を狙って銃を構えて、待ち構える通りに向かって、再び魔力を射出した。
凄まじい轟音と共に辺りは粉塵に包まれ、悲鳴も聞こえ始める。
恐らく、アベルが入ろうとしていたカフェにいる客や近くの住宅の住人の声だろう。
アベルは粉塵を避けるように、今度は後方に掌を向け、魔力で勢いをつけ、空中で前進、そのままエミリアが向かった方角の通りへ出た。
そして、地面すれすれで軽く魔力を射出し、落下の勢いを殺し、着地する。
何者だ?親衛隊か?いや、エミリアのところに急ぐべきだな。後で考えよう。
着地したアベルは、少し動揺した思考を纏め、エミリアの指差した家へと魔力を使った跳躍を再び行い、向かう。
似た家が多くあるので、直ぐに見つけられるか不安に感じていたアベルだったが、その心配は無用だった。
家の門扉の前、これ見よがしと親衛隊が数人陣取っていたのだった。
バレてもいいから時間を稼ごうってことか?
そんなことを考えながら、アベルは着地を調整し、勢いそのまま、エミリアの家へと突っ込んでいく。
「止まれ!」
親衛隊が銃口を向けてきたが、アベルは既に彼らの目の前に迫っており、親衛隊の一人を盾にするように彼らの陣に滑り込む。
そして、盾にされた親衛隊員は反射的に引き金を引いた仲間らに撃たれ、倒れる。
直ぐにアベルはその撃たれた親衛隊員の銃を奪い取り、奇襲にまごつく、陣取っていた親衛隊らに銃弾を次々と浴びせていった。
そして、とりあえず目に入った親衛隊員を全員始末したアベルが家に飛び込むと、今まさに銃口を向けられ、呆然と立ち尽くすエミリア、という光景が目に飛び込んで来た。
咄嗟にアベルは持っていた銃を手放し、手に銃を構える親衛隊に向け、魔力を放った。
轟音と閃光が途絶え、エミリアの無事を確認したアベルは安堵のため息を漏らしたのだった。
銃では間に合わなかったが、魔力は低威力に絞っても凄まじいエネルギーであるため、エミリアにも怪我をさせてしまう恐れがあったので、賭けだった。
そして、アベルは上手く敵だけを排除出来たので、本当に安堵したのだ。
「エミリア、無事か?」
そう声をかけたが、彼女は無反応だった。
アベルはそっと彼女の前へと回り込むように移動し、彼女の顔を覗き込む。
「エミリア..?」
「アベルさん..」
そう小さく呟く彼女は、目を覆い尽くすほどの涙を流していた。
「すまない。かなり荒っぽくなってしまった。嫌なものを見せてしまったな。でもこうするしかなかったんだ」
えぐりとられた穴から血しぶきを吹き出す親衛隊員だったモノをチラリと見ながら、アベルは謝った。
エミリアの涙の理由を、事態を知らないアベルは、自身が造り出した凄惨な光景にあるのだと理解したのだ。
だが、直ぐにそうではないことに気が付く。
彼女の目は、親衛隊員の遺骸には向けられてなどいなかった。
アベルの存在を認識しこそしたが、アベルのことも余り目には入ってはいないだろう。
「何があった..?」
アベルに尋ねられたが、エミリアは口を開くことが出来なかった。
自分でもまだ呑み込めておらず、言葉にすることが出来なかったのだ。
アベルも察したのか、暫く黙って彼女が落ち着くのを待った。
しかし、付近から上がり始めていた悲鳴や人々が逃げ惑う音に混じって、親衛隊独特の人々を威圧するかのような怒号があちこちから聞こえ始めて来てしまった。
「逃げなきゃな」
アベルはそう呟き、未だに動けそうにないエミリアを抱き抱え、次に背負うようにして背中に乗せて、親衛隊員の比較的キレイに残っていた下半身の制服を破り、紐代わりとして、エミリアを自身の身体に固定していく。
足と腕を軽く固定し、アベルは家から走って飛び出し、直ぐ様魔力で跳躍し、直ぐ近くまで来ていた幾つもの怒号を後方に置き去りにして飛び去るのだった。