帝暦1933年11月16日
カルメリア連合がレオン帝国親衛隊の暴走によって参戦してから二月、カルメリア連合はこの間を戦争準備に費やしてきたため、殆ど戦闘は起こらなかった。
だが、ついに、イーストアイランドの奪還に向けて、カルメリア海軍が動き出す。
レオン帝国に残存する海軍の何倍もの規模で、彼らは屈辱を晴らさんとレオン帝国に占領されたイーストアイランドへ向かった。
そうして、海上では録な抵抗も受けぬままカルメリア連合軍は、イーストアイランドに上陸。
現地にいた親衛隊と戦闘状態に入った。
レオン帝国は劣勢でありながらも、粘り強い抵抗を見せ、イーストアイランドは地獄の様な戦場へと様変わりしていった。
そんな戦争の趨勢が一気にレオン劣勢へと傾きつつある頃に、帝国内のある街では、異変が起きていた。
リベラシュタット、エルンスト=ヴェルナーが治める街からの連絡が途絶えたのだ。
全ての行政区画に毎日帝都へ報告を行うことが義務付けられているのだが、その連絡がその日は無かったのだ。
しかし、前日に、嵐が発生していたことと、リベラシュタットからの使者が、無線機の故障を報告してきたため、その日は特段問題視されなかった。
そして、翌日には、リベラシュタット周辺の街からも連絡が途絶えた。
この時には、レオン帝国も異変を察知し、付近の軍基地に警戒態勢をとらせたのだった。
ーレオン帝国 リベラシュタットー
「始まったな」
「ええ。グラディエーターも十数機程ですが手に入りましたし、後は帝国軍が態勢を立て直すまでにどこまでいけるかですね」
ヴェルナーとアベルは、庁舎で、周辺町村奪取の報を聞き、最後の調整を行っていた。
「帝国がカルメリアとも戦争に突入し、カルメリアが本格的に参戦した。これで、帝国に勝ちの目はほぼ無くなったと見ていいだろう」
「ですね。そうなるとヨアヒムの軍閥は間違いなく帝国、総帥を見捨てるでしょう」
「ああ。事前の取り決め通り、例の合図の後、北東の地方都市ヴェレミアで蜂起するそうだ」
「それまでに此方で出来るだけ戦力を引き付けねばなりませんね」
「うん。そして、他国に我々の領土が奪われる前に、奪取せねばならん」
「ですね。それでは、私は飛空船での撹乱に出ます」
「頼んだ。連絡や地上軍の指揮は任せたまえ」
そう、自由連合軍は、ついに蜂起したのだ。
この好機を逃すまいと。
カルメリア、アグロムノイ、ジェルト=ケッチ、3つの大国を相手に戦うレオン帝国の劣勢は明らかであった。
カルメリアの本格介入によって、アグロムノイ戦線の雲行きも怪しくなっている。
その上海上戦力は壊滅し、ジェルト=ケッチによる上陸を常に警戒せねばならなくなったため、沿岸にかなりの戦力が固定されてしまった。
総帥に反感を抱く国防軍グループ、ヨアヒムの軍閥は、これによって、完全に総帥政府を見放した。
故に、アベルらは蜂起したのだ。
今度こそ、レオン帝国を打倒せんと。
「そうだ。アベル」
部屋を出る直前、ヴェルナーに呼び止められ、アベルは振り返る。
「ヨアヒムの部下のだれだっけか?...確か、ルーカスとかいったかな?の件はどうなった?」
「恋人と無事再会させましたよ。それはもう、感動的な再会でした」
わざとらしくアベルは笑って見せる。
「恋人は怒らなかったのかね?帝国軍として働き続けるルーカスを見て」
「先に此方で多少脚色してルーカスの事を伝えてあったので問題ありませんでしたよ。破局されては此方としても困りましたしね」
「なるほど。では、ルーカスは我々の側になったわけだね?」
「ええ。利害の一致というやつです。良い仲間となってくれるでしょう。彼にとっては、ヨアヒムの作る国よりも、我々の作る国の方が、都合が良いですからね。それでは、また」
ニヤリと笑って部屋を去っていくアベルを見送ったヴェルナーは、壁にかけられた地図を見て、呟いた。
「どんな手を使ってでも、成功させてやる」
たった2日で、リベラシュタットのある州の7割が占拠され、いくつかの軍基地や親衛隊駐屯地が陥落したレオン帝国であったが、どうにか戦力をかき集め、反乱軍にぶつけた。しかし、それらは潰走することとなる。
「Freiheitの欠点は、私か何人かの強力な魔力保持者が拘束されることだな」
アベルは、飛空船に魔力を供給しながら、冗談めかして言う。
「ですが、その価値はあります」
乗組員が笑いながら返し、アベルも頷く。
「さて、そろそろ敵さんが来る頃だ。準備を頼むよ」
「来ました!親衛隊です!歩兵1000人規模、戦車も何台か来ています」
「よし。いくぞ」
報告を聞いたアベルは、ぐっと力を腕に込める。
「魔力砲、照準良し!」
「発射!」
アベルが魔力を送り、それに会わせて、発射レバーが引かれる。
巨大な爆音と共に、前方に土煙がもうもうと立ち込める。
煙が晴れてくると、そこには、戦車の残骸や、親衛隊員達の変わり果てた姿があるのみとなった。
「グラディエーターの数が少ない以上、この飛空船が撹乱に最適なんだ。まだまだいくぞ!」
「はっ!」
アベルと乗組員達は、続々と集いつつある帝国軍戦力に打撃を与えつつ、戦線を混乱させるべく、更に先へと進むのだった。
ーレオン帝国 アーネンブルクー
自由連合軍が直近に陥落させたこの街は、前線の補給基地として設定され、占領のために幾らかの兵力が残されていた。
「ジャックさん。戦況はどうですか?」
占領地の治安維持や占領地にある行政機構との交渉を任されているエミリア=ギャズダが、周辺の前線部隊を率いるジャック=コワルスキーに尋ねた。
「まあまあってところだ。優勢ではあるし、予定通りの進軍スピードだが、それ以上でも以下でもない」
「予定はあくまで最低ライン、とアベルは言っていました。このまま帝国軍に援軍が来れば、劣勢になりかねないんじゃないですか?」
かつて、ジャックが上司であり、エミリアは部下であったが、今では殆ど同等となっていた二人は、かなり気さくな口調で話すようになっていた。だが、エミリアの方は癖が抜けず、未だに丁寧な話し方のままであった。
「問題ない。既に手は打ってる。それに、アベルが後方を撹乱してくれてるだろうから、直ぐには援軍が来ることはないだろう」
そう説明し、ジャックは少し意地悪な笑みを浮かべ、言った。
「エミリアの方も、交渉上手くいってないんじゃないか?町長が非協力的なままじゃないか」
「町長さん、熱烈な総帥支持者でしてね。話しにならないんですよ」
エミリアは、少しムッとした様子で口をとがらせる。
「なら交渉に拘り続ける必要もないだろ」
「ええ、明後日までに折れなければ拘束するつもりです」
ジャックは「そうか」と頷き、座っていたソファから立ち上がった。
「じゃあ。そろそろ前線の陣地に戻るよ」
「ええ。お気を付けて」
「お互い、全力を尽くそう」
ジャックが手を振り、エミリアは小さく敬礼をする。
二人は、頷き会い、最後に声を会わせる。
「「自由連合軍の勝利のために」」