ーヤゲノ総督府領 ハルゲル―
オストレオン帝国がノルテンブルクを併合してから一月程経過したある日のこと。
「帝国臣民以外の住民は広場に集合しろ!従わない者は極刑である!」
ハルゲルの街では、総帥親衛隊の尊大な声が響いていた。
「早くしろ!」
黒服の親衛隊員らに急かされ、ハルゲルに住む多くの住民は街の広場に集められ、列に並ばされる。
「何だ、一体何が起きるんだ..?」
大きな見慣れないトラックが2台並んでいることもあり、不安そうな人々を他所に、親衛隊らは広場に並んだ人々をどういう基準で選んでいるのか、無造作に列から引き出し、広場に用意されたトラックに乗せていった。
やがて、2台が一杯になると、トラックは街外れにある木々に囲まれた大きな公園へと向かった。
そこで、人々は降ろされ、再び何の説明もないまま、一例に並ばされる。
「総督閣下がご到着されました」
数分ほど経過した頃、一人の隊員がその場を仕切っていた壮年の隊員に小走りで伝えに来た。
「全員私語を止めろ!これより総督閣下が来られる。総督閣下のご命令には必ず従うように」
壮年の隊員は一段と声を張り上げ、それまでひそひそと周囲の人間と声を交わしていた住民らを黙らせる。
静まり返った公園にキャタピラの音を響かせて、カーキ色の軍服に、通信用らしきヘッドフォンという出で立ちで、砲塔から上半身を出し、居丈高に胸を張った壮年の男を載せた戦車が住民らの前に砲身を向けた状態で止まった。
「ヤゲノ総督府総督、ルドルフ=ゲーベルである。貴様らにはレジスタンスの犯した罪を贖って貰う」
総督、ルドルフは戦車から飛び出すように出て、戦車の砲塔にあるハッチを閉め、その両端辺りに手をつきながら、砲塔を演説台のようにして、住民らに言い放つ。
並ばされた者達は、その言葉で自分達に降りかかる出来事を悟った。
「ま、待ってください!」
「私達は何もしていません!!」
「今まで帝国に反抗せず、慎ましく暮らしてきました!」
人々は口々に叫び、どうにか自分達に訪れるであろう最悪の事態を回避しようとしていた。
中には、逃げ出そうとする者もいたが、それらの努力は虚しいものとなる。
住民らの喧騒を親衛隊らに銃口を向けさせ、逃げ出すことのないように威圧し、抑えたたルドルフは近くにいた親衛隊に言った。
「この君達に卸されたという試作機、中々良いじゃあないか。試し撃ちに丁度良いだろう」
彼はヘッドフォンを耳にかけ直す。
「撃て」
その平坦な一声で戦車に取り付けられていた機関銃が火を吹き始めた。
銃声と共に、住民らの悲鳴が辺りに響き渡る。
悲鳴と銃声の二重奏は一分も経たぬ内に徐々に悲鳴が消えて行き、銃声の独奏となり、その十数秒後には静寂が戻ってきた。
「終わったか」
その様子を暇そうに眺めていたルドルフはつまらなさそうに言う。
「さて、次だ。広場に戻るぞ」
彼は、死体を片付ける為の人員を一部そこに残し、親衛隊らと共に街の広場へと戻った。
その頃には帝国人も含め、街にいた全ての人間が広場やその周辺に集められていた。
「諸君。我々はレジスタンスの攻撃によって日々、大きな被害を受けている。そのせいで多くの帝国人が犠牲になった。にも関わらず、劣等民族、燃料奴隷から構成されたレジスタンス共は何ら対価を支払っていない。故に、我々は決めた。レジスタンス共が我々帝国人一人を殺すにつけ、奴らが同胞と宣う諸君らを3人ずつ殺すと」
拡声器を用い、ルドルフは集められた人々に宣言する。
広場はにわかにざわつき、特にヤゲノ人の住民は恐慌状態に陥りかけた。
「落ち着け」
冷たい声で一括し、彼は続ける。
「とりあえず今までの分の報復は終わった。今のところ諸君らを殺すことはない」
住民らは先ほど街外れから聞こえてきていた銃声から何が起きたのかを察していたが、今やそれは疑いようのない事実となっていた。
連行された人々はただ無作為に選ばれ、無意味に殺されたのだと。
「ヤゲノ人諸君、君たち劣等民族など全滅しようと我々は一向に構わんのだ。もし、自分達の命を守りたいと思うならば、レジスタンスの情報を積極的に提供しろ。帝国に従え。何もしない、は反抗と同じだ。レジスタンスを恨め、攻撃しろ。奴らが壊滅すれば、貴様らは助かるのだ」
「帝国人諸君!君たちは安心したまえ!反逆者共が何の対価も払わず、君たちに攻撃を加えられる時期は終わった!」
ルドルフはそう演技がかった調子で拳を突き上げる。
すると、広場の幾つかの場所から「フュラ・ライヒ!(帝国万歳!)」と声が上がり始めた。
こういった帝国が征服した土地に暮らす帝国人はおおよそ帝国に従順であり、熱狂的支持者であることが多い、その為、総督や親衛隊が仕込みをせずとも自然に、彼らは歓喜の声を上げるのだ。
やがて、広場にいたヤゲノ人も親衛隊や帝国人に目を付けられることを恐れ、帝国万歳を叫び出すのだった。
この事件は不自然な程スピーディーに総督府領中に噂となって広まった。
人々は恐怖に陥り、実際にレジスタンスに関する情報提供が増加するという事象も起きた。
当然、散発的な蜂起もあったが、それらは帝国軍に直ぐに鎮圧されてしまう。
そういった蜂起の後も親衛隊は報復と称して、無作為に集落で虐殺を繰り広げた。
「そろそろ、次のフェーズに移れるな」
そういった幾つもの報告を受けたルドルフは、執務室で、満足気な笑みを浮かべ、独り言ちるのだった。
7話です。
本日はもしかしたらもう一話夜辺りに投稿するかもしれません