Unser Kampf   作:ライト鯖

53 / 102
追憶

 

 殴打。金属音。銃声。

 

 

 余り裕福ではないが、兄妹の多い家の三男坊として生まれた私、ルドルフ=ゲーベルは、徴兵に採られることが運命付けられていた。

だから、徴兵される前に、軍に志願した。

 どうせ、家の財産も殆ど継げない上、義務教育以上の教育を受けることは望めなかったし、何より、志願兵なら引退後に軍人恩給を貰えることが決め手になった。

 そうして、軍で勤務を始めて直ぐ、戦争が起きた。

後に、大陸戦争と呼ばれる、大規模な戦争が。そうして、私は前線に送られた。

 無二の親友である、ヨアヒム=ドーペルトとはここで出会った。偶々塹壕の中で隣同士だったのだ。

しかし、そこは地獄だった。

塹壕に潜みながら、敵の銃弾に怯える日々。

帝国軍が誇る、伝統ある精鋭の魔導士部隊も、最新の機関銃の前には、殆どが無惨に倒れていくのみだった。

 機関銃の威力は凄まじく、魔導士が持ち前の魔力で銃弾を消し炭にしようが、無限と言える程の鉄の雨を吐き出し続け、魔導士が新たに魔法を発する前に撃ち抜く。或いは魔力が尽きるまで弾を浴びせ続け、撃ち抜く。

帝国軍が魔導士に頼りきり、その地位に胡座をかいている間に、各国は他の軍事技術部を育て上げていたのだ。

 こうして、帝国側の攻撃兵力は削られ続け、後衛の我々は、塹壕の中で震えるしかなかったのだ。

 しかし、ある莫大な魔力を有する魔導士が無謀とも言える突撃を敢行したことが皮切りとなり、僅かに敵に隙が生まれた。

私の所属した部隊は、その好機を逃すことなく前進した。

そうして、我々は敵の塹壕に近付いたが、その時には、勇敢な魔導士の魔力も尽きていたようで、再び鉄の雨が我々を襲った。

それでも、今更戻ることなど出来なかった我々は、隣を走る仲間が倒れようとも、上官が倒れようとも決して振り向くことなく、ただただ前進し、ついには、敵の陣地へとたどり着いたのだった。

その頃には、我々の部隊に惑わされたことで敵前線が混乱したようで、他の部隊も次々に前進することに成功していた。

あの勇敢な魔導士のおかげで、我々は貴重な勝利を掴むことが出来たのだ。

 戦死したその魔導士は二階級特進し、私達の部隊は、全員一階級昇進した。隣同士だったヨアヒムも生き残ったようで、同じく昇進していた。

 こうして、私は軍曹となり、下士官となった。

しかし、他の戦域にもホイホイと英雄が現れることなどあり得ない。だから、帝国はどんどんと劣勢に立たされていった。それでも、国内で産出される資源もそれなりに合ったことで、我々は戦えた。

 

 何年も戦った。

 その間に、私は幾らかの活躍をして、勲章も授かった。階級も上がり、准尉となっていた。それ以上は、士官学校で一年以上の教育を受けなければ、昇進することは出来なかったのだが、大戦も末期、そんな余裕はなかった。

 そうして、開戦から四年が過ぎた頃、隣の大陸にある新興経済大国、"カルメリア連合"が参戦する。これは、帝国政府の継戦意志を奪うのに充分な衝撃だったようで、にわかに降伏論が持ち上がった。

 当然、国民にも諦めが広がった。

何せ、既にジェルト=ケッチ連合王国、ウェスティンレオーネ合同帝国、リョーク朝アグロムノイ帝国という三つの列強と戦争をしていたのだから。

これで四年持ちこたえたのは奇跡と言えるだろう。

魔導以外の技術が他列強より遅れていたとは言っても、5年も10年も遅れていたという程ではなかったこと。

量ならば、質に拘泥しなければ、大量に保管されていたこと。資源に余裕があったこと。

そして、魔力の多い魔導士ら個人個人の英雄的奮闘。

末期には、新たに開発された魔力を利用した兵器の局地的な活躍。

これらが帝国をギリギリのところで持たせていたのだ。

しかし、これ以上は不可能だった。

 既に国内経済は当時は経済のことなど理解していなかった私にも分かるほどに悪化していた。

市民の生活は戦争前の見る影もないほどに落ちぶれていた。

そうして、政府は降伏を選択した。

当時の皇帝が、これ以上は国家そのものが消滅する、と政府を説得したとも言われている。

これによって大陸戦争は終結し、帝国は列強諸国に降伏したのだった。

 

