帝暦1933年11月20日
「何が起きている!!」
リベラシュタットのある州に隣接した、ダメルサン州の親衛隊司令官を勤めているエリック=ハイドリヒは、突如ふりかかった異常に、思わず叫んでしまった。
「リベラシュタット発の反乱が、既に州を越えて、この州都に迫ってきています!駐屯していた国防軍部隊は次々に潰走!親衛隊もです!」
叫んだところで状況は改善されるはずもなく、絶望的な報告が上がるばかりで、ハイドリヒはますます苛立ちを募らせていった。
そんな彼に、止めがふりかかる。
臨時ニュースを流し続けていたラジオ電波が突然乱れだし、キャスターではない何者かの音声が流れ始めたのだ。そして、その声は、ハイドリヒの、いや、レオン帝国を支持する者の神経を逆撫でする宣言を行った。
『我々は、自由連合軍。数年前、深夜にお邪魔し、レオン帝国に宣戦布告をした組織である。知っている者は少ないだろう。しかし、我々は今日まで、戦いを続けてきた。人を人とも思わぬ、最悪の国家、レオン帝国を、それを支配する、悪魔、トイフル=シュナイダー政権を打倒するために。我々は行動を起こした。既に帝国領の一部は我々が解放している。そこで、改めて宣戦布告するレオン帝国に!そして、我々は、宣言する!あらゆる人種、民族、宗教によって差別されることのない、新たな連邦国家"民主国家連合"の樹立を!我々は、全ての虐げられし者の味方だ!』
そこで放送は途切れ、再びニュースへと戻る。
「何を勝手な...!!」
血管が浮き出るほどに怒りの表情を浮かべたハイドリヒは、感情のまま部下に命じる。
「州の総力をあげて、奴らを止めろ。いや、殲滅しろ!!どんな手を使っても構わん!ふざけた連中に、裁きの鉄槌を食らわせるのだ!」
ー ̶レ̶オ̶ン̶帝̶国̶ 民主国家連合 臨時首都 リベラシュタットー
「これでヨアヒムも蜂起するはずだな」
放送を終えたアベルに、ヴェルナーがそう声をかける。
「ええ、これで、我々が一挙に有利になる」
「このまま一部部隊を南下させ、ヤゲノやヘーゲリアを解放し、味方を増やそう」
「奴等は、帝都方面を重点的に守るでしょうしね」
そんなことを話している二人の戻ったらに、エミリアが慌てた様子で走ってきた。
「エミリア?アーネンブルクにいたはずじゃ?」
「申し訳ありません!」
かなり気心の知れた仲となり、こうした他人行儀な物言いをすることなど無くなっていた。
故に、異常が起きたと直ぐに彼らは悟ることが出来た。
「何があった?」
「アーネンブルクで、親帝国の町長を筆頭に、蜂起が...」
「何!?」
その意味するところは、単純である。
前線補給基地の喪失。
早急に手を打たねば、数日で前線に影響が及ぶであろうことは明らかであった。
「説得は失敗したので、拘束していたのですが、親帝国市民の一部が武装し、役場を襲撃、町長を解放してしまったのです」
「そうか...」
「申し訳ありません..」
「いや、駐屯部隊をケチった我々の失策だ。すまない」
なおも謝罪するエミリアに、アベルはそうフォローし、ヴェルナーに向き直る。
「武力鎮圧するわけにもいきませんしね」
「少なくとも手荒な真似、発砲なんかをするわけにはいかん」
「元警官の者達に当たらせますか」
「それが一番良いだろう」
二人の意見が一致する。
「エミリア。反乱の規模はどの程度だ?」
「住民の2割近く、2000人近くが蜂起しています...」
ーレオン帝国 アーネンブルクー
「町民諸君、感謝する!帝国に反旗を翻す愚か者共に囚われた私を救出してくれた諸君は、正しく忠実かつ愛国的な帝国臣民である!さあ!賊を殲滅し、町に秩序を回復するのだ!帝国万歳!総帥万歳!」
町長の演説に、総帥支持者の町民達は、興奮し、士気を大きく上げていた。
「裏切り者に死を!」
「劣等になんて支配されたくない!」
「レオン帝国に勝利を!!」
口々に叫ぶ町民達、自由連合軍の部隊は、付近で唯一どうにか維持している警察署に籠り、その様子を眺めることしか出来ずにいた。
「応援は?」
「鎮圧部隊を向かわせると連絡が」
「発砲禁止なんてどうかしてる」
「我々の理念を私を忘れた訳じゃないだろう?」
「分かってる!しかし...」
一触即発、いつ衝突が起きてもおかしくない状況で、発砲を原則的に禁止されている彼らは、戦々恐々と、ただ待つことしか出来ず、苛立ちを募らせていた。
「前線に向かったと思ったらまたアーネンブルクに戻るとはな」
ジャック=コワルスキーは、部下を引き連れながら、そう苦笑した。
「隊長、発砲は禁止なのですよね?」
「盾、水、警棒以外の使用は原則禁止だ。向こうが発砲や、その他危険物を用いてきた場合を除いてな」
ジャックは部下に説明しながらも、この任務の難しさに内心嫌な予感を覚えていた。
「とにかく、やれるだけやるしかない」
そうして、援軍として派遣されたジャックらが、到着すると、町には既にバリケードが貼られていた。
「早いな」
「しかし突貫なのでしょう。簡単に崩せそうですね」
「攻撃を受けるかもしれん。注意して進め」
子供騙しのようなバリケードを少しずつ
解体し、人が通れるスペースを作った彼らは、そのまま町に侵入する。
「誰もいませんね」
「待ち伏せではなかったのか」
少し拍子抜けしつつも、ジャックらは慎重に町の中心部へと向かっていく。
特に妨害を受けることなく広場に到着した彼らを、今度こそ町民が待ち構えていた。
「敵が来たぞ!!」
町民達は、ジャックらの存在に気付くと、口々に叫びながら、投石などを行い始めた。
「石!?」
「気を付けろ。打ち所が悪けりゃ死ぬぞ」
ジャックは部下に注意し、自身もヘルメットをかぶり直す。
「全員鎮圧にかかれ!!」
相手は2000人、対してジャックらは先遣隊であり、200人にも満たない人数であった。
故に、時間稼ぎが本分であるが、わざわざそらを町民達に親切に教える意味はない。
人数の少なさを侮り、町民達を本気にさせないための方策であった。
こうして、彼らは、鎮圧に乗りだし、町民らと衝突した。
投石を行ってくる住民に対して、一人一人拘束する以外の手段を持たないジャックらは、当然のように不利な形勢となった。
だが、警察署に籠っていた人員の応援もあり、持ちこたえることには成功していた。
やがて、徐々に町には援軍が集まり始め、数的不利も少しずつ解消していった。
その日の夜には殆ど蜂起は鎮圧され、多くの拘束者を出しながらも、アーネンブルクの支配圏を、"民主国家連合"が取り戻すことに成功した。
こうして、"民主国家連合"初の国家的危機は乗り越えられたのだった。
しかし、この先には、もっと大きな、強力な試練が待ち受けている。
アベルらが、手段を選び続けることが出来るのか、今はまだ、誰にも分からない。