ーレオン帝国 帝都 レオンスブルクー
「戦況は?」
シュナイダーが苛立ちを抑えながら、口を開く。
「現在、帝国本土への進撃は止まり、反乱軍は、ヤゲノ、ヘーゲルラントの方面へと進軍しております」
「其方に回せる戦力は?」
「残念ながら、治安維持部隊と沿岸警備の戦力のみです。本土防衛に大きく戦力が割かれてしまっているので」
部下の報告に、シュナイダーは大きくため息をついた。
親衛隊の暴走によって、カルメリアを戦争に引き込んでしまったことで、戦力にもはや余裕がなくなった時に、大規模な反乱が発生。
更にその反乱軍は帝国人、非帝国人区別せず協力している組織であり、どこで溜め込んだのか、大量の兵力でもって、一挙に帝国の領土を占領したのだ。
彼の精神を追い詰めるには十分すぎるほどであった。
シュナイダーは、ともすれば感情的になりそうな心を必死に宥めながら、対応策を、脳をフル回転させ、考える。
だが、そう直ぐには対応策など思い浮かばない。
苛立ちばかりが募っていく。
そんな彼に、もう一つの報せがもたらされた。
ヨアヒム=ドーペルトの離反。
その報告を聞いたシュナイダーは、顔色を蒼くさせた。
もはや、怒りを発露する余裕すらなくなっていたのだ。
しかも、彼らが蜂起したのは、北部の街。
下手をすれば、アグロムノイとの前線が遮断され、多くの部隊が補給を失う可能性が出てきたのだ。
「回せるだけの戦力を回して、どうにか防戦しろ。死守だ。無断での撤退は禁ずる」
蒼白となった顔色で、シュナイダーは部下達に、そう、どうにか命じた。
彼は、部下達を下がらせ、一人になると、よろめくようにして椅子に崩れ落ちた。
「バカな...何が起きている...」
そして、ハッと何かを思い出したのか、飛び上がり、受話器を手にした。
『どうされましたか?進捗の定期報告までは一週間ほどありますが』
「予算ならいくらでも回す。もっと早く出来ないか?」
あれさえ完成すれば、勝てるのだ。
そうだ。あれさえ。
シュナイダーは受話器の向こうの相手、ハルトマンの返答を、縋るようにして待った。
『現状のスピードが限界に近いです。何かお急ぎになる理由が?』
「さすがに君も知ってるだろう。カルメリアとの戦争になったんだ。奴らに対抗するためには、それを完成させるしかないんだ」
ハルトマンには、反乱のことは伝えなかった。
ハルトマンら研究チームが裏切るようなことがあれば、シュナイダーは完全に終わりである。
故に、そのリスクを減らすために、彼らには情報統制を敷いているのだ。
『なるほど。まあ、出来るだけ急ぎますが、最低でもあと半年以上、一年程度は必要ですよ』
「分かった。出来るだけ急いでくれ」
受話器を置いたシュナイダーは、大きく息を吐いた。
一年。どうにか一年もたせる。
そうすれば、私の勝ちだ。
僅かに気勢を取り戻したシュナイダーは、再び部下を呼び出し、今後の方針を命じるのだった。
ー民主国家連合 臨時首都 リベラシュタットー
南部や帝国本土方面は固く、戦線が膠着しつつあることが幹部達の集う、最高評議会にて報告され、参加者達は、渋面を浮かべる。
「我々は装備の数も少ない。時間がかかればかかるほど、我等が不利になるぞ」
「そうだ。大反乱の時と同じじゃないかこれじゃあ」
口々に不安が飛び交う。
「問題ありません。その為の、民主国家連合であり、その為のヨアヒム=ドーペルトとの協力です」
アベルは断言する様にその言葉を発し、議場を鎮めた。
「ヨアヒムの軍は、我々よりも圧倒的に多くのグラディエーターを所持しています。そう簡単に負けはしないでしょう。そして、歩兵主体の我々よりも、グラディエーターや戦車のあるヨアヒムの軍を鎮圧することが優先されるはずです。そうなれば、此方は動きやすくなります」
アベルの説明に、ある幹部が疑問を呈した。
「だが、歩兵ではグラディエーターには歯が立たない。多少兵が減ったところで、南北どちらに進んでも絶望的ではないか?」
「そうですね。南方には沿岸を守る帝国軍、北方には帝国本土を防衛する帝国軍がいます。どちらにせよ苦戦するでしょう」
「ではどうするのだ?まさか、西部にでも向かうと言うんじゃないだろうね」
参加者達がざわめく。
「そのまさか、です」
アベルは、ニヤリと笑ってみせた。
二日後
ーレオン帝国 西部第一総督府 旧ウェスティンレオーネ合同帝国 軍司令部ー
「攻撃だと!?新たな反乱か?いや、連合王国の反撃か!?」
「いえ、民主国家連合です!奴等!西進を開始した模様!」
司令官は、部下の報告に、血の気が引く思いをしていた。
先日、多くの戦力を北方へ反乱を起こしたヨアヒムの軍を抑えるために向かわせたばかりだったのだ。
つまり、今この総督府は手薄。
民主国家連合は南進を企図していると、報告があったからこその判断だった。
しかし、それに反して奴等は西へとやってきているという。
まさか、ヨアヒムの軍は単に民主国家連合の蜂起に呼応したのではなく、協力しているのか?
嫌な予想が彼の脳裏に浮かぶ。
「この第一総督府を落とされるわけにはいかん!最悪の場合、本土と南部の植民地が分断されることになるぞ!」
司令官は、現状ある戦力で遅滞戦闘を行い、北方へ向かわせた兵力を此方に戻すよう命じた。
ー民主国家連合 飛空船 Freiheit内部ー
「上手く行きますかね?」
「まあ、まともな司令官なら此方の狙いに気付いてはいるだろう」
アベルは、民主国家連合の軍事組織となった自由連合軍の西進を指揮、補助するために、飛空船に乗り込んでいた。
「そうなると、結局苦戦するのでは?」
「少なくとも、あと二日は、西部は手薄なままだ。多くの戦力を北方に向かわせたとの情報があるからな」
「その隙に、というわけですか」
「そういうこと。それを可能にするためのこれ、Freiheitさ」
自信と余裕のある笑みを浮かべ、アベルは命じる。
「さあ。第一総督府の首府へ迎え。我等が先鋒となり、奴等の体勢が整う前に、陥としきるのだ!」