彼は、穏やかで静かな、安心出来る場所にいた。
そこは、小さな公園のようで、彼はベンチに座っている。
周りには、まばらに花が咲く、青々とした芝生がある。そして、気持ちの良い日差しが差し込む、そんな場所だ。
そこには、家族も、仲間もおらず、ただ見たことのない、様々な人々が穏やかな雰囲気で歩いて行くだけだった。
彼はそこで一人だったが、暖かな気持ちに包まれ、安心しきっていた。
「また、この夢か」
彼はそう呟く。
そう、何度もこの夢を見てきた。
それこそ、夢だと直ぐに気が付ける程に。
この夢に、彼は心地よさを感じていた。
彼は、部下達や、V.Bのことを信頼しているし、家族にだって会えるならば会いたいと思っている。
しかし、この夢で一人でいることに、不思議と寂しさも悲しさも感じたことが無かったのだ。
「本当は一人の方が好きってことなのかな」
彼は苦笑しながら呟く。
いや、違う。
頭の中でその呟きが否定される。
ここが、心地よいのには別の理由がある。
そうだ。
ここはーー
「ん?」
アベルは、物音によって現実へと引き戻されたようだった。
お世辞にもキレイとは言えない、見慣れた本部の天井が目に入る。
「おお、悪いな起こしちまったか」
直ぐ側でこれまた聞き慣れた声が聞こえてきた。
「ローベルトさんか。どうして..」
そのローベルトと呼ばれた白髪が混じった初老の男は、ヤゲノ解放軍の技術部、といっても彼と他数人だけだが、の部長を勤めている技術者だ。
「空いている病室がなかったんだよ。君らが任務にいってる間に、拠点の一つが帝国軍に襲撃されたんだ」
「本当か!?」
「ああ、それでどうにか逃げてきた奴らで病室は満員なんだ。だから、ただの疲労で倒れたお前さんは空いていたこの技術部の休憩室に運ばれたって訳。ここは病棟に近いしな」
「なるほど、それで..」
アベルはそこまで言って、ハッと重要なことを思い出した。
「エミリアは!?私と一緒にいた女性は、どうなりましたか!?」
「ん?ああ、お前さんが寝てる2日の間に、ボスが幹部らを交えた査問会議を開いたらしい」
「そ、それで。どうなったのです..?」
狼狽えるアベルを見たローベルトはニヤリと笑い、言った。
「そんなに気になるとはね。なんだい?お前さん、その娘に惚れたのか?」
「違いますよ。ただ..」
アベルは、彼女から聞いた話を思い出していた。
彼女は、家族を人質に捕られ、帝国のスパイとして活動せざるを得なくなっていた。
確かに、解放軍にとってみれば裏切り者だろう。
「ただ..彼女の事情には汲むべきものがある。だから...」
「...安心しな。とりあえずお前さんが目覚めてから事情を詳しく聞く方向で纏まったらしい」
それを聞いたアベルは自身が寝かされていたソファに寝転んだ。
「良かった..」
「...まあ何にせよ目覚めたんならボスに報告しな。お前さんの目覚めを待ってるからな」
そう言いながら休憩室を去って行くローベルトを追いかけるような形でアベルは部屋を出る。
「ローベルトさん。ありがとうございました」
「そこに寝かしてただけだ。気にするな」
そう答えながらローベルトは、作業の為の手袋を嵌め、作業場の奥、少し広くなっているガレージの様な場所に停められている戦車へと向かい合う。
「魔力戦車ですか?」
「ああ。帝国の戦車はそのままだと誰か人間を積まないと使えないからな。改造して操縦者や同乗者の魔力で動くようにせないかん」
「ああ、そうか。そうですよね。帝国の戦車は燃料奴隷を前提にしてるから..」
「そういうこと。"俺"はそんな真似したくはないからね。それに、お前さんみたく魔力を自在に放出出来る人間も少ないからな。高魔力保持者でも何も出来ないやつが殆どだ。そういう奴らでも操縦出来るようにせねばならん」
「そういえばそうでした。かなりの修練を積まないと魔力を自在に操ることは出来ないですものね。お疲れ様です」
「ま、いつものことさ。さ、さっさと行った行った」
しっしっと手の甲を振り、ローベルトは作業に戻っていった。
アベルも作業場を後にし、VBの部屋へと向かうのだった。