オストレオン帝国―アンファングブルク―
帝国北東の国境近くに位置するこの街は、いつもは静かで落ち着いた街なのだが、ここ数日、特にこの日は、騒がしく、落ち着いた雰囲気とは無縁になっていた。
幾人ものカーキ色の軍服と黒い軍服の武装した兵隊達が軍用車両や、戦車等と共に街の東側、国境の向こうへと向かっていた。
その光景を街の人々に紛れ、焦燥した様子で眺めていたのは、全力で帝国領を北上し、漸く街にたどり着いたばかりのアベルだ。
「...見ていることしか出来ないとは...」
アベルはそう悔しそうに呟き、拳を握りしめた。
恐らく、V.Bは今こうして進軍している帝国軍が動き出す前に帝国の目的を探りたかったのだろう。つまり、遅かったのだ。アベルの行動が遅かったわけではない。考え得る限り最速で彼はここに来たのだ。だが、間に合わなかった。そのどうしようもない悔しさと事態を見守ることしか出来ない無力感にアベルはうちひしがれていたのだ。
そんなアベルを嘲笑うかのように、帝国軍は、意気揚々といった様子で進軍していく。
やがて、アベルの目の前を一台の戦車が横切った。
その戦車を目にしたアベルは驚愕の表情を浮かべる。
「なぜ...こいつらが..」
オストレオン帝国―ヤゲノ総督府―
この日、旧ヤゲノ王国領土の大部分をオストレオン帝国中央政府の代理機関として統轄している総督府の庁舎内で、総督も交えた特別会議が開かれていた。
特別会議、と言っても、ここ最近何度も開かれ、その都度同じような議論が続いてきたため、参加者は主催者を除き、諦め、飽きの感情に支配されていた。
「ここ最近、ヤゲノ解放軍を名乗る連中によるテロ行為で幾つもの工場が被害を受けています。先日、再び奴らの攻撃で工場一つが全壊しました」
議事の司会役を務めている男がそう報告すると、総督は顎の下に手を組み、「被害状況の詳細をさらってくれ」と命じた。
「具体的に、ここ半年の被害ですと、魔導特別工場が5件、通常の工場3件が修復不可能な状態にされています。半壊やその他軽微な被害も含めれば、魔導工場7件、通常の工場が11件となります。そして、殆ど全ての事例に置いて、『Energiesklave(燃料奴隷)』が行方不明、恐らく奴らに盗まれています」
「やはり、深刻だな。命じている警備の強化はちゃんとされているのか?」
「勿論です。配備人員の増強や提示連絡の頻度を増加させるなど様々な対策をとっています」
総督の質問に、会議に参加している総督府の治安担当である親衛隊ヤゲノ管区司令官がそう答えた。
「総督府における生産に甚大な被害を及ぼしております。ただでさえ農業が主力の地域ですから..」
工業生産を統轄する者がそうぼやく。
「うん。このまま被害が拡大し続けるのを黙って見ているわけにはいかん。それに今回破壊された工場は実験的な取り組みも行われていた重要な工場だ。せめてテロリストに対して何かしらの打撃を与えるなり成果を出さねば、総帥に申し訳が立たん」
総督が肘を机につき、親指を頭に押さえつけるようにして言った。
「ですが、現状奴らに関して分かっていることはかなり少ないです..警備や巡回の強化以外対策を講じることも難しい有り様で..」
司会役の男がそう恐縮したように言う。
「うーむ」と親衛隊管区司令官が唸ったのとほぼ同時に、会議室の扉がノックされ、総督の側近の一人が入ってきた。
「皆様、会議中失礼いたします」
軽く頭を下げながら、側近は総督に近づき、「総督。中央から連絡です」と何やら耳打ちをした。
耳打ちをされた総督は小さく何度か頷き側近に此方は普通の声量で尋ねる。
「もうか。早いな。総督府管轄地域駐屯軍の状態は?」
「は。戦闘準備は万一に備え万全と」
側近の言葉に総督は最後に一度、大きく頷いた。
他の会議参加者の殆どはその総督らの様子を訝しげに見ていたが、それに総督が気付き、「ああ、すまない」と彼らに向き直る。
「これは政府内でも一部の人間しか知らされていなかったことなのだが、もう事が始まった。だから君達にも話しておく」
「先の大戦の後、列強に靡き、汚ならしい権力欲のために崇高なるオストレオンと同一民族が大多数を占めているにも関わらず、不当にも我々から独立を宣言、帝国臣民を抑圧、支配しているロナ家が居座りしノルテンブルク公国を名乗る地域に我が帝国軍が進駐を始めた」
一拍置いて、総督は儀礼的な形容を多分に使用した言葉で帝国の新たな冒険を参加者に伝えた。
「ノルテンブルクに!?」
工業生産担当者が興奮を隠さず、弾けるように立ち上がる。
「ヘーゲルラント、コルーネ、パルケンブルク、そして、ここ、ヤゲノに続き、帝国の正当なる領土を取り戻しに行くわけですな」
別な参加者がそう嬉しそうに言う。
「ですが、今までの領土回収地域とは違い、ノルテンブルクは列強の利権が絡んでいますよね」
そこまで言ったある参加者はハッと総督と側近を見る。
それに総督は頷きで返した。
「ああ。だから介入する可能性のある国の国境に軍を集結させ、戦闘準備を整えさせたんだ。とは言っても私のもとに命令が届いたのも先週末でね。詳しい日時も知らされていなかった。どうにか軍の準備も間に合ったようで良かったよ」
そう苦笑し、総督は続ける。
「我が国はこれから戦争になるかもしれない。だから、1レジスタンス組織に手間取る訳にはいかんのだ。出来るだけ早期に壊滅させ、この地に安寧をもたらすぞ」
「はっ!」
会議参加者達は、先程までの諦観に包まれた雰囲気とは打って変わってこれ以上ない程の高い士気と熱狂に包まれていたのだった。
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【号外:デモクラティックブロードキャスト】
《オストレオンが再び領土拡大》
本日未明、オストレオン帝国軍がノルテンブルク公国に突如として侵入した。
「不当にもノルテンブルクの地を支配しているロナ公爵から皇帝陛下の名の基に爵位を剥奪し、ノルテンブルクにおいて帝国当局による正当なる統治が回復した」旨を発表した。
ノルテンブルクに侵入したオストレオン軍は、発表の通り、ロナ公爵を拘束したようだ。
現地記者によると、既に、ノルテンブルク市庁舎には帝国旗が翻っており、帝国への帰属を望んでいた右翼政治団体が街頭で歓迎のデモ行進を行っているようだ。
ジェルト=ケッチ連合王国首相は「これは明らかに国際秩序に対する挑戦であり、容認出来ない暴挙である」と先程開かれた会見でオストレオン帝国を非難した。
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5話です
暫く毎日二話投稿を続けていきます
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