開戦後、オストレオン帝国軍はブーグリア領内へ順調に進軍しているかに見えた。
今回もまた、数日、長くとも二週間とかからずに戦争は終わるだろうとオストレオンも、他の国々も考えていた。
しかし、その順調な進軍は、ブーグリア王国軍の作戦によるものであった。
守りにくい国境部は捨て去り、川や山地を中心に防御陣地が築かれており、予想外の粘りを見せたのだ。
更には幾つかの、特に魔導戦力の少ない部隊が大きな被害を受け、全滅する部隊も出ることになった。
それでもじわじわとオストレオン軍に押されるブーグリア軍であったが、開戦から二週間が経過しても尚、首都は落ちず、国土の半分以上を維持していた。
この事実と、国民からの突き上げを受けたウェスティンレオーネ合同帝国政府は、相互援助条約に基づき、オストレオンへの宣戦を決める。
これにより、オストレオンは長大な戦線を抱えることとなり、進軍は完全に停滞した。
そこから一月程経って、ウェスティンレオーネと同盟を締結していたジェルト=ケッチ連合王国もオストレオンに宣戦を布告。
今まで戦争を避けるために拡大を容認してきたが、その野望は留まることはなく、際限なく拡大していくオストレオンに危機感を募らせていた連合王国は、これ幸いとばかりに参戦したのだ。
連合王国地上軍が援軍として到着すると、オストレオンはブーグリアの占領地もじわじわと奪還され始める事態に陥った。
そこから、半年近く、オストレオンがブーグリアからじわじわと押し戻されていたものの、戦線は余り動かなかった。
だが、オストレオンもこのままでは終わらない。
それは、正に、ブーグリア戦線から始まった。
ーブーグリア王国のとある前線地域ー
「オストレオンも大したことないな。今まで戦争を避け続けてきた意味も無かったなあ」
連合王国のある兵士が共に戦うウェスティンレオーネの兵士に話しかける。
「全くだ。確かに魔力戦車とやらは厄介だが、あいつは直線的に光線をぶっぱなすことしか出来ないせいで、乱戦に存外弱い。当たれば脅威だが、必要以上にビビる意味はなかったな」
そう、彼らは帝国の魔力戦車は現在あるどんな兵器よりも攻撃力が高いと聞かされてきていたのだが、直線上に魔力光線を撃ち込む、つまり普通の戦車の様に弾が曲線を描くように飛ぶことはないので、乱戦となると、仲間を巻き込み安くなってしまうのだ。
このせいで、オストレオン軍は魔力戦車の攻撃力を活かしきれていなかった。
今までオストレオンが戦ってきた相手は格下ばかりで乱戦に陥った経験が無かった事から、この弱点を軽視していたのだ。
「まあ、おかげで早く帰れそうで助かるがな」
「全くだ」
ハハハハと二人が笑っていると、遠くから爆音が聞こえてきた。
「ん?敵さんおいでなすったようだな」
「とっとと我等が同盟国から追い出してしまおうぜ」
二人は軽口を叩きながら銃を取り、上官の元へと向かった。
「諸君、オストレオン軍による反攻が始まったようだ。しかし、恐れることはない。我々は奴らより数が多く、魔導技術以外も我等が優勢である。その魔導技術も、蓋を開けてみれば存外大したことはなかった。油断しなければ、充分勝てる相手である。野蛮な侵略者共に今までの分も含め、しっかりとツケを払っていただこうではないか」
総員配置に付け。という命令と共に彼らは解散し、再び持ち場へと戻っていく。
やがて、オストレオン軍の姿が彼らの陣地からも確認出来るようになったのだが、そこには、信じられない光景が広がっていた。
航空機とは思えない形状の、まるでトラックキャビンの様な形状をした、コックピットと思わしき車体に、キャタピラのついた戦車以上に大きな機体が空を飛んでいたのだ。
「なんだあれは..」
それは、たった数機であったが、その特異な風貌と、飛行していたことから兵士らの注目を引いた。
彼らは唖然としてその正体不明機を見つめる。
上官らも驚きを隠せない様子だったが、司令官の立場なだけあり、比較的冷静に、攻撃の指示を出す。
動きは航空機よりは遅く、狙いは付けやすかったため、対空砲をかなりの程度命中させることに成功したが、一機足りとも撃墜させることは出来なかった。それどころか、ほぼ無傷であった。
大部分が小口径の砲であったせいもあるが、正体不明機の装甲が固かったのだ。
「なんだ、どうやってあんなものを浮かしているんだ」
司令部も殆ど恐慌状態となった。
何せ対空砲も利かない上に宙を浮かぶ未知の兵器なのだ、混乱しないはずがない。
「とにかく全兵らに塹壕に身を潜めるように命じろ。何が起きるのか予想もつかん!」
この命を下した司令官の懸念は当たってしまう。
正体不明機達は、対空砲が止むと、トラックキャビンの様なコックピットの側面に付いている、大砲に見えなくもないアームの様な部位を駆動させ、斜め下、つまり、連合王国の兵らが構える陣地の方へと向ける。
そして、数秒の間、そのアームからバチバチと音を出し、次の瞬間には、巨大な光線を連合王国の兵らがいる陣地に向かって放った。
凄まじい轟音と、土煙、爆発によって薙ぎ倒された木々の破片等が飛び交い、数分もすると、辺りに静寂が訪れた。
塹壕に入れることが出来なかった対空砲や、攻勢用に準備されていた戦車などは、鉄屑となって、辺りに散乱し、そこに人がいればどうなっていたかを否応なく示した。
塹壕の中に隠れていた兵らも多くは負傷し、死者もかなり出ていたが、大部分は生きていた。
しかし、誰一人として、ケガのなかった者も、応戦しようとはしなかった。
戦意が、完全に折られてしまっていたのだ。
「あんなの勝てるはずないだろ..」
誰かが呟いたその言葉は、薄暗い塹壕にいる兵達の中に暗く、沈んで行くのだった。