 講和条約は酷いものだった。

帝国が300年前から広げていった領土の多くが奪われたのだ。資源地帯も多くが奪われた。

民族独立という美名の下、多くの国が作られ、帝国から切り離された。

 更には、莫大な賠償金が課され、軍備も制限された。

当時の皇帝は退位を迫られ、次の皇帝には、リョーク朝の皇族と血縁関係のある、皇位継承権は殆ど最下位であった者が列強の介入によって選ばれた。

 屈辱だった。

それまで、塹壕の中でも、昇進しても、愛国心というものを余り自覚してこなかった私に、怒りが芽生えた。屈辱によって初めて、愛国心を理解したのだ。

軍備制限後も運良く軍に残れた私は、戦争責任を取るという名目で大量に辞めさせられ足りなくなった士官を補う為に士官学校に入学するよう命じられた。

これが、終戦から二年が経った時のことであった。

 こうして、私、ルドルフ=ゲーベルは、士官学校を経て、オストレオン帝国軍大尉として僅か20万人に制限された帝国軍の一部隊を率いる身となったのであった。

そこでヨアヒムと再会した。

彼も同じく、士官学校への入学を命じられていたのだ。

 

塹壕で共に過ごし、同じ時期に士官学校に入った私達は、自然と距離が近くなった。

 その上、面白いことに、私達はライバルにもなった。

実技も筆記も、全て成績は伯仲していたのだ。互いに意識しあい、良く競った。

 最終的に、私が首席、彼が次席での卒業となった。更に、配属後初の昇進も同じタイミングであった。

しかし、私達の友情と、栄達とは対照的に、その後の帝国は悲惨だった。

 資源地帯を喪失した状態で賠償金の支払いを行わねばならず、慢性的な不景気、いや、大不況が国を覆った。

私の実家も、大きな損害を被り、長男だけはどうにか大学に通い続けれたものの、次男は高等学校を中退せざるを得なくなったらしい。

 だが、それはかなり恵まれた方だった。

多くは、明日食べるものの心配をせねばならなかったのだから。

 列強の収奪は止まるところを知らず、憲法の規定を悪用する形で、今は悪逆帝と呼ばれている新たに即位した皇帝が、列強への賠償金支払いを優先させた。

 更に悪いことに、皇帝に阿る連中が組織した政党が、列強の介入や、皇帝の支持によって与党となった。

彼らは、執政政府を名乗り、皇帝と共に、賠償金の支払いだけでなく、列強への貿易の融通、未だ帝国に残っていた鉱山の利権を売り渡すなど、売国の限りを尽くした。

それに反対する政党は、選挙妨害、勅撰議席の存在等によって、過半数を得ることは叶わなかった。

 しかし、国民の反対運動は凄まじいものとなり、軍部も鎮圧に非協力的な姿勢を取ったことから、政権成立から二年、戦後五年の段階で、ある程度マシにはなった。

利権もある程度は列強が返還することになり、賠償金支払いも猶予された。

列強も調子に乗りすぎたことを反省したのだろう。

 政府も、国内の経済復興に取り組む姿勢を見せ始めた。

だが、彼らにとってみれば、遅かったことになる。

国民の間に広がった執政政府への不審は、拭いがたいものとなってしまったからだ。

 そして、執政政府は次に同じような事態が起きた際を考慮してか、"近衛軍"を組織した。

国防軍よりも良い待遇、良質な装備を提供し、執政政府に忠実な軍事勢力を、「皇帝陛下とその所領の護衛」という名目で作り上げたのだ。

これに、私を含む軍部は憤った。

ただ、クーデター計画などは持ち上がったものの、未遂に終わる。

この時点では、列強の軍がいつでも帝国に介入する姿勢を見せていたからだ。

しかし、これで執政政府は軍と国民両方から不審を抱かれることとなったのである。

 

 私は、その後も軍で勤務を続けた。

ノルテンブルク争乱、ヤゲノ国境紛争、ウェスティンレオーネとの対立。

幾つかの軍事的危機や、争乱に出向き、戦った。

将校の数もギリギリであったことから、私はスムーズに昇進していった。

途中で、上官からの紹介で、結婚もした。

 妻は、大将閣下の娘で、いわゆる見合い結婚であったが、共に過ごす内に、彼女の気の強さに私が惹かれていった。子供が出来てからは、彼女に慈しみの感情があることも知った。普段の気の強さとは裏腹に、息子には、聖母のごとく接していた。

私はそこにも、強く惹かれた。

そうこうしている内に、私は中将となった。

彼も、ヨアヒムも、同じく出世していた。

戦争から15年が経ち、ようやく経済も戦前には遠く及ばないものの回復、帝国全体が落ち着いてきた頃の再会だった。そこは、任命式の会場であった。

 我々は、戦後、老人や毒にも薬にもならない連中ばかりが残された将校の穴埋めの様な形で任命されたのだ。

それぞれ、ヨアヒムは、帝都近郊の軍区、私は、ヤゲノ王国と隣り合っている軍区の司令に。

 そうして、それぞれ、自身の軍を指揮する立場となったわけだ。そんな折、帝国を再びどん底に叩き落とす出来事が起きた。

 ことの発端は、ジェルト=ケッチにある有名銀行の破綻であった。

これによって彼の国では、金融不安が広がった。預金の引き出しが起き、幾つもの金融機関にその不安は伝播していった。

 そうしている内に、誰が言い出したのか、他の業種にも影響があると噂が流れ、株式市場は大荒れに荒れた。

これを見た、ジェルト=ケッチの戦債を多く抱えるカルメリア連合市場も反応した。

カルメリアの資産家や果ては一部の金融機関さえまでもが、戦債をどうにか処分しようとしたのだ。

 何せ、たった一晩と言えるほどの短期間でジェルト=ケッチは恐慌と呼べる状況に陥ったのだから、戦債が紙屑になるかもしれないと考えるのは自然なことだった。

この戦債を売り払う行為が最終的に戦債の価値を下落させ、市場を動かす人々が自ら不安を実現させてしまう格好となったのは皮肉だ。

 カルメリア政府の依頼で戦債を多く抱えていた金融機関は、人々から不信を向けられることになった。

紙屑になりかねないものを、多く保持していたからだ。

そうして、カルメリアでも預金の引き出し騒ぎが起き、連鎖的に、戦債は様々な業界の企業が有していたこともあって、株式は荒れ、下落していった。世界一の経済力を有しつつあったカルメリアも破局を迎え、世界中に不安が広がる最後の一押しになったのだった。

 事態がそこで終われば、小気味の良い話であったのだが、そうもいかなくなった。

 列強諸国は、帝国に抱える利権をも利用して、事態の打開を図ったのだ。それだけならまだしも、今までかなり猶予されてきた賠償金の支払いを、猶予を取り消し、迫ってきたのだ。当然、恐慌の煽りを受け、不安の広がっていた帝国経済にとって、これは致命傷となった。

ただでさえ、落ち込んでいく経済の幾つもの指標に、賠償金の支払いまで加わればどうなるか。

こうして、オストレオン帝国も、恐慌に巻き込まれることとなったのだ。

 失業率は再び悪化し、多くの企業が倒産した。

執政政府は、妨害を受けても尚2割程度の議席を確保していた野党の突き上げもあり、ある程度はまともになっていた。どうにか、経済を立て直そうと、幾つかの対策も実施しもした。しかし、皇帝は違った。

 自身の血縁が深いリョーク朝に対しては特にだが、優遇を続けるよう政府に命じ、賠償金の支払いも、猶予交渉を打ちきり、滞りなく支払うように命令した。

執政政府はこれに従わざるを得ず、国民は失望する。

元々信頼の無かった政府なのだ、当然の帰結だろう。

 そんな時、地方のある都市で、クーデター騒ぎが起きる。"オストレオン統一国家党"を名乗る地方政党が、私兵を使ってクーデターを起こそうとしたらしかった。

これは近衛軍に迅速に鎮圧され、彼らは捕らえられた。

だが、捕まった党首は、自身の裁判を、見事に宣伝の場へと変えてしまったのだ。

国民のガス抜きの意味も込めて、報道への検閲が丁度緩まっていたこともあり、幾つもの報道機関が、彼の主張を大きく報じたのだ。

 曰く、「帝国が落ちぶれた要因は、列強とそれに阿る売国勢力の仕業である」「列強の言いなりとなっている帝国人がいる。そう、外国の血が流れる者達だ」「売国勢力と外国の傀儡を除去して始めて、帝国は真の独立を取り戻すだろう」「オストレオンの正統な領土は取り戻されねばならない」と、まあ典型的な右翼政策であったのだが、執政政府への不満が高まりに高まっていたこともあり、痛快な主張として、国民に受け入れられたのだ。

 党首のトイフル=シュナイダーは、収監されたものの、僅か二年で出所する。国民の減刑嘆願が多く集まり、不満の爆発を恐れていた執政政府が受け入れたことによるものだった。こうして、彼の政党は、再び活動を再会し、議会選挙にも打って出た。

 当然、選挙妨害があった。立候補に必要な基準を届け出開始の前日に公表。届け出期間の短縮。集会の不許可。挙げればキリが無いほどだった。

 だが、それらの妨害にも関わらず、彼の出所から二年、議会選挙二回と全国地方選挙、合計三回の選挙を通して、野党第二党に躍進する。

第三党は左派革命勢力がカモフラージュで作った革新政党であり、最早、妨害が無ければ執政政府は維持出来ないことが露呈する格好となったのだ。

 そして、経済はいまだに回復していなかった。国民の不満は日に日に高まっており、軍部もそれは例外ではなかった。

 私は、丁度、帝都の参謀本部に移動していたのだが、そこで驚くべき計画を聞かされた。

"オストレオン統一国家党"改め、"レオン統一国家党"と名乗るようになっていた彼らと、手を組み、クーデターに打って出るというものだった。

 私は最初は反対だった。

近衛軍と内戦になれば、列強が介入する隙を与えることになりかねなかったからだ。だが、軍部の腹は既に決まってしまっていた。だから、私も賛同せざるを得なかった。

下手に反対しても自身や家族の身を危険に晒すだけだったから。故に、直ぐに、私は計画の成功率を高める為に、積極的関与するようになった。

 そうして、クーデター計画はレオン統一国家党と秘密裏に協議を重ね、組み立てられていった。

まず、彼らと軍が対立しているかのように見せることから始まった。

 元々、国防軍は、先の大戦の敗北で、国民からの信頼は大きく失われていた。だから、国民からの支持が厚い、統一国家党と協力して新政府を樹立する必要があったわけだが。

 計画の第一段階として、その支持の差を利用した。大きな支持を集める統一国家党が軍を非難し、我々は型通りの反論を出すというところから始まった。

この時、軍は、国民からの支持が更に多く失われ、辞表も多く提出された。

 そうして、次の段階に計画は入った。

統一国家党が、私兵、シュナイダー親衛隊に帝都を行進させたのだ。既に不満が溜まっていた多くの市民が、親衛隊に追随し、徐々に秩序が失われていき、暴動へと発展していった。すっかり軍と統一国家党は対立していると騙されていた政府は、まず我々軍に、暴動の鎮圧を命じた。

これに従わなければ、近衛軍を出動させることは目に見えていたので、軍部は直ぐ様反応し、出動は行った。

兵の士気はこれ以上ないほど低く、本当に鎮圧に向かっていれば、兵らは市民の味方となっていただろう。

しかし、我々は市民の元へは向かわなかった。

宮殿に向かったのだ。

政府と皇帝には、地方から援軍が到着するまでの間は、宮殿の防衛を近衛軍と協力して行う方針となった、と伝えた。皇帝はこれを信じた。

実際、宮殿付近にも暴動は広がっており、恐怖心が高まっていたことも影響したのだろう。

 こうして、宮殿に侵入した我々は、近衛軍内にいた協力者と共に、まず宰相府を占拠。

そうして、ほぼ同時に、皇帝を拘束した。

近衛軍との戦闘が予想されたが、皇帝への忠誠ではなく、金や待遇によって近衛軍に入っていた者が多かったようで、政府の崩壊を見てとると、直ぐに降伏した。

 そして、連絡を受けたトイフル=シュナイダーは、英雄の凱旋かのようにして、帝都へと入った。

暴動に参加していた市民は、彼の姿を認めると、多くは歓喜した。

 その歓喜は興奮と熱狂の渦へと直ぐに変化する。

シュナイダーが、宮殿に到着すると、対立していたはずの国防軍が敬礼で彼を出迎え、宮殿に迎え入れたのだから。

まるで、小説や演劇の様な事態が、彼らの目の前で起こり、暴動の熱は、熱狂に、崇拝にも近い熱気へと還元された。

 そして、直ぐに国防軍と統一国家党による新政府設立宣言が出され、"悪逆皇帝"の退位と、新たな皇帝の即位。そして、党と国防軍は、この計画の為に、協力し、わざと対立を装っていたことも明らかにした。

 全国に、世界中にこれは伝わった。

2日と経たない内に、国防軍への志願者が10倍にも膨らみ、支持率も高まった。

「国民から嫌われようとも国家のためを思い行動する真の国防部隊」等と新聞には書かれ、国防軍の地位は一気に向上した。

 私は、クーデター計画の成功を喜んだ。

これで、帝国は良い方向へと向かうだろうと、そう確信していたのだ。

 この時、国防軍と党は同等の地位であるかのごとく発表したことは、後々、対立の要因の一つへとなっていったのだが、その時の私には知るよしもなかった。

 そうして、シュナイダー率いる党と、国防軍による協力政府が成立した。シュナイダーは、軍事技術で劣る帝国を再び軍事大国にするために、まずは、軍備制限を無視した兵力拡充を提案した。

列強も、恐慌の影響で介入してこないと彼は踏んでいた。

我々はそれでも介入を恐れて慎重な立場であったが、結局は押しきられる形で、同意した。

 制限を無視した志願者の採用を行ったが、列強諸国は"懸念"を発表したのみで、何ら制裁もされなかった。

我々は、この成功からシュナイダーを信用した、してしまったのだった。

 そうして、次に彼は、殆ど見向きされなくなっていた魔導技術に目を付けた。"燃料"さえあれば、魔導士でなくとも、扱える。その提案は、人倫に反するものだった。

しかし、私も含む軍部は、これに賛成したのだ。

言葉巧みに誘導されたこともあるが、我々は彼を信用してしまっていたし、何より、再び軍事大国になるという誘惑に、軍は勝てなかったのだ。

 こうして、悪魔の契約は成された。

 だが、当然、その非人道的方針に反対する者もおり、この時の軍での内紛が、数年後、シュナイダーが親衛隊に自重を移していく要因となるのだった。

こうして、我々が彼の提案に乗る内に、彼と彼の党の"功績"が増え、経済等の民生分野は彼らに一任したこともあって、国民からの支持も、彼らあってこその国防軍への支持というような状況に陥っていった。

つまり、シュナイダーの権力がどんどんと強まっていったのだ。

 そして、政権樹立から二年、彼は、国防軍総司令、帝国宰相、摂政、帝国最高評議会議長を兼任。"帝国総帥"を名乗るようになった。

彼は独裁者となったのだ。

 彼の権威に、我々の権力の弱体化に気がついた時には手遅れだった。我々には、人倫に反する行いに加担した共犯者という後ろめたさだけが残るだけだった。

 私は、そこから三年後のヤゲノ侵攻後、ヤゲノの総督に任命されたが、国防軍系の重用はこれが殆ど最後となった。その時既に軍内でも古参になりつつあり、影響力もあった私への配慮もあったのだろう。

しかし、親衛隊にしっかりと狙われていたようだ。

 

 

そして、自分がその対象となるまで、楽観視してしまうものなのだ。

 

 私は、脳ミソから溢れるようにして浮かんでくる過去に想いを馳せながら、血だまりの中に倒れていた。

"事故死"としてもらうために、冤罪を受け入れた私は、地下の"尋問所"で胸を撃ち抜かれたのだ。

悪魔との契約に同意した私にはふさわしい罰なのだろう。

ああ、だが、死が確定した今になって命が惜しい。死にたくない。奴らの思い通りにしてしまったことが悔しくてならない。

虫が良いことなんて、分かっている。

けれど、願わくば...私達の罪が...次の





番外編はこれで終わりです。
次回から二部の投稿を始めます。

これからもよろしくお願いいたします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。