土煙が晴れた隙間から、ジャックは、一機のグラディエーターが、真っ直ぐ自身の機体へと向かってくる様子が見えた。
間に入るように突入した、何機かのグラディエーターは、一瞬にして蹴散らされてしまう。
「こっちに突貫して来ます!」
同乗者が身体を震わせる。
「この!」
ジャックは、その機体に向け光線を放ったが、避けられてしまった。
「早い!?」
いや、幾ら早くとも光線が発射されてから避けるなど不可能なはず。
此方の動きを読んでいる!?
ジャックは、慌ててグラディエーターを後退させる。
ふと、嫌な予感がし、機体を左に避けさせると、光線が右側面を横切り、右側面に取り付けられている砲を破壊していった。
「グラディエーターの動きには癖がある」
コックピット内で、ハイドリヒはぶつぶつ呟きながら、グラディエーターを操作していた。
「どちらに動くか、光線を撃つか否か、慣れれば直前の動きからある程度は予測できるようになる」
「せめて、奴等を一人でも多く!」
「パイロットの熟練度が、段違い、というわけか」
ジャックは殆ど直感で何発かの光線を避け、背筋に冷たいものを感じながら、出来るだけ味方の多い場所へと誘導していた。
「数で勝つ。それしかない」
再び光線。
今度は、機体に僅かに直撃してしまい、コックピットは大きな衝撃を受けた。
「ぐっ。大丈夫か?」
「はい。なんとか..」
頭を打ち付けた同乗者の無事を確認しつつ、ジャックは再び逃げていく。
「グラディエーターに出来る限界の動きをしてやがる」
キャタピラで走っているはずの相手の機体は、まるでタイヤでもついているかのごとく軽やかに動く。
このままでは不味い。
ジャックがそう思った時、敵機は突然スピードを上げて、距離を極限まで縮めてきた。
敵の砲が、ジャックらの目の前に現れた。
「くそ...」
「はははは!捉えた!劣等と叛徒共に、死を!」
ハイドリヒは、なにかが吹っ切れたように狂気的な笑いを上げ、発射ボタンに手をかけた。
光。
爆音。
目の前に、赤く染まった機械と、赤黒い塊が飛び散る。
ジャックは、コックピットの目の前で起きた出来事を、唖然として見ていた。
死を覚悟した直後に、視界に飛び込んできたものが、それだったからだ。
光線。
そして、爆発。
再び空を見上げたジャックは、空に大きく跳躍し、飛空船へと戻っていく影に気が付いた。
「間一髪~」
地上から強敵との報告を受けたアベルが、飛空船から飛び出し、その機体を狙いに行き、無事に、油断したことろを叩けた、というわけだ。
指揮官を失う前から既に指揮などあってないようなものとなっていた帝国軍であったが、全体の何割かは、ハイドリヒに付いていき、自由連合軍との戦闘を行っていた。
だが、指揮官を失い、彼らの多くは戦意喪失をしてしまう。
元々、飛空船によって折られかけていた戦意は、彼らの部隊で最強となっていた指揮官の死でポッキリと折れてしまったのだった。
こうして市外での戦いに決着は付いたが、まだ市内には総督の軍が残っていた。
「市内に突入するぞ」
ジャックは、未だ、先程の強力な敵機によって少し混乱している部隊に指示を出すことで、統率を回復させた。
『ジャック』
そこに、アベルからの無線が入った。
「アベルか。さっきは助かった。ありがとう」
『いつかの借りは返したぞ』
アベルの笑いながら言う声を聞き、ジャックも笑みを浮かべる。
「で、どうした?」
『ああ、確認だ。この先はお前たちだけで問題ないか?援助が必要なら残るが』
ジャックは戦場となった一帯を見渡し、自軍の残存兵力を確認する。
「問題ない。さっきの奴に何機かやられてしまったが、それ以外は大した被害じゃない」
『了解。では、我々はこの街に戻りつつある敵援軍を叩きにいく』
「承知した。....」
無線を切ろうとしたジャックだったが、ふと手を止める。
『どうした?』
「いや、こういう時に何か掛け声でもあったほうが締りがあるんじゃないかってな」
『はっは。何だそんなことか。まあ、俺達は自由を掲げてるんだ、各々自由にやってもいいんじゃないか』
「確かにな」
『まあ、そこは気ままに行こう』
アベルの笑い声と共に、無線は切れた。
「よし。行くか」
そうして、ジャックは部下らを率いて、市内へと突入していくのであった。
ー飛空船 Freiheit内部ー
「さあ。行こうか」
アベルは、襟を正し、乗員達に指示を出す。
「我々は、この街に戻ってこようとする敵軍をこの飛空船で叩きに行く。そして、連続して次の作戦へと向かう」
乗員が僅かにざわついた。
何せ、連続して作戦に向かうとは聞いていなかったからだ。
「何処かから漏れるわけにはいかない作戦だったからな。今ここで発表することにしたんだ」
アベルはそう説明し、一息置く。
「我々は、MdVの本社を制圧しにいく」
ーレオン帝国 第一総督府首府近郊ー
「急げ!叛徒共が首府を制圧する前に戻るのだ!」
北方で発生したヨアヒムの反乱に対処するべく移動していた、総督府の軍は、緊急の命令を受けて、急ぎ首府へと戻っているところであった。
しかし、彼らが、首府へと帰り付くことは叶わない。
彼らの頭上に、巨大な機影が空を覆い尽くすようにしてやって来たのだ。
「なんだ、あれは...」
「飛行船...?」
ざわつく兵達の頭上に、光線が落ちてきた。
「何が起きている!?」
轟音によって耳が聞こえなくなり、土煙によって視界が失われるなか、司令官は現状を把握しようと、声を張り上げる。
だが、答える者はいない。
仮にいたとしても、彼の耳には届かなかったであろう。
辺りには悲鳴、いや、呻き声が充満していたが、その司令官は耳をやられたため、それに気が付くことはなかったのだ。
そして、その司令官の上にも無慈悲な光線は落ちる。
数発の砲を撃ち込んだ後、飛空船は、その場を、地上の阿鼻叫喚の地獄を嘲笑うかのように猛スピードで去っていくのだった。
「さあ、行こうか。MdV社は、帝国に武器を供給する、今となってはむしろ邪魔な存在。用済みとなった死の商人には退場していただこう」