「君はどうして奴らに協力しているんだ?」
ストレンベルは、アベルと、目を覚ました彼の部下達に拘束されながら、飛空船の保管場所へ向かう道すがら、ハルトマンにそう尋ねた。
「...家族を人質に取られていまして」
ハルトマンは、嘘をついた。
アベルらに握られた弱味を密告されれば、家族も危険に晒すことに違いはないから、完全な嘘と言うわけでもないが。
「そうか...」
ストレンベルは、それ以上は何も問わず、黙々と、目的地へと歩いていくだけだった。
「ここだ」
到着したのは、入り口に、立ち入り禁止とだけ書かれた巨大な格納庫であった。
「思ったよりも堂々と保存してたんですね」
アベルが、格納庫を見上げながら言うと、ストレンベルは苦笑した。
「飛空船なんて保管にも大量にスペースを使うからな。老朽化ということにして、格納庫を丸々占拠するしかなかったんだ」
「こいつは、普通の飛行船のようにも使えはするが、速度は圧倒的に遅い。搭載してある魔力兵器やエンジンの威力を発揮しなければ、まともな移動手段ですらないが、それを使うとなると、平均的な魔導士が30人は必要となってくる。君達に、それだけの魔導士がいるのかね?」
「問題ありません。30人程度ならいますし、何より、私が1人で10人分以上の魔力を持っていますから」
「高魔力保持者だったか。はあ。では、引き渡すとしよう。社員達は社屋内に避難させているな?」
ストレンベルは、秘書にそう確認を入れ、秘書が頷いたのを確認し、格納庫の扉を開けるボタンを押した。
「これが..」
アベルはそれを目にした時、この飛空船が、飛行船ではなく、何故、飛空船という聞いたことのない名称をしているのか、心底で理解した。
巨大で、武骨なデザイン。
飛行船と呼ばれるものの何倍も巨大な船体。
その威容は、見るものを圧倒させる迫力があった。
正しく、空を飛ぶ船。
アベルらにとっては憎いはずのオストレオン帝国軍の紋章も、この船体によって、威厳を放っているように感じられた。
「そう、これが"飛空船 Volks"だ」
「力..」
アベルの部下の一人がそう呟く。
「何処までも力強く、我が社の威厳を伝える様に飛行する、そんな飛空船にしたかったのだ」
ストレンベルは、自慢気に鼻を鳴らした。
「で、こいつは直ぐにでも動くのか?」
飛空船の名前には興味がないと言わんばかりに、アベルがストレンベルに尋ねる。
「ああ、何人かの部下に保守させてきたからな。問題なく動くはずだ」
「では、とっとと頂いていくとするよ」
ヒラヒラと手を振りながら、アベルは飛空船へと近づく。
「それにしてもでかいな...1000人くらいなら十分乗れそうだ」
「そいつは、魔力供給量次第では、1000人だろうと乗せれるし、小型機だって積める。グラディエーターもな。ただ、魔力がなければ、500人、つまり、3000Kg程度が限界だ」
「それでも、凄まじいな..」
ストレンベルは、相手が反乱組織であることも忘れて、滔々と飛空船の性能について語る。
もう、永久に使われることはないと、処分をしなくてはならないと、半ば諦めていた彼の自信作が、日の目を見ていることに、嬉しさを感じていたのだ。
そうして、暫く説明を受けた後、アベルらは、飛空船に乗り込んだ。
しっかりと人質代わりにハルトマンを連れて。
更に暫く経って、発進準備が整うと、アベルは、ゴンドラの入り口から、顔を出し、ストレンベルに礼をした。
「感謝します。ストレンベルCEO。有効に使わせて貰いますよ」
ストレンベルは、微妙な視線をアベルに送るのみで、何も返事はしなかった。
「あ、忘れてた。お返ししますね。彼を」
わざとらしく言ったアベルは、既に地面から離れ始めたゴンドラから、ハルトマンを追い出した。
「痛!」
「すみませんね。ハルトマン博士。しかし、もう貴方に用はない。今後、お邪魔することはありませんよ」
アベルはそう言い残し、入り口の扉を完全に閉めるのだった。
「さて、どうだ?」
飛行船や航空機の操縦経験がある者を選抜して連れてきてはいたが、普通の飛行船とは比べ物にならない大きさを誇るVolks号の操縦が出来るのかとアベルは、少し不安になっていた。
「問題ないです。わりあい簡単ですね」
「そうですね。操縦しやすいように作ったのでしょう」
それを聞いて、アベルは胸を撫で下ろす。
「そうか。なら、とっととここからおさらばするためにも、魔力エンジンを試してみないとな」
「了解しました」
操縦者達が、先程ストレンベルから軽く受けた説明通り、幾つかの機器を操作していく。
それを背にし、アベルは、魔力を船体に供給する機械の一つに手を突っ込んだ。
手に機械を装着し、そこに魔力を放つことで、船体に魔力エネルギーが行き渡る仕組みなのだ。
「それじゃ。行くぞ」
「いつでも大丈夫です」
「よし。3..2..1..GO!」
掛け声と共に、アベルは、機械に接続した手から思い切り魔力を射出した。
そこから数秒遅れ、船体が大きく揺れたかと思うと、窓の外に見えていた景色が、一気に駆け抜け始めた。
「上手くいったか」
アベルは再び胸を撫で下ろす。
しかし、10分と経たずに船体は失速を始める。
「なるほど。継続的に魔力を送らないといけないわけか」
そう言いながら、先程の機械に目をやったアベルは、近くに何やらメーターがあることに気が付いた。
「もしかして」
試しに軽く魔力を送る。
すると、僅かにメーターが上昇値を示した。
「このメーター見て調整しろってことね」
再び思い切り魔力を送り込んだアベルは、再び操縦席の方へと戻る。
丁度、見張りを別の者と交代した部下が戻ってきていた。
「お疲れ」
「お疲れ様です」
挨拶をした部下は、思い出したようにこう言った。
「そうだ。アベルさん。こいつの名前、Volksのままにしておくんですか?折角だし、新しい名前を付けるとか」
「俺も考えていたとこだ。Volksも悪くないが、我々の方針にあった名前にしたい」
「Gleichheit(平等)とかですかね」
「それもいいが、私は、Freiheit(自由)にしたいと思っている」
「確かに、自由連合軍ですものね」
「そ。それに、平等よりも自由を求めるという方が、我々の目的に近いと思うんだ」
なるほど。と部下が頷く。
「うん。こいつは今日からFreiheitだ。Freiheit号。こいつの力も使って、我々は自由を、オストレオン帝国から取り戻す」
自信に溢れた顔で、アベルは、そう、決意を宣するのだった。