「どういうことだ?」
トイフル=シュナイダー レオン帝国総帥は、親衛隊の司令長官であるハインリヒ=ホフマンを呼び出し、詰問していた。
「我が国の領土を取り戻しました!」
悪びれた様子もなく、ホフマンが報告する様に、シュナイダーはつい怯んでしまう。
「貴様、自身のしたことを分かっていないのか?」
「総帥閣下のご期待にそうべく、我が帝国の威容を知らしめて参りました」
ホフマンの目が、虚ろに泳いでいることに、シュナイダーは気付いた。
「今までの失態を取り戻すことが出来る成果を総帥閣下にお見せしようと秘密裏に今作戦を実施し...」
「もういい!!」
シュナイダーは、怒鳴り、ホフマンの言葉を遮った。
そうなって漸く、ホフマンの顔色に変化が生まれた。
「貴様の勝手で、我々はカルメリア連合とも戦争になったのだぞ」
シュナイダーは、自身の叱責が招いた事態であることを察していた。自身の権力基盤である親衛隊との関係悪化を避ける為に、甘やかし続けてきたことで彼らは増長し、結果、失態に対する叱責に弱くなっていたのだろう。
そして、暴走した。
だが、余りにも極端すぎる。
シュナイダーは頭を抱えたくなる衝動を抑えながら、ホフマンの反応を見る。
「ですが、あそこは我らの領土で...」
こいつはもうダメだな。
シュナイダーはもうホフマンを見放していた。
今更、親衛隊の独断でした撤退するので許してください。なんて真似をして、カルメリアが万が一にもそれを受け入れたとして、この事実を秘密にしておいてくれるわけがない。私の権威の失墜がここぞとばかりに報じられるだろう。もう、止めることなど出来ない。
「くそっ!」
机を叩き、シュナイダーはホフマンを睨む。
「貴様は、解任だ。無断で軍事行動を起こし、あまつさえ、他国に攻撃を仕掛ける、クーデターと言えるだろう」
「お、お待ちください!私は閣下のご期待に沿おうと!」
「最低限の常識すら無くなったのか?まさか、貴様がここまでの無能だとは思ってもいなかったよ」
幸い、幹部達の私生活は秘密警察に徹底的に調べさせ、弱味は幾つも把握している。
表向きの理由など幾らでも作れる。
とにかく、カルメリア連合への対処も考えなくては。
シュナイダーは、思考を切り替えることにした。既にホフマンのことは、頭から追い出す作業に入っていた。
「衛兵。この男は裏切り者だ。逮捕しろ」
最後にそう言い残し、シュナイダーは自身の執務室へと戻るのだった。
その日、帝国は熱狂に包まれた。
真実を知らない国民は、総帥の指示によってカルメリアに対する奇襲を成功させ、旧領を奪還したと知らされたからだ。
アグロムノイとの戦争も連勝続きであり、時間こそかかっているが勝利を疑う者はそう多くはなかったこともある。
ジェルト=ケッチは本土に引きこもり、レオンに敵なし、そう驕り高ぶった国民感情は、カルメリアも直ぐに講和を求めるだろうと考えたのだ。
そうして、総帥は更に後へと引けなくなった。
「やはり、あの兵器を完成させるしかない」
総帥は、ハルトマンに開発させている兵器に、全ての希望を託すしかなくなってしまったのだった。
ーレオン帝国 リベラシュタットー
「まじか?」
アベルとヴェルナーは、報告を聞くと、そう素の表情と声で、驚いた。
「カルメリア連合とも戦争を?」
「今?何故だ?何があったんだ?カルメリアからの宣戦か?」
「いえ、親衛隊がイーストアイランドを襲撃し、占領した結果、とのことです」
「訳が分からん。総帥はついに狂ったのか」
「元々狂ってはいるでしょう」
ヴェルナーのコメントに、アベルがそう指摘する。
「確かに」
お互い、少し落ち着いてきたところで、報告者に詳しく話を聞いていく。
「親衛隊の暴走でしょうか」
「かもしれんな」
二人は、報告者を下がらせ、暫く思考した後、どちらからともなく言った。
「今が好機では?」
「同じ結論に至ったようですね」
「まあ、普通に考えれば当然だな」
ついに、三つの列強と戦争状態に陥ったレオン帝国。
カルメリア連合が本格的に準備を整えて、レオンに攻撃を始めれば、一気に戦線は動くだろう。
つまり、もう間もなく、レオン帝国の敗北が始まるだろうことは想像に難くない。
「半年、いや、3ヶ月以内には蜂起の準備を整えたいですね」
「だな。恐らくカルメリアの本格的な戦闘が始まるのもその辺りだろう」
「そこで我々も参戦して、帝国を一気に追い込む」
彼らにとっては、突如ふってわいた幸運。
帝国のミス。いや自滅行為によって、大きな好機が到来した。
こうして、全ての歯車は動き出した。
自由連合軍は、この好機を決して逃さないだろう。
大反乱にて一度は敗北したアベル達にとっては、二度目のリベンジ。
ヴェルナーら民主レオニカにとっては10年越しの好機。
驕り昂った獅子を引きずり下ろすために、列強の言いなりにならない独立した祖国を取り戻すために、彼らは立ち上がる。
親衛隊を重用し、国防軍と対立。国民を扇動して支持を集める。しかし、親衛隊との関係にもヒビを入れてしまい、彼らの暴走を許した。非帝国人を奴隷として扱い、彼らの反発と、反乱を誘発した。
結果的に、レオン帝国は、総帥は、彼の起こした行動や政策が、自らの首を絞めることとなったのだ。
演説力とハッタリ、演技力には長けている。夢は大きく、器は小さい。
そんな男によって築かれた獅子を冠するこの帝国に、ふさわしい結果が今、訪れようとしているのだった。