Unser Kampf   作:ライト鯖

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対等ならざる交渉

 

 「MdVは、帝国の統帥下に無い。国防軍の奴らは、グラディエーターを贈られてから骨抜きとなってしまっている」

 親衛隊服の男が、薄暗い、正しく密会と言った感じの部屋に集った者達を見渡しながら、言った。

「帝国の法体系が形式上は適用されることにはなっているが、奴らは独自の軍事力も有している」

別の誰かが言う。

「国防軍にも、親衛隊にも斟酌しない武力を有する組織が、我が国の経済を支えているなど、危険極まりない」

「然り。やはり、奴らを国有化すべきなのだ」

「口実が欲しい」

「うむ。口実さえあれば、総帥閣下を説得することも出来るだろう」

口実さえあれば.....。

 

 MdVの本社は、オストレオン帝国の本土から離れた位置の島、ミリー島に置かれている。

その島は、MdV社に、オストレオン帝国が特別に与えた島であり、MdVが管理、統治する実質的な企業独裁国家の様な形を取っていた。

更に、彼らの開発する兵器には設計時点でオストレオン帝国国防軍の紋章を入れることも許可されている。

 そこまで優遇されているのは、オストレオン帝国経済において最も重要な位置を占めていて、その上、帝国軍への計り知れない貢献があってこそである。

その、オストレオン帝国政府も中々頭の上がらない、MdVの最高経営責任者である、ルーク=ストレンベルは、現在、反乱軍に銃口を突き付けられていた。

 

 「さて、ストレンベルCEO 、腹は決まりましたか?」

目の前の若い男に、名を呼ばれたストレンベルは、苦々しげに男を睨み付ける。

「そう睨まないでください。お怒りはもっともですがね」

 

ストレンベルは、決断の為に、もう一度思考を整理しようと、一旦目を閉じることにした。

そうして、先程までの出来事を反芻しながら、脳が導きだす判断を待つことにしたのだった。

 

ー1時間ほど前ー

 

 ストレンベルの執務室に、一つの報せがもたらされた。

「ハルトマン博士が搭乗されている航空機が間もなく到着するそうです」

本来、それは何でもない業務連絡のはずだった。 

30分ほどして、ハルトマンの航空機が、ミリー島の空港へと到着した。

そして、ハルトマンが、助手らしき10人程の白ずくめの男達を伴って、航空機を降り立った。

 

 「珍しいね。ハルトマンくんが私に面会の要求とは」

助手達と別れ、一人執務室に来たハルトマンをストレンベルは、歓迎した。

"グラディエーター"を開発し、帝国軍を喜ばしてくれていたハルトマンを気に入っていたのだ。

 

「ええ。本日はお忙しい中ありがとうございます。助手達の本社見学も許可して頂きまして...」

ハルトマンは、幾分か緊張しているようだった。

「そう緊張するな。それとも、何か緊張せねばならないような、提案でもあるのかな?」

ストレンベルが、冗談めかしてそう言ったのを合図にしたかのように、爆発音が、轟いた。

 

 「なんだ!?」

ストレンベルは、驚き、反射的に、窓の外へと目を向ける。

その瞬間、震えているハルトマンが視界に入ったが、その時の彼にはそれを気に止める余裕はなかった。

「燃えている..?」

窓の外、本社ビルから少し離れた位置にある空港から、火の手が上がっていた。

 

「CEO!」

彼の秘書が、慌てた様子で執務室に駆け込んでくる。

「何があった!」

「ハルトマン博士の航空機が!爆発を!!」

「何!?」

それを聞いて始めて、彼は、ハルトマンへと目を向ける。

ハルトマンは、今にも倒れそうな程に顔を青ざめさせ、身体を震わしていた。

「ハルトマン...?」

 彼が、彼を問い詰めようとしたその時、勢いよく執務室の扉が開け放たれ、5人ほどの白ずくめの男達が、雪崩れ込んで来た。

「手を挙げろ」

拳銃を構えた男達が、ストレンベルに銃口を向ける。

「....ハルトマンの助手、というのは嘘か」

 男達を睨み付けながら、ストレンベルは、ゆっくりと手を挙げていき、丁度、両手が顔の辺りに来た瞬間、両手から魔力を射出した。

「な...!」

 一瞬のことに、銃を構えていた男達は対処出来ず、もろに魔力を食らってしまう。

「全く。殺さない程度に調整するのは大変なのだぞ」

溜め息を付きながら、気絶した男達に向かって、そうストレンベルは言った。

「おい、こいつらを拘束しろ。それと、ハルトマンにも事情聴取を..」

そこまで言った瞬間、彼は、視界の端に人影を捉えた。

 

「...!」

彼に向かってきた影に対して反射的に防御体勢を取る。

「おっと。防がれるとはね」

普通の人間には出せない様なスピード。

魔導士か...。

瞬時にそう分析したストレンベルは、距離を取ろうと、身体を動かす。

それに対応して、影、いや、既に姿は見えている、黒髪の若い男、が床を蹴りあげ、ストレンベルに迫る。

ストレンベルが、威力を絞った魔力を放つと、男も、それに合わせた魔力を放ち、相殺した。

「くそ...!」

 結果的に部屋の端に追い詰められる形となってしまったストレンベルは、一か八か、正面突破を狙い、足を蹴り上げ、男へ殴りかかる。

だが、男にそれを躱され、逆にストレンベルが床に押さえ付けられる格好となってしまったのだった。

「が...」

「まさか、帝国一の大企業の経営責任者が、魔導士で、しかも熟練した技術を持っているとは思いもしませんでしたよ」

男は、本当に感嘆した声で、そう言った。

 その時になって始めて、ストレンベルは、秘書が、気絶させられていることに気が付いた。

男が、部屋に飛び込んで直ぐに気絶させていたのだ。

「あ、名乗るのが遅れましたね。私、自由連合軍の、アベル=オイゲンです。以後お見知りおきを」

アベルの名乗りには反応せず、ストレンベルは怒気の籠った声を出す。

 

「貴様らを案内していた者達はどうした?殺したのか?」

「社員思いですね。ご安心を、ハルトマンの航空機を爆破し、彼らの注目を集め、混乱を招くことで、隙を作っただけですよ。さすが、帝国一の大企業なだけあり、混乱状態に陥っても、数人の武装警備員が近くに残ってはいましたが、彼らには気絶して頂きました。殺しはしていません」

「本当だな?」

 ストレンベルの念押しに、アベルは笑って答える。

「もし、これが嘘なら、そこに倒れてる貴方の秘書は、跡形も残っていませんよ」

「........信じよう」

 ふうと溜め息を付き、ストレンベルが再び口を開こうとすると、慌ただしい足音が、執務室へと入ってきた。

「アベルさん!すいません遅れました。中々手強い警備員が居まして、漸く撒けたのです」

「殺してないよな?」

アベルに尋ねられ、その男は何度も頷いた。

「勿論ですよ。だから遅れたのです」

 「そうか。なら、そこに転がってる銃を取ってくれ、素手で脅しているより、銃を突き付けていた方が視覚的に手っ取り早い脅しになる」

「はい」

 銃を手渡されたアベルは、ストレンベルに突き付け、彼を立たせた。

「申し訳ない。ストレンベルCEO。しかし、こうでもせねば、我々の話など聞いてくれないでしょうから」

「反乱軍とはさすがに取引出来んからな」

「ああ。我々のことはご存知でしたか。では、手っ取り早い。改めまして、ストレンベルCEO。私は、自由連合軍司令、アベル=オイゲンです。本日は、御社の有する、飛空船を頂戴しに来ました」

 アベルの言葉に、ストレンベルは眉を潜める。

「なんだと..?」

「飛空船ですよ。CEO」

「何故、それを知っている。ハルトマンも知らない筈だ。あれは、書類上処分されたことにもなっている」

まだ、部屋で縮こまっていたハルトマンは、自身の存在が忘れられていなかったことを知り、ビクリと肩を震わせた。

 

「伝手がありましてね」

「ネズミか...」

ストレンベルが苦々しげに吐き捨てる言葉を聞き流し、アベルは笑って言った。

「NdV社と親衛隊の対立についても、存じています」

「!!」

ストレンベルの頬に、冷たい汗が伝う。

「もし、こんな醜聞が漏れたらどうなるでしょう。MdVにいた裏切り者が、反乱軍を手引きした。そして、反乱軍にCEOが取り押さえられた。考えただけでも、面白いことになりそうだ」

「....脅しのつもりか..?」

「さあ。どう受け取られても自由です。しかし、我々としては、貴方方と交渉したいだけなのです」

「銃を突き付けながら言うセリフかね?」

「では、反乱軍と対等に交渉してくれるのですかね?」

「交渉するもしないも我々に決定権があることこそ、対等な交渉と言うべきだろう」

ストレンベルの反論に、アベルは頷く。

「ごもっとも。しかし、我々は何としても交渉のテーブルには付きたかった。その点だけはお題目を捨てざるを得ませんでした」

「はあ。まあ、いい。だが、あの飛空船は失敗作だ。量産は無理だと判断された代物。何故、欲しがる?」

 結局折れたストレンベルに、アベルはニッコリと笑った。

「量産など必要ありません。我々にとっては、あの一機があれば良いのです。どうせ量産体制などありませんし」

「で、断れば、この醜聞が外に漏れる、と」

そして、奴は口にこそ出していないが、それなりに強力な魔導士を10名近く連れてきている以上、私が上手くここを逃れて社員に抵抗を命じたりなどすれば、彼らが本社で暴れることは間違いないだろう。そうなれば大損害は避けられない上、帝国政府から調査されることも確実、というわけか。

ストレンベルは、自身が八方ふさがりな状況に置かれていることを理解した。

 

 「お話が早くて助かります」

「だが、素直に引き渡した後で、帝国の内紛を狙うために、結局この事を外に漏らすのではないかね?」

「それはしない、とお約束しましょう」

「信じる根拠は?」

「まず、出来る限り帝国に対しては我々が飛空船を有した事実を秘匿したいこと。もう一つは、MdVが親衛隊に吸収されようと、帝国の戦力が落ちるわけではないので、メリットが特にないこと。そして、さっきも言った通り、私は、出来る限り対等に、交渉したいのです。契約を破る真似はしません」

「最後の理由は、根拠と言うには薄いな」

ストレンベルは、天井を仰ぎ見た。

実際問題、今、MdVを滅ぼすつもりなら、わざわざ社員達を殺さず生かす理由もないだろう。

そう考えを纏めていく。

腹立たしいが、書類上処分したことにして、自分自身の趣味で保存していたモノを譲り渡せば解決するのならば、そうするべきなのだろう。ああ、腹が立つ。すっかりしてやられてしまった。

ストレンベルは、ふつふつと沸き上がってくる怒りの気持ちを抑えながら、ゆっくりとアベルに向き直った。

 

「さて、ストレンベルCEO 、腹は決まりましたか?」

 

 ストレンベルは、ゆっくりと目を開けた。

回想の終わりと共に、決断を下す。

あれを保存し続けるのも予算がいる。

 だが、あれを壊すのも嫌だ。あれは私の最高傑作。誰かに使われるのならその方が良いのかもしれない。

それに断る訳にはいかない。

断れば会社は終わるし、今この場で自分の命も危うくなる。

様々な、自分を納得させるための言い訳を脳内で並べながら、彼は口を開くのだった。

 

「分かった。飛空船を譲ろう」

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