エミリア=ギャズダは強い娘であった。
アベルらと共に任務へと行き、「工場」を始め、帝国による被支配民衆への残虐な行為を幾つも目にした。
彼女はそれらから目を逸らすことはなかった。
次第に彼女は、積極的に作戦内で行動するようになっていった。
アベルの隊の者だけは、事情を聞かされていたのだが、彼女の働きに、次第に警戒を解いていき、4ヶ月も経つ頃には、すっかり打ち解けたのだった。
アベルもそんな様子を見て、安心することが出来た。
そんな折、とある憶測が、帝国中の一般市民から反乱軍に至るまで、飛び交っていた。
曰く、帝国がブーガリアへの侵攻を企図している、と。
当初はただの噂に思われた。
しかし、徐々にその噂は確信へと変わって行った。
ヤゲノ解放軍や他反乱組織が、国境部の調査を行ったのだが、果たして実際に大軍が集結している様子が確認されたのだ。
そして、その調査がどこから漏れたのか、帝国市民にも広がって行き、外国にも知れ渡ることとなった。
オストレオン帝国軍内部でも、総帥の独裁に諸手を挙げて賛同している訳ではない、彼の政策の成功から総帥を支持している勢力等が、大戦に発展しかねないこの動きに危機感を抱いた。
彼らの一部は、公然と総帥を批判し、一部は、総帥に直接懸念を伝え、一部は、万が一に備え、政権奪取の計画を準備し始めたのだ。
だが、それらの動きも、情報を得た諸外国の抗議の一切も総帥は無視し、ただ、日数だけが過ぎていくだけだった。
やがて、帝国、総帥は、ブーグリアに対して、要求を突き付けた。
その内容は、『先の戦争で我が国から奪った領土の返還、並びに、帝国人が居住している地域の割譲』といったものである。
さて、この状況下、噂が帝国に流れ出した頃から、オストレオン帝国の"帝国人"はどういった反応を示していたか。
それは、興奮と、歓喜であった。
これまで、全ての拡張政策を成功させてきた総帥に対する民衆の信頼は、頂点に達しており、今回も大丈夫であろうと、楽観視していたのだ。
故に、彼らは、旧領奪還という、かつての大国オストレオンを取り戻さんとする総帥に熱狂していたのだ。
この状況では、総帥から政権を奪い、戦争を阻止しようと考えていた一部将校らも動きようがなかった。
自分達の政権が支持を得られないのは確実だからだ。
そして、ブーグリアの方では、ブーグリア市民の爆発した反オストレオン感情は政府にもどうしうようもなくなっており、妥協を許せば、ブーグリア王政府の転覆に繋がりかねない状況になっていた。
列強諸国、特にブーガリアと直接、相互援助条約を結び、オストレオンとも国境を接しているウェスティンレオーネは、なんとか妥協点を探ろうとしていた。
しかし、国民の熱狂を受けたオストレオン総帥政府と、ブーグリア国民の怒りを受けたブーグリア王政府が妥協することなど無い。出来るはずがなかった。
会談は決裂。
両国は市民の熱狂の中、一方はそれを望んで、もう一方は望まぬ絶望を受け止めながら。
かくして、帝暦1930年8月23日、戦争は始まったのだ。
30年前の大陸全土を巻き込んだ"大陸戦争"を凌駕する規模となり、世界全土を巻き込むこととなる、後に"世界大戦"と呼ばれる戦争が、幕を開けたのだった。
今回はかなり短めになってしまいました。