アベルの名乗りで、再び場がざわつき始める。
「聞いたことがない」
「連合国軍ではないのか?」
ざわめきを聞いていたアベルは再び口を開いた。
「私達はジェルト=ケッチ率いる連合国軍とは独立している。我々は、オストレオン帝国の現体制、つまりは、"レオン統一国家党"による政権を打倒し、奴らの支配下にある人々を解放するための組織だ」
「全ての人ってのは、帝国人も含んでるのか?」
誰かが言った。
それにアベルは直接答えはしなかった。
「後で詳しく答える。今は、ここから離れよう。直ぐに帝国軍が来るぞ」
その言葉に、解放された者達は、ハッとした表情をした。
この異常事態に、すっかり頭から抜けていたのだろう。
「さあ、出口へのルートは確保済みだ。皆、私の仲間に付いていってくれ」
そうして、アベルの仲間達が解放された人々を誘導していく。2、3人は、脱走に応じずに残ったが、他は殆どがアベルらについて収容所を脱出し、そこから数時間かけて、かなり離れた場所へと行き、脱走した者達は、漸く一時的に腰を落ち着けたのだった。
「さて、では、先程言った通り、我々について詳しく話そう」
アベルは全員にしっかり声が届くよう、少し高くなっている岩に登り、演壇の様にして脱走者達に向き合った。
「まずは、脱走前に聞かれたことだな。全ての人とは、帝国人も含むのか?....答えはイエスだ。当然彼らも解放する。現体制に反対する帝国人もいるのだ。彼らを無視して、全ての人の解放とは言えないからな」
「だが!奴らの大部分は今の帝国を支持してるじゃないか!」
「そうだ!虐殺者と協力しろってのか!?」
「俺達の犠牲でぬくぬくと暮らしてる奴らだぞ!」
不満が噴出する。
アベルは一通りそれらを聞き、少し落ち着いてきたところで、彼らの方へと手を広げ、口を開いた。
「先の反乱で、帝国本土においては、反乱が起きなかった。これによって帝国は、猶予が出来たのだ。帝国にとっての安全地帯。そこに、多くの兵士や兵器を集め、攻勢の準備を整えた。帝国人も、蜂起していれば、帝国は倒せていたのかもしれないのだ」
「俺達は別々の組織だが、全員連絡を取り合ってたわけじゃねえ。好機と見て蜂起したら、タイミングが被っただけだ。帝国人にいる反体制派とやらは、あの好機を見逃す程度の奴らってこったろ?」
「では、聞こう。君たちは、帝国人をどう扱かった?どういう主張をしていた?」
アベルは答えを欲したわけではないので、話を続ける。
「各々、自分達の行いや、所属した組織の行いに、主張に、思うところはあるだろう。そして、だ。君たちの主張や行いを知った、"帝国人"である彼らが、あの時、帝国を破滅させれば、他の民族に復讐されるかもしれない、と恐怖を覚えずにすんだだろうか?今度は帝国人が抑圧されるかもしれない、と考えずにいられただろうか?」
今度は、ざわめきは起きなかった。
「更に言えば、君たちも、偶然の一致で、ほぼ同時多発的な蜂起になったわけだが、もしも、タイミングが大幅にずれていたらどうなっていただろうか?あれだけ大規模になって漸く勝ち目が見えたのだ。個別の反乱程度、簡単に鎮圧されただろう」
否定する者はいない。
「恐らく、皆の組織も、それを分かっていたから、少しでも勝機を高めるべく、帝国が列強と戦争になるまで潜伏していたのだろう。そうして、列強二国と戦争を始めたのを見て、蜂起した。これは、戦略的に正しい。だが、もし、あの時、どこか一つしか蜂起していなかったら?いや、半分程でも蜂起していなかったら?....もっと簡単に滅ぼされていたことだろう。帝国は、強力なのだ」
そこで漸く聴衆の誰かが口を開いた。
「だから帝国人と協力しろってか?」
アベルは瞬時に答える。
「間違えないでくれ。帝国人だけではない、全て、だ。オストレオン帝国に支配されている全ての民族が糾合し、団結して初めて、帝国と戦い得る軍隊となる。私はそう考えている。.....皆が協力すれば、帝国を倒せると、私は信じている。だから、皆、私に協力してはくれないだろうか」
彼はそう、しっかりとだが静かに、言葉を締めくくった。
「.....理想主義的過ぎる」
「..帝国人を、そう簡単には許せない」
ポツリポツリと、先程までの喧騒とは違った、アベルの言葉を咀嚼していく様な呟きが広がって行く。
皆、薄々分かっていたのだ。帝国と戦い、敗北したからこそ。同じ様に、それぞれ民族や宗教ごとに固まって活動したところで、勝ち目など生まれないと。
だからこそ、帝国人と協力すべきという考えも理解は出来るのだ。
理想主義的であろうと、団結の道を選ばねば、帝国を倒すことなど出来ないのだと分かっているから。
しかし、感情は簡単に変えられない。
それに、理想を掲げるだけならば簡単だ。
だが、彼はそれを敢えて掲げた。陳腐な程に簡単で、何処にでも溢れていそうな理想を掲げて見せたのだ。
聴衆の幾らかは、現実的な観点から、若しくは、期待から、恩義から、腹を決めたようだった。
他の者達も、目の前にいる、この青年に、理想を押し通す"力"があるのか、そして、自分達の感情をも上回る"結果"を用意しているのか、という興味を抱きつつあるようだった。
「...あとは、そうだな。皆の判断と一助となれるよう、一つ、面白いことをして見せよう」
コホンと咳払いをし、アベルは両腕をいっぱいに広げる。
「我々"自由連合軍"は、今日、総帥に、宣戦布告をする!」
聴衆は驚いた様子を見せた。
再びざわつきが戻ってくる。
その反応を見たアベルは、ニヤリと笑った。
「皆の期待を裏切らないことを、約束するよ」