Unser Kampf   作:ライト鯖

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今回からは第二部です。




二章
Neue


 

帝暦1931年7月25日

 

 オストレオン帝国がブーグリア王国に宣戦布告することで始まった、大陸の列強二ヶ国をも巻き込んだこの戦争は、開戦から一年が経とうとしていた。

ブーグリアを降伏させたオストレオン帝国は、国内にて発生した反乱を一つずつ潰して行き、後顧の憂いを断っていた。

 そうして、新兵器"グラディエーター"の活躍と共に、停滞していた戦線を一挙に押し上げていった。

ウェスティンレオーネ合同帝国は、前の大戦でオストレオンから割譲していた土地の殆どを喪失していた。今も、どんどんとオストレオンに進軍されつつある。

 "グラディエーター"は戦線を掻き乱した。

戦車としても使え、浮遊出来ることから来る神出鬼没性、空中固定砲台とでも言うべき戦い方。弱点こそあるものの、それを突くハードルは高かった。

 何せ、弱点は、空中で飛び回れる時間がさほど多くはないこと(とはいっても1時間程度は飛べるし、ホバリングだけならば3時間近くも飛べるが)と、空中での機動性は余り高くないことなのだ。つまり、複数の航空機を相手にした場合、対処することが出来ない。という程度のものであった。まだ量産されていないことが、ウェスティンレオーネ側にとっては救いであった。

どうにか持ちこたえているのは、"グラディエーター"の数が少ないことによるものでしかない。

オストレオン帝国で起きていた反乱すらも全て鎮圧された今、ウェスティンレオーネも、オストレオン帝国の毒牙に殺されようとしていたのだった。

 

オストレオン帝国

帝都 レオンスブルク

 

 「号外だよ!号外!」

朝、まだ涼しい時間帯の大通りに響くその声に、道行く人々は足を止める。

かと思えば、あっという間に声の周りは人で溢れかえる。

「押さないで~」

人々が手に手に受け取っていく紙面には、オストレオン帝国人に取っては痛快な、それ以外の人々にとってはおおよそ喜ばしい要素の一つもない出来事が、大きく報じられていた。

【オストレオン帝国軍、メイナスブルクを制圧】

 そんな見出しで記事は始まっていた。

メイナスブルクは、オストレオンと交戦中であるウェスティンレオーネ合同帝国の帝都である。

つまり、オストレオン帝国軍がウェスティンレオーネの首都を制圧した、というのである。

これにオストレオン臣民は歓喜した。

一時期不利な情勢にすらなった戦争に、漸く片が付くかに思われたからである。

それも、祖国の勝利によって。

その日、帝都は熱狂に包まれた。

各地で企業や役場は、急遽業務を中断し、さながら国中が臨時休業の有り様となった。

オストレオン帝国政府もこれを黙認。

彼らも、この勝利に浮かれたのだ。

そんな日に、決して一般に知らされることの無い事件が、二件、発生した。

 

まずは、少し時を戻し、まだ朝日が登りきる前のこと。

 

ーオストレオン帝国 某所ー

 

 そこは、収容所であった。

刑務所という名であったが、通常の刑務所よりも環境は劣悪であり、収容されるのはもっぱら非帝国人ばかりであった。

 被収容者はおおよそ、強制労働に従事すらさせられず、ただ死を待つのみという者達だった。

先日の、"大反乱"と後に呼ばれることとなる、各地のレジスタンスが一斉蜂起した件で、鎮圧された組織の幹部級の者達が収容されているのだ。

彼らの多くは、見せしめとして公開処刑される日を、看守の暴力に晒されながら待っている。

 ジャック=コワルスキーもその一人であった。

彼はヤゲノ解放軍で、肩書きを持つ者の数少ない生き残りだ。他の幹部や、V.Bは粘り強く抵抗を続け、帝国内で唯一支配圏を残す反乱軍となるまで戦ったものの、最後には全員が散っていった。

 ジャックは、ヤゲノスルカが陥落する半年程前に、部下を逃がすべく奮闘したのだが、負傷し、倒れていたところを帝国軍に捕らえられたのだった。

 そうして、処刑の日を待つだけとなり、自慢の長髪も刈り取られ、短く生えた丸い頭となっていたジャックは、いつもと変わらない房の壁を眺め、ぼんやりとするだけ、正確には時折看守からの暴行を挟んで、だが、な日々を送っていた。

 

 そこに異常がやって来た。

銃声が収容所に響いたのだ。

そんなことは数ヶ月以上収容されていて初めての経験であった。

ここには公開処刑のための人間ばかりが集められているので、看守の好き勝手に殺すことも出来ないはずだった。

つまり、帝国軍にとっての敵が、収容所へ侵入して来た可能性が高かった。

 

「何者だ!」

看守の怒号。

爆音。

「大佐!ここでむやみに発砲しては死刑囚に被害がおよぶ可能性が!」

「くそ!しかも奴は魔導士か..!」

どうやら彼らの敵は魔導士のようだ。

ジャックは、久しぶりに看守からの暴行以外で、生の実感を覚えていた。

壁を眺める日々では忘れてしまいそうになっていた、感情。興奮か、期待か。

更に爆音。

「A収容ブロック陥落!」

「一旦引け!近くの基地に連絡は!?」

声はどんどんと近付いてくる。

「20分はかかると!」

「持ちこたえれるか...?くそっ!」

また爆音。

「...やむを得ん。多少の被害は考慮するな。これ以上放置は出来ん!収容所内にあるあらゆる武器の使用を許可!エリック少佐ら魔導士分隊にも魔法使用を許可する!」

 連続する爆音。銃声。

ジャックは房の扉にある小窓の向こうに何かが飛んで行くのを見た。

どうやら彼らの後ろからも、帝国の敵がやって来ているようだった。

「バカな!後ろにも!?」

「エリック少佐ーー!!!」

更に、彼らの魔導士はやられたようだった。

「くそ!くそ!撃て!とにかく撃て!」

 不味いと思ったジャックは、房の扉とは反対の壁に一気にすり寄り、そのまま頭を守る形で身を屈めた。

彼の懸念は当たり、扉の窓を、流れ弾が突き破り、房内へと飛んでくる。

数十秒程続いた激しい銃撃の後、辺りには静寂が訪れた。

「よし。全員手分けして収容者を解放しろ。それと、書類も抑えておけ」

声。

ジャックは恐る恐る顔を上げ、割れた扉の窓の方へ視線を向ける。

聞き覚えのある声な気がした。

まさか。

彼のその考えは当たっていた。

直ぐに、彼の房の扉が開けられたのだが、その扉を開けた者は、見覚えのある、懐かしい、彼の友人だった。

「アベル...」

開け放たれた扉の前に立っていたのは、白っぽい、スーツと軍服の合の子の様な服に身を包んだ、アベル=オイゲンであった。

「ジャック...見つけた...」

ジャックを見たアベルは、子供の様に嬉しそうな顔で、笑ったのだった。

 

 アベルによって、牢から解き放たれたジャックは房から廊下に出て、目を見張った。

アベルの来たであろう方向の廊下は、床に大量の穴が空き、床という名の瓦礫と化していたのだ。

「なんで床を執拗に?」

思わず口をついて疑問が出る。

「収容されている人達に被害を及ぼす訳にはいかなかったからな。ここは平屋だし、床を狙うのが一番安全だったんだ」

アベルは他の房の扉に手を掛けながらそう説明する。

「そうか。しかし、生きていて良かった..」

「それはこっちの台詞さ。本当に良かった」

アベルはジャックにそう笑い掛けた後、顔を引き締め、別の房の扉を開けていく。

そうして、アベルや仲間達によって全ての房の扉が開かれ、収容されていた者達全てが解放された。

さて、と呟いたアベルは、深呼吸をし、息を深く吸い込む。

 

「帝国に囚われていた諸君!ここに囚われていたということは、皆、帝国に抵抗した勇敢な者達であると思う!そして、処刑を待つのみであった君たちだったが、今はもう違う。我々が解放した!もし、もう抵抗はしたくないと言うのならば、ここから逃がすに止めよう。ここで死を大人しく待つと言うならば、尊重する。しかし、私は諸君から抵抗の意志が、炎が、失われていないことを望む!もしも、抵抗の炎が諸君の中に紡がれているのであれば、我々と共に来てくれ!」

アベルはそこまで一気に、しかし、良く通る声で、はっきりと言い切った。

辺りがざわつきだす。

誰かが言った。

「もし、レジスタンス組織なら、なんであの反乱を生き延びたんだ?」

それを皮切りに、次々と言葉が飛び交い始める。

「あの時戦わなかった奴らなら信用出来ない!」

「どこの国の組織だ?」

そうして、疑問は最後には一点に集約されていった。

「お前達は、何者なんだ!?」

 

 それを聞いたアベルはニヤリと芝居掛かった調子で笑みを浮かべた。

「我々は、"自由連合軍"!全ての抑圧されし人々を解放する組織だ!」

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