「本当に信頼出来るのか?」
ヴェルナー率いる民主レオニカが実質的に支配下に置いているリベラシュタットで、アベルら自由連合軍と合流した組織や協力関係を築いている組織の代表が集う会議が行われていた。
アベルが、レオン帝国軍少将であるヨアヒム=ドーペルトから提案された協力関係について討議するために召集をかけたのだ。
当然、懐疑の声が多く挙がる。
「信頼出来る、というのが、仲間として、という意味であるならば、否です」
アベルは正直に答える。
「なら何故、討議を?」
ヴェルナーが暴発しそうな空気を鎮めるように、冷静な口調で、そう尋ねた。
「レオン帝国に対する叛意を持っている、という点においては信頼出来るからです。彼らは、間違いなく現レオンの敵ではあります」
「ほう?」
ヴェルナーは興味深そうに先を促した。
「彼らの目的は、ヨアヒム曰く、オストレオン帝国の維持、だそうです」
「それは、君たちの独立を阻むということでは?」
ヴェルナーが更に詰める。
「いえ、それなら私達と協力することはデメリットになるでしょう。彼の言う維持、とは、恐らく、開戦前のオストレオン帝国領を維持し、オストレオンという国を存続させることです」
「それならば逆に今の帝国を裏切るメリットはなんだ?」
ヴェルナーが、冷静な態度で、参加者達の代弁者として振る舞うことで、一触即発であった会議の空気を鎮めつつ、話を進めていく。
「彼らは、今のままでは、レオン帝国は滅ぶと確信しているようです。ジェルト=ケッチだけが相手ならともかく、アグロムノイ連邦とも開戦した今、帝国の先行きに破滅を感じとった、といったところでしょう」
それと、とアベルは付け足す。
「ヨアヒムは、彼個人の恨みもありそうでした。曰く、親友が粛清され、自身は左遷された、と」
「ふうむ」
ヴェルナーは少し考えるそぶりを見せた後、代表達に問いかけるように口を開いた。
「提携、ぐらいならば引き入れるのも吝かではないのでは?」
「...ですが、帝国軍ですよ...?」
ある代表がそう懸念を表明する。
「危険もありますが、帝国内部の、左遷されたとは言え高官の率いる反乱部隊が仲間となることは、メリットも大きいと考えています」
アベルは、そう答えた。
「一先ず、信用出来るか確かめる為にも、接触は続けるべきだろう」
ヴェルナーが、そう無難に纏め、一旦会議は終了の運びとなった。
「アベル。どうするつもりなんだ?」
会議後、ヴェルナーは、アベルと二人になるなり、そう切り出した。
「私は、組むべきだと思っていますよ。見ている景色は違いますが、一先ずの目的は同じです。提携、お互い深入りしない形での連携を探るべきだと思っています」
「まあ、それには賛成だが、他の面子を纏めるにはもう一押し必要だぞ」
「分かっています。ですから、一つ考えていることがあるのです」
アベルはそう、自信ありげな顔で言って見せるのだった。
二日後
ーレオン帝国 帝都 レオンスブルク 国防省庁舎ー
ヨアヒム=ドーペルトは、自由連合軍から届いた暗号文を解読し終えると、指で机を叩きながら、苦笑いをした。
「足下を見やがって...」
そこには、査閲本部長として、各地の基地を回って手に入れた情報を送ることを条件に、協力関係の構築を行う、という旨の文言が書かれていたのだ。
「やってくれる...」
踏み絵。ヨアヒムは、彼らが自分を信用に足るか否かを見定めようとしている意図に気付き、苛立ちを隠せなかった。
既に、ヨアヒムは引き返せぬところまで来ている。
故に、現状、彼の手勢よりも規模の巨大な自由連合軍には、下手に出ざるを得なかった。
恐らく、そういったところまで見透かされた上でのことだろう。
だからこそ、ヨアヒムはやり場のない苛立ちを覚えたのだ。
非帝国人に信用されるなど並大抵のことでは出来ない。
しかし、戦略上、彼らとの協力は必須。
理性では分かっていたが、帝国軍の高官として長年生きてきた彼にとっては、自身が支配していた側の人間に頭を下げねばならないことが、屈辱だったのだ。
「だが...」
やるしかない。ヨアヒムは苛立つ気持ちを鎮め、最終的に、そう決断するしかなかった。
三ヶ月後
ーレオン帝国 リベラシュタットー
再び集められた代表達に、アベルは、ヨアヒムから送られてきた書類の束を配り、彼らを見渡すようにしながら、話し始めた。
「ヨアヒムに、査閲によって手に入れた情報を送る用に要請したところ、過去のものも含めて、236件の情報が送られてきました」
「嘘かもしれんだろう」
誰かの野次。
「勿論、その可能性はあります。ですので、民主レオニカの情報網と、群狼の情報網を継承した我々自由連合軍が共同して調査を行い、出来る限りの裏取りを行いました。書類自体は一月程で送られてきたのですが、ヨアヒムが信用出来るかが、主目的なので、裏取りに時間をかけましてね」
「それで?どうだったんだ?」
「真偽が確認出来た139件の内、122件が我々の情報と一致。残り17件も、時期等タイミングによる誤差の範囲と言える違いしかありませんでした」
アベルの報告に、代表達は意外そうな声を挙げる。
「それだけ正しいのなら、信用できるのかもしれんな」
「ヨアヒムとやらも、本気の様だということは伝わった」
前回よりは、好意的な見方が多くなっていた。
「書類の中身を見ていただければ分かりますが、かなり機密性の高いものもあります」
「そのようだな」
ヴェルナーが頷き、立ち上がる。
アベルが民族横断評議会の議長を務めているのだが、今回は提案者の立場であるため、副議長のヴェルナーが議長役を勤めているのだ。
「信用という点に置いては、ある程度のものを示してくれたのではないだろうか」
反対する者はいない。
「我々が裏取り出来ない様な情報を入手出来ることも、分かった。故に、ヨアヒムら、反総帥帝国軍一派との提携を行うべきかどうかの採決を行いたい」
静寂。
「採決への反対はないものと見なす」
ヴェルナーは最後に、室内を一瞥し、宣言する。
「それでは、ただいまから投票を行う。手持ちの投票用紙に、賛成、反対を記入し、議長席に設置された投票箱に、投じるように。よく考えて投票してくれ」
そうして、30分程経ち、全員の投票が終わった。
「それでは、集計を開始する」
そこから慎重に、幾つかの組織から無作為に選ばれた代表の随行者が、票を数えていく。
15分程で集計は終わり、結果がヴェルナーに耳打ちされる。
「では、結果を発表する」
一呼吸置き、ヴェルナーは結果を皆に告げた。
「賛成8、反対4、棄権1」
「賛成多数により、ヨアヒム派との提携を、可決する」