会議室に集い、アベルから今回の件の説明を受けた解放軍の幹部達は、彼が話終えても、暫くは押し黙ったままであったが、バンディが口火を切った。
「話は分かったがよ...どうしてエミリアは、最初の尋問でその事を話さなかったんだ?」
アベルは同席させているエミリアをチラリと一瞥し、「答えられるか?」と尋ねる。
「はい..」
エミリアは頷き、立ち上がった。
「あの時、私が何を言っても言い訳にしかならないと思ったので...それに、どうにしろ、皆さんを裏切っていたのは事実ですから..」
「確かに、あの時に、今の話を聞いたとしても、簡単には信じなかっただろうね」
カミンスキーは頷き、「エミリアが帝国人だったら話は簡単だったんだがなあ」とぼやいた。
「さて、それで、だ。諸君」
V.Bはエミリアが再び着席するのを見て、口を開いた。
「彼女の処分についてどうするべきか、君たちの意見を聞かせて欲しいんだ」
「街から出れないようにさえしとけばいいんじゃねぇか?」
バンディが言い、カミンスキーがそれに反論する形で見解を述べ始める。
「事情は違えど、この前捕まえたヤゲノ人のスパイは現在我が組織の地下牢に拘束してあります。殆ど罰則がないまま終わらせるのは問題かと。それに、彼女の言が全て真実と決まった訳じゃない。状況証拠から真実であると思われるだけですから、拘束は必要だと思います」
他の幹部達も、次々と私見を述べていったが、半々程で、街、ナジェルノスクから出られないようにはしつつ、生活を続けさせる。という穏当なものと、投獄すべし。という意見に割れた。
「......アベル。君はどう思う?」
迷った様子のV.Bは今まで当事者であるが故に黙っていたアベルにも意見を求めることにした。
「私は...私の部隊に加入させるのが良いと思っています」
意外な言葉に会議室の面々は一斉にアベルに注目する。
「何故、そう考える?」
「まず、現段階でエミリアがスパイであったことは、基本的には幹部以外知りません。しかし、幹部以外に知っている者も0ではないですよね。彼らを信用しないわけではないですが、漏洩のリスクはあります。そうなると、街に止めておくのは危険です。万が一この情報が広まった時、何が起きるか分からない」
V.Bは軽く頷き、アベルに続きを促す。
「そして、何か罰が必要だと言う方々の意見も充分理解が出来ます。その点は、エミリアとも先程軽く話ましたが、覚悟はしているようです」
「任務をさせることが罰になると?むしろまだ彼女がスパイのままなら任務を妨害されるだけだぞ」
カミンスキーが率直に疑念を口にした。
「その点は問題ないです。任務先での妨害などたかがしれてます。先んじて帝国と連絡を取り、連携でもされない限りは。そして、現地での妨害程度であれば、私には魔力があるので、対処可能です」
彼は、カミンスキーの疑念に答えて本題へと戻る。
「そして、私の部隊に入ると言うことは、帝国の非人道的所業を目にすることになります。たくさんの...それが、罰になるのではないかと私は考えます。事情があったとはいえ、彼女が与した帝国の行っている所業を、見てもらうのです」
アベルの後ろに座っているエミリアは、真っ直ぐと、前を見据えていた。
その様子を見ていたV.Bは一度大きく頷き、言った。
「アベルの案を採用しよう。彼女には、見てもらおう。帝国の悪行を、しっかりと」
何人かの投獄派の幹部達を除いて、おおよその参加者は納得したようだった。
「それでも、やはりリスクが大きいと思います」
賛同しなかった者達を代表するように、カミンスキーが再び反論した。
「カミンスキーさん。貴方の疑念は尤もです。ただ、彼女がスパイでなくなっていようと、未だにスパイであろうと、今、組織内から姿を消させる訳にはいかないと私は思います」
アベルがそう反論する。
「?......!」
カミンスキーは、アベルの言葉に小首を傾げたが、直ぐに何かに気が付いたようだった。
「お気付きになられましたか。スパイが出たばかりだと言うのに、それも、グダルスカから連れてきた者の中から、です。その後直ぐに、再びグダルスカの人間が姿を消したとなれば、どうなるかは想像に難くないと思います。我々は、爆弾を抱えてしまったのです。爆発すれば、不信感という伝染病が、組織内に蔓延する、爆弾を。最初は、グダルスカ出身者に、そして、それが他の人々へと向くのも、そう時間のかかることではないはずでしょう」
アベルの説明で、まだピンときていなかった者達も理解したようだった。
「だから、街から離す形で、かといって姿を消させはせず、何か罰を与えるとするならば、私の部隊に加入させることが一番だと、考えたのです」
そう締めくくったアベルは、後ろを、エミリアの方を一瞥し、彼女が強く頷いていることを確認した。
やっぱり強い娘だ。
アベルはそう内心で感嘆しながら、V.Bの方へと向き直る。
「エミリア=ギャズダ、君は、アベルの部隊に加入し、我等が組織の為に、働いてくれたまえ」
V.Bは再び大きく頷き、厳かに、そう命じた